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第7話「会いにいく口実」ーヴァルター視点ー ※

王宮騎士団第三部隊。主に、王都周辺の魔獣対策に特化した部隊だ。第一、第二部隊とは違い、魔獣を相手にしているこの部隊は、武骨で鍛え上げられた男たちばかりだ。そして、任務は危険を伴うため、爵位が低い者や平民出身者が多く在籍している。 今年、前部隊長が昇進したため、副隊長を務めていた俺が隊長に就任することになった。戦うことしか取り柄のないこの俺は、隊長のような重い役職は性に合っていないが、周りの手助けを受けながらなんとか務めている。 ──コンコン 「入れ」 「あー!やっと見つけた!ヴァルター、どこ行ってたんだよ。もしかして、また魔法薬士様に会いに行ってたんじゃないだろうな?」 執務室に入ってくるなり副隊長のエルンストが口うるさく問い詰めてきた。この男とは同期で、気心が知れた間柄だ。騎士としての実力も十分で、部隊随一の魔法騎士でもある。そして、この端正な見た目から女性人気が凄まじい。奥さん一筋なところも人気の理由なのだとか……本当に気に食わん。 「書類を届けてきただけだ」 「それはお前の仕事じゃないだろ。副官の仕事を取るんじゃない。お前の仕事はこっちだろ」 そう言って、エルンストは俺の目の前に大量の書類を大袈裟に置いた。 「……多すぎないか?」 「サボってるからだろ」 書類をパラパラとめくってみると、どれも今度行われる実地訓練の計画書だった。はあ、これ全部に目を通すのか……。訓練の時間も削られるな。 ──コンコン すると、再びノックが聞こえた。 「入れ」 「失礼します。あ、副隊長よかったですね。隊長見つかったんですね」 「そうなんだよ、フィン〜。こいつに言ってやってくれよ、仕事しろって」 入って来たのは副官のフィンだった。エルンストはわざとらしくフィンに縋っている。 「だから、書類を届けに行っただけだ」 「あ、その魔法薬の書類なんですが、不備があったらしく……。再提出してほしいと、魔法薬士の方が来られて……」 「!!魔法薬士?誰だった?」 「え……誰かは、わかりませんでしたが……小柄な女性でした」 ヴァイス魔法薬士様がわざわざ来てくださったのかと思ったが、どうやら助手のミレイユさんだったようだ。俺は、乗り出していた体をゆっくり椅子に沈めた。 「な〜んだ、お前の魔法薬士様じゃなかったね……あっ、痛っ!」 バカにしたように笑っているエルンストに腹が立ち、腕を強めに叩いた。 「隊長は魔法薬にとても詳しいのですね。魔力増強剤の書類は隊長が管理していると聞いています」 「…………そうだ」 「違うよ、フィン。ただの職権濫用だよ」 「おい」 その言葉に俺は鋭い視線を投げたが、エルンストは面白そうに笑っていた。 「ヴァルターが魔法薬に興味を持ったのなんて、一年前からだからね。それまで戦闘で使える魔法なんて、魔法壁しか覚えてなかったんだ。信じられる?怪力だけで副隊長にまでなったんだよ?」 「え……でも、大剣に魔法を付与した大技を使ってますよね?」 「それは、ど〜しても魔力増強剤を使いたくて、この一年、死ぬ気で訓練したんだよ」 ね?と、エルンストは俺に振り返った。……こいつ、完全にバカにしている。だが、全部事実なので言い返すこともできない。 一年前、ヴァイス魔法薬士様と出会い、彼の経歴を調べ、その偉業に驚愕した。そして、騎士団でも使用している魔力増強剤の開発者だと知ってから、その魔法薬にまで特別な感情を抱くようになってしまった。それからは、彼と話がしたい一心で魔法薬学を学び、魔法の訓練にも打ち込んだ。我ながら、彼への執着が重い……重過ぎる。 「……そういうわけだ。だから、魔法薬の訂正書類は俺が届けてくる」 俺が、フィンから書類を受け取ろうとした時だった。 「おいおい、お前これから隊長会議だろ?書類なんか届けてる暇ないぞ」 「…………会議は、エルンストが出ろ」 「無茶苦茶言うな!とにかく、その書類は後回しだ。フィンも仕事に戻ってくれ」 「あ!フィン、書類は置いていってくれ!」 俺はエルンストに小突かれながらも、なんとか魔法薬の提出書類を手に入れることができた。 そして、隊長会議が終わると、空には星が瞬く時間になっていた。 魔法薬研究棟の入り口に立ち、俺はヴァイス魔法薬士様の研究室の明かりを見上げた。やはり、今日もまだ仕事をしているようだ。 俺は、口実に使う書類を胸ポケットに入れて、彼の研究室へ向かった。魔光ランプがふんわりと灯る薄暗い廊下を進むと、彼の研究室の扉が見えてきた。 すると、僅かに人の声が聞こえてきた。近づくにつれ、その声は苦しげなものに変わっていく。もう少しで扉に辿り着く、その時だった── 「……あ、あああああっ!」 切羽詰まった彼の叫び声が、部屋の外にまで響いてきた。 「……っ!?」 走り出した俺は、彼の研究室の扉を力任せに開いた。 「大丈夫ですか!!!」 部屋に飛び込むと、彼はベッドに座っていた。しかし、その光景がしっかりと目に入った途端、心臓がドクンッと大きく脈打った。 ベッドの上の彼は、服を乱し、頬を紅潮させ、潤んだ瞳でこちらを振り返った。 「グラーツ部隊長……」 勢いよく開いた扉が壁にぶつかり、壊れたのかと思うほど大きな音を立てた。俺たちは凍りついたように、ただ見つめ合っていた。しばらくして静寂が訪れると、彼の苦しげな息遣いが耳に届いた。 「ヴァイス魔法薬士様……いったい……何が……」 ベッドの上に転がる試験管、乱れた寝具、白衣をはだけさせた艶かしい姿の彼。現場の惨状を目にした俺は、息を呑んだまま硬直していた。 すると、彼が突然体を震わせ悶え始めた。 「はぁ……うっ……止められないっ……」 「ヴァ、ヴァイス……様?」 自分の体を一心不乱に刺激し続ける彼の姿に、俺の頭は完全に停止していた。ただ、視線だけは彼から離すことができずにいた。 「はぁ……あっ……見ないでっ……くれ……んんっ……」 「っ…………」 恥ずかしそうに訴える彼の言葉は、俺の体を熱くさせるだけだった。卑猥な水音と共に激しくなる手の動きから、彼がもう限界寸前なのだと、嫌でもわかってしまった。 「あっ……ぐぅっ……あああっ……イク……イっ……!!!」 俺の目の前で射精した彼は、ベッドに座ったまま肩を上下に揺らしている。 その一連の光景をただ見つめながら、俺はいまだ研究室の入り口から動けずにいた。ただ、体は燃えるように熱く、喉が詰まるような息苦しさを感じていた。彼に声をかけることもできずに、呆然と立ち尽くしていると、彼の体がふらりと揺れた。 「うっ……」 ──バタッ 短く苦しそうな声を上げたかと思うと、彼の体はベッドの上にパタリと倒れた。その姿を見て、ようやく呪縛が解けたように体が動き、慌てて彼の近くに駆け寄った。 「ヴァイス様!」 ベッドに倒れた彼と、一瞬だけ目が合ったような気がした。しかし、彼はそのまま瞼を閉じて気を失ってしまった。

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