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第7話 人質外交!?

「事情はわかりました。……ああそうだ、オルヴァ様。サルドラド帝国ではどのように過ごされていたのですか?」 「………………」  世間話のつもりだったんだけど……  どうしよう、オルヴァ様の顔色がもっと悪くなってしまった。  重たい空気がずずーんとさらに重くなり、ローゼン氏も白いハンカチで目元を拭っている。……あれ? なんか俺また地雷踏んだ!? 「僕は十二でサルドラドへ行くことになった。一応、帝国学院には通わせてもらっていたんだが、僕はかなり浮いていた。……誰も彼もが僕を見て見ぬ振りだ。友達なんてひとりもできなかった。……そりゃそうだ、他国から送り込まれた王子なんて不審だ。みんな、僕があの国を乗っ取りにきたスパイかなにかだと思ってたんだろう」 「……」  またしてもローゼン氏いわく。  国境を接している隣国・サルドラド帝国の前国王はゴリゴリの武闘派だった。気に入らないことがあれば、すぐにでも戦争を仕掛けるぞと脅しをかけてくるというのである。  対するフィオレアン王国は、サルドラド帝国よりも文明の進化した都市国家だ。他国との交易も盛んで、人々は皆経済を回すための仕事についている。  ゆえに軍事に割けるだけの人材がいないし、港や街を攻撃されてしまえば経済が止まってしまう。  国益のためにも、戦争状態になることだけは防ぎたい——ということで、国王陛下はオルヴァ様をサルドラド帝国に遣わした。それは現代でいうところの、いわば『留学』のような形式で。  第三王子のオルヴァ様をサルドラド王家に預ける。それはつまり、フィオレアンがサルドラド帝国を攻撃することは断じてないというメッセージだ。  オルヴァ様の『留学費』として、多額の金をも受け取っていたサルドラド帝国は、確かにフィオレアンを襲うことも脅しをかけてくることもなくなった。  そして昨年、前国王が没した。  新たな国王は話の通じる若い女王で、オルヴァ様は自由になれた。  長きに渡った『人質外交』も、十年を経てようやく終わりを告げたということだ。  ——なんというか……不憫すぎないか? ずっと人質として極寒の国にいろって言われて、母親の死に目にも会えなかったってことだろ……?  なんだかムカムカしてきてしまい、俺は紅茶を一気に飲み干した。 「正直あまり気持ちのいい話じゃありませんね。第三王子ってことは、上に二人いるってことでしょ? なのに、末っ子のオルヴァ様を差し出すなんて」 「……仕方がないさ。お兄様達は優秀で、すでに王立高等学院に通われていたし……」 「でも……! 優秀ならばなおさら自ら望んで外交に応じるべきでは? 幼い弟の代わりに自分が行くと言えるような人材でなければ、次期国王の器ではないように思いますけどね」 「……」  憤りにまかせてブツブツ文句を言っていると、オルヴァ様の目が吸い寄せられるようにこっちに向いた。  俺はバターの風味が豊かに香るフィナンシェのようなお菓子を頬張っていたが、透き通るように美しい金色の瞳に見据えられ、思わずほぼ固形のままのフィナンシェを飲み下す。  派手に噎せる俺の背中を、オルヴァ様がぎこちなく摩ってくれ、そっと水の入ったグラスを差し出してくれた。 「ごほっ!! ゔえっ…………すみません、またしても無礼な発言を」 「……驚いたよ。そんなふうに考えたことがなかったからね」 「え……? そうですか?」 「それに僕はこの容姿だ。父も母も兄も、皆は金髪赤眼なのに、僕だけこんな……気味の悪い容姿だ。だから母様にも迷惑をかけてしまった」  オルヴァ様は、肩にかかる銀色の髪をそっと摘み上げ、唇に自嘲めいた笑みを浮かべた。 「迷惑、ですか……?」 「幼かったから詳しくは知らないが、メイドたちの噂によると……僕がこう生まれたせいで母様は不貞を疑われたらしい。だからかな、母様は僕を可愛がってはくださらなかったし、ずっと避けられていた。……つまり、目障りな僕がサルドラド帝国に遣わされるのは当然だったってことだ」 「……そんな! 前王妃様の行動がどうあれ、あなたが冷遇されるいわれはないはずでしょう」  俺の苛立ちは収まらない。もりもりとキッシュを平らげ、紅茶を飲み干し、サンドイッチを頬張りながら「ありえないだろ、まったく」と呟いていると、さっきよりも強くオルヴァ様の視線を頬に感じた。やばい、また言いすぎたか?

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