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第4話「検体」※
勢いよく開かれた扉が壁にぶつかり、壊れたのかと思うほど大きな音を立てた。僕たちは凍りついたように、ただ見つめ合っていた。しばらくして静寂が訪れると、研究室の中には、僕とグラーツ部隊長の荒い息遣いだけが響いていた。
「ヴァイス魔法薬士様……いったい……何が……」
ベッドの上に転がる試験管、乱れた服、床に散った体液。現場の惨状を目にした彼は、その場で硬直していた。
僕が説明しようと体を僅かに動かした瞬間──ズクンッ、と下半身がひどく疼いた。
「はぁ……うっ……止められないっ……」
再び手をゆっくりと動かすと、消えかけていた欲望が急激に膨らみ始めた。見られていると分かっていても、手を止めることなど僕には不可能だった。
「ヴァ、ヴァイス……様?」
グラーツ部隊長の困惑した声が耳に届くが、答えることはできなかった。精を吐き尽くしたい。ただ、それだけが僕を突き動かす。
「はぁ……あっ……見ないでっ……くれ……んんっ……」
「っ…………」
汗なのか涙なのか、自分でもわからない雫が、ポタポタと太ももに落ちている。手の中で燃えるように脈打つ陰茎は、すぐに限界を迎えそうだった。
「あっ……ぐぅっ……あああっ……イク……イっ……!!!」
腹の奥がグッと収縮したかと思うと、先端から勢いよく精が放たれた。二度目の射精は床に落ちることはなく、僕の下半身に垂れていく。
「……はぁ……はぁ……」
未だに呼吸は荒く、心拍数も高い。連続で吐精した僕は、感じたことのない解放感で、全身から力が抜けていた。
──信じられないほど気持ちがよかった。頭に浮かんだのは、それだった。激しい性的興奮と、制御できない射精感。この薬の中毒性に、納得がいった。
ようやく戻った思考で魔力測定器を確認すると、数値が異常なほど低下していた。そして次の瞬間、急激な寒気が僕を襲った。
「うっ……」
まずい……このままでは、倒れ…………
──バタッ
「ヴァイス様!」
ベッドに倒れたと同時に、グラーツ部隊長の声が聞こえた。
あぁ、彼に何の説明もできていないな……。そこまで考えて、僕の視界は暗転した。
──コポコポ……
お湯が沸く音が聞こえ、薄く目を開くと見知った天井が目に入った。ここは……僕の研究室。気を失っていたのか……?
僕はゆっくりと上体を起こし、現状を把握しようとあたりを見まわした。床の汚れはなくなり、服装も整えられている。どうやら、グラーツ部隊長が綺麗にしてくれたようだ。
その時、研究室の扉が開き、タライを持ったグラーツ部隊長が現れた。
「ヴァイス魔法薬士様、起きたのですね。ご気分はどうですか」
彼はベッド脇の丸椅子に腰掛けると、サイドテーブルに湯気が立つタライを置いた。きつくタオルを絞ると、そのまま僕に手渡す。
「温かい……」
タオルで目元を覆うと、体が急に楽になったように感じた。
「体調はそこまで悪くないよ。どうやら、魔力の放出量が多すぎて倒れてしまったようだ」
今は正常値に戻った魔力の数値を眺めながら、彼を安心させるように笑ってみせた。
「それと……後始末をさせてしまったようで、申し訳なかった」
「いえ、それは…………本当に……お気になさらず」
歯切れの悪い彼に、僕は申し訳なさを感じた。やはり、不快な思いをさせてしまったのだろう。
そういえば、彼はなぜここにいるのだろうか。
「グラーツ部隊長はなぜこんな時間に魔法薬研究棟に?何か急ぎの用でもあったのかな?」
僕が尋ねると、彼は胸ポケットから用紙を一枚取り出した。
「提出した申請書に不備があったとのことで、訂正書類を持ってきました。しかし、こんな時間になっていることに気が付かず……。あなたなら、まだ研究室にいるのではないかと思い、来たところでした。それよりも……」
彼はサイドテーブルにある小瓶を指差すと、表情を険しいものに変えた。
「この小瓶を私は見たことがあります。これは、催淫剤ではないですか?」
彼の問いに、何と答えればいいか戸惑った。催淫剤について隠す必要はあったが、騎士の彼に隠し通せることではない。僕は素直に頷くことにした。
「その通りだよ。これは第二部隊の押収品だったものだ」
「もしや、これを服用したのですか」
彼の表情が一層険しくなると、部屋の空気が張り詰めた。彼は何か勘違いをしているようだ。
「服用はしたけど……理由を説明させて欲しい」
僕はできる限り穏やかに声をかけた。
「まず、催淫剤を扱っているのは仕事の一環で、違法行為をしたわけではない。そして、服用理由は、試薬の有効性についてのデータを取るためだよ」
「それは一体どんな仕事なのですか!こんな危険な行為を一人で……。そもそも、あなた自身で試す必要はないのではないですか?」
普段穏やかな彼が声を荒立てたことに、僕は一瞬体をこわばらせた。しかし、僕にも譲れない事情がある。手に力を込めると、グラーツ部隊長に向き直った。
「そんなことはない。僕が検体になる必要性はある。いや……“僕”でないと駄目なんだ」
僕の言葉に、彼は眉をひそめた。
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