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第3話 燃え上がる職業魂
「ええと……何か?」
「あ……申し訳ありません。この歳まで、『迷い子』を見たことがなかったので、つい」
「ああ、なるほど。こちらの世界の皆さんは容姿が華やかだから、僕みたいに地味な人間は珍しいですよね」
「地味だなんてとんでもございません。お噂通り、清廉かつ、知的な空気をまとっていらしゃる」
「恐れ入ります」
お客様や歴代の友人たちからは、俺の容姿はけっこう評判がよかった。
サラサラの黒髪と白い肌は清潔感が溢れ、涼しげな目元が爽やかだとよく言われた。女の子にはかなりモテたし、大学時代は女の子を集めるために合コンに招集されることもたびたびあった。
でも、俺の恋愛対象は男だ。集められた可愛い女の子たちよりも、合コンに誘ってきた男友達と飲めることにメリットを見出していた。
とはいえ、酔っ払った友人と勢いで一線を超えてしまう――といったような、BL的ラッキースケベチャンスは俺には訪れず、恋人がいたことは人生で一度もない。
それはそれとして、ひとつ気になるワードがあったぞ。
「ところで、噂……というのは?」
俺の問いかけに、ローゼン氏はキビキビ返事をした。
「ハリス様からお話を伺いました。リオン様のおかげで息子の縁談が順調にまとまったそうで、ハリス様は大変お喜びでしたよ」
「あ、お知り合いなんですね」
「ええ。王妃殿下とハリス様の奥様は、女学校時代のご学友なのです」
「そうでしたか。じゃあ、今回のオルヴァ様の婚活のお話はハリス様から?」
「その通りです」
なるほど、異世界でも口コミの威力はすごい。奥様方の間で俺の婚活手腕が話題になったってことか。
ハリス侯爵のご子息、ラミール様にはすでに思い人がいたから話が早かった。
たまたま教会を訪れていたラミール様が、「フラれるのが怖くてプロポーズできないんだよね」とポロリとこぼし、つい俺の婚活コーディネーター魂に火がついてしまったのがきっかけだった。
ラミール様はとてもおとなしい性格で、最後のひと押しができない。さらにはお相手のご令嬢もとても慎ましやかな性格だった。
プロポーズできないご令息と受け身なご令嬢。俺はただ、それぞれからさりげなく結婚の意志があることを確認し、プロポーズの場を設けただけだ。
ハリス侯爵が開催したパーティの日にご令嬢をお誘いし、メイドさんたちに協力してもらって会場をいつもよりロマンティックな雰囲気に仕上げ、ラミール様の背中を押す。それで二人はうまく行った。
そういう事情なので、俺は特段すごいことをしたわけじゃない。多少の図々しさを備えた仲人気質のおばちゃんがいたら、あっさりまとまった話だろう。この世界の貴婦人はそういうお節介なことはしないのかもしれないな。
――日本じゃお客様から得たデータがあったからサポートしやすかったけど、王子様のデータはひとつもない。ずっと外国にいたみたいだし、まずは情報収集が必要だな……
「あの、オルヴァ様はどういうお方なのでしょう。王子様なら、ご令嬢たちに大人気なのでは?」
「………………百聞は一見にしかず、でございます」
「はい?」
「まずはお会いになってみてください。オルヴァ様と会話が成立しなかった場合は、わたくしが通訳に入りますので」
「? はあ」
異世界にきてことわざを聞くとは思わなかった。いや、そんなことはどうでもよくて……
「会話が成立しないというのは? ……あ! ずっと外国で過ごされていて母国語が苦手でいらっしゃるとか?」
「言葉は通じます。問題なく」
「え? じゃあなんで……」
「こちらのお部屋です。わたくしは外に控えておりますので、何かありましたら声をかけてください」
「はあ……」
豪奢な装飾が施された観音開きのドアの前で、ローゼン氏がピタリと足を止めた。
俺の頭上にクエスチョンマークが浮かんだままだが、ここまでくると逆に腹も据わってくるもので、逆にオルヴァ様がどんな人物なのか気になって仕方がなくなってきた。
——ボルンさん、第三王子様は野蛮な雰囲気になったとか言ってたな……ゴリラみたいな感じか? それともめちゃくちゃ太ってるとか……?
ここまできたらどんな人でも大歓迎だ。
条件が難しければ難しいほど、俺の婚活コーディネーター魂は燃え上がる……!
「……わかりました。私 にお任せください」
「何とぞ、何とぞ、よろしくお願い申し上げます」
深々と頭を下げるローゼン氏にお辞儀を返し、俺は軽くドアをノックした。……が、返事はない。救いを求めてローゼン氏をチラ見する。
そのまま扉を開けて入ってください、という無言のメッセージが込められた頷きが返ってきたため、俺は厳かに頷き返し、扉をグッと押し開けた。
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