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第10話 好みのタイプを教えてください
五年勤めていた結婚相談所でも、好みの男性クライエントが現れることがあった。
だが、相手ははなからノンケとわかっているし、俺はプロだから惚れたりはしない。その人との面談が入ると若干テンションが上がる……くらいの違いはあったけど。
オルヴァ様の顔はどタイプだけど、相手はクライエントでありこの国の王子様だ。オルヴァ様に惚れるわけにはいかない……ってか、惚れることもおこがましいほどの身分差があるから、俺はただ黒子となってオルヴァ様を支えるのみ。
そう、俺は異世界にあってもプロの婚活コーディネーターだ。公私混同は厳禁だ。
——にしても、カッコいいな~……
自然とニマニマ笑みが溢れる。
眩しそうに目を細めて俯いているオルヴァ様からケープを外し、細かな銀髪をさっさと手で払った。
宙を舞う銀髪が、太陽光を受けてキラキラと輝く。綺麗な髪だし、このまま捨てちゃうなんて勿体無い気がする。
「どうです、オルヴァ様。頭が軽くなって、ご気分もスッキリされましたか?」
「スッキリ……? とんでもない、スースーして落ち着かないし、視界が広くてどこをどう見ていたらいいのかわからない……。だけど皆が褒めてくれるなら、こっちのほうがいいんだろう」
「それはもう! それに、結婚のお相手を探す上で、大事なのは第一印象です。顔が見えていたほうが好印象だとは思いませんか?」
「……好印象、か。……顔が見えていたほうがいいとはいえ、この薄気味悪い金眼が丸見えというのは……」
オルヴァ様の表情が、またしてもどよーんと重くなる。
だが短髪になったオルヴァ様は、半目でどんよりしていてもすこぶる美形だ。醸し出される濃厚なアンニュイ感がたまらない。
うっとり見惚れてしまいたくなるのをグッと堪えて、俺は営業スマイルを浮かべた。
「薄気味悪くなんてありませんよ」
「……本当かな」
「金眼といってもギラギラしているわけじゃありませんし、オルヴァ様の瞳の色は基本的には淡い琥珀色です。光の角度によってたまに金色に見えるといった感じなので、全く不気味じゃありません」
「……そう……か」
オルヴァ様はうっすらと頬を染めて小さく俯き、ポツリと「ありがとう……」と呟いた。だが、礼には及ばないことだ。
俺はただ、見えたままの感想を伝えているに過ぎないのだから。
とはいえオルヴァ様にとっては根深いコンプレックスのひとつのようだし、もっと自信をつけてもらうためにも、今後もしっかり言葉にして褒めていかなきゃ。
髪の毛がすっきりしたところで、俺は次の質問に入ることにした。
「不躾な質問かもしれませんが……オルヴァ様は、どのような女性を人生の伴侶として迎えたいですか?」
「じ、人生の、伴侶……?」
「ご結婚相手が見つかり次第、領地を治めてゆかれると聞いております。いわば、奥様はオルヴァ様にとってのビジネスパートナーとなるお方。婚活のお手伝いするにあたり、オルヴァ様の好みのタイプを聞いておかなくてはなりません」
「…………そ、そんな。僕のところにきてくれる人がいるなら誰でも……そもそも僕は選り好みできるような立場ではないから……」
「いやいやいやいや何をおっしゃってるんですか!? あなたはこの国の王子様ですよ!?」
王子様が選り好みしないでどうするんだ?? 殺到したご令嬢を片っ端から嫁にしていくつもりか? あ、そいうのもひょっとしたらアリなのかもしれないけどどうなんだろ……なんてことをオルヴァ様に問えるはずもなく、俺は営業スマイルで誤魔化した。
「どんな雰囲気の女性が理想ですか? もし容姿などにもお好みがあるのなら、把握しておきたいです」
「……」
……ああ、やばい。せっかく美しいお顔がスッキリ見えるようになったのに、顔がみるみる土気色になっていく。
「じょ、女性とまともに話したことがないんだ。だから好みと言われても、わからない……」
「あ。あー……そうなんですね。それは大変失礼を……」
サルドラド帝国で学校に通われていたようだから、ひょっとしたら多少甘酸っぱい経験がおありかと思ったが、やっぱりなかったか……。俺はややきつくなってきた笑顔を頑張って保ちながら、オルヴァ様の前に跪いた。
「それでしたら、どのような女性と家庭を築いていきたいと思いますか? 理想像でいいので、教えていただけるとありがたいです」
「……そうだな。僕がこの体たらくだから、もし妻になってくれる女性がいるのなら、乱暴な人がいいかもしれない……気弱でだらしのない僕の尻を引っ叩いて、馬車馬のように働かせるような強い人とか……」
「え——と……気が強くてしっかりものの女性をご希望、ということですね。わかりました!」
まあ確かに、オルヴァ様にはそういう女性が合うだろう。年上で、オルヴァ様をリードしていけるような芯の強い女性がいい気がする。俺は脳内メモにしかとそう書き込んだ。
あとでローゼンさんに、結婚相手の候補として挙がっている女性のプロフィールを確認しよう。といっても、姉さん女房タイプの女性ばかりを集めるわけにはいかない。
オルヴァ様は女性に耐性がないようだから、ご自分の好みを理解していただくことも重要だ。そのためには、前回のように複数の女性と一堂に会す場所を設けるのがいいだろう。
——つまり、婚活パーティーを開催することが最も効率がいい。
となると、早急に婚活パーティの準備を進めていかなくては。ローゼンさんに相談して、しかるべき会場を設け、招待する女性たちのプロフィールを早めに確認しておきたい。
俺はそっとオルヴァ様のそばを離れ、ローゼンさんに婚活パーティについて相談を持ちかけた。するとローゼンさん、すぐに「リオン様の思うようにやってください。国王陛下には私からお伝えします」と言ってくれた。
——よし、そうと決まれば、次はオルヴァ様を王子様らしくしていく作業だ。
俄然やる気が湧いてくる。俺はふたたびオルヴァ様のそばに戻った。
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