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第13話 王太子殿下は陽キャ
「アルヴィス・レオンハルト・アンデルスヴァーン、三十五歳。フィオレアン王国の王太子である! 趣味は娘と遊ぶこと、妻とデート、芸術鑑賞、遠乗り、狩りなどなど! よろしく頼む!!」
「よ、よろしくお願いいたします」
部屋の扉をバ——ン!! と開け放って登場した男性は、オルヴァ様のお兄様であり、王太子のアルヴィス様だ。
ローゼンさんが俺をアルヴィス様に紹介してくれ、俺からも自己紹介をした。
緊張のあまり婚活パーティ風の自己紹介になってしまったのだが、幸いアルヴィス様はすこぶるノリがいい人だったらしく、俺に倣って自己紹介をしてくれた。
「オルヴァ!! オルヴァ~~~~!! ああ、こんなに大きくなって……!! 兄は感激だ! 立派になったな!!」
「い、いたい、いたいです、兄上……」
ずりずりずりずり頬ずりをしているアルヴィス様に抱きしめられ、オルヴァ様は戸惑っているような喜んでいるような、微妙な顔で照れている。
癖のある金髪を長く伸ばしたアルヴィス様は、身長一九十センチはあるだろう。肩幅は広く胸板は厚く、筋骨隆々で笑顔が眩しい。それなりにガタイのいいオルヴァ様が華奢に見えてくる。
髪の色は違えどさすがはご兄弟というべきか、顔立ちはなんとなく似ている。だが、表情の作り方がまるきり正反対だ。
「別れた時はこ~~~~んなにちっちゃかったのになぁ……背が伸びたな。私ほどではないが、大きくなった!」
「あ、ありがとうございます……」
「どうしたんだ、そんなにオドオドして! もしや、この兄の顔を忘れてしまったのではあるまいな!?」
「ま、まさか! そんなことは……」
「あっはははは! 冗談だよ、冗談! オルヴァは昔から真面目だったからなぁ~~!」
「あ、あは、あはは……」
——オルヴァ様の笑顔、引き攣りすぎ……見てるのがツライ……
陽キャの権化みたいな兄上様にグイグイ来られて、明らかにオルヴァ様が引いている。
可哀想だから助けてあげたいけど、王族同士の絡みに異世界人の庶民が割って入れるわけもなく、営業スマイルを顔に貼り付けて見守ることしかできない。
「それにしても、第三王子はサルドラド帝国ですっかり獣じみてしまった——と噂で聞いたが、まったくそんなことないじゃないか!」
「っ……け、けだもの……?」
「陛下が集めたご令嬢たちが呆れて帰ってしまったと聞いたが? その様子を見るに、お前のほうが美しいご婦人らにビビって逃げてしまったようだな! うわはは!」
それを聞いたオルヴァ様の顔色が、さぁぁぁ~~~……と青白くなっていく。俺は内心盛大にため息をついて、アルヴィス様をこっそり睨んだ。
——オルヴァ様が気にしていることを笑顔でさらっと言うなんて。気にしていることを、当の本人にぶつけるやつがあるかよ……
アルヴィス様はデリカシーに欠けるところがあるのかもしれない……って、まぁ王族だし、誰からも気を遣われる立場だろうから、そんなもんなのかな。
……てなことを考えてたら、アルヴィス様がくりくりとオルヴァ様の頭を撫で、両頬を手のひらで包んでむにむにし始めた。
「でも、噂はウワサだな! 幼い頃から可愛かったが、オルヴァは今もすこぶる可愛いじゃないか!」
「そんな……僕はもう二十二です、可愛いだなんて……」
「可愛いし、立派になった。……ああ、よくぞ無事に帰ってきてくれたな……!」
不意に、アルヴィス様が声を詰まらせた。
色鮮やかな赤い瞳が見る間に潤み、豊かに伸ばした金色の髪がふるふると震え始める。
「アルヴィス兄様……」
「いや、お前は立派にやってくれると信じていた。……だけど、心配でたまらない夜もあったんだ。……子どもが産まれてから気づいた。幼いお前をあんな野蛮な国にひとりで遣わすなんて、父上は一体何を考えているのかと……っ」
ぐす、と鼻をすすって涙を指で払うと、アルヴィスさまはニカッと快活な笑顔を見せた。そしてまた、ぐりぐりとオルヴァ様の頭を撫でる。
とその時、ふたたび扉がバーン! と開いて、ひとりの女の子が勢いよく部屋の中に駆け込んできた。
「おとうさま! みーつけた!」
「うわっ♡ 大変だ♡ アリスに見つかってしまった!!」
駆け込んできた勢いのまま父親のアルヴィス様に抱きついた小さなお姫様は、真っ赤なワンピースに身を包んだ愛らしい美少女だった。
年齢は四、五歳といったところか。髪の色もウェーブがかった髪の毛も、アルヴィス様そっくりで、利発そうな顔立ちをしている。
「アリス♡ こちらはおまえの叔父貴殿だよ♡ パパの弟のオルヴァだ♡ ごあいさつなさい♡」
「おじさま……?」
「っ……」
娘と遊ぶのが趣味と言っていたアルヴィス様、アリス様が現れた途端に凛々しいお顔がデロンデロンだ。
そして、きゅるるんとした幼子の眼差しに、オルヴァ様が激しく動揺しているのがわかる……
かろうじて引き攣った笑顔を浮かべ、ふるふる震えながら幼女の視線に耐えているオルヴァ様に助け舟を出そうかと思いあぐねていると、アリス様がすっと父親から離れた。
そしてワンピースの裾を軽く摘んで、さすがの身のこなしでお辞儀をする。
「おじさま、はじめまして。アリスともうします」
「アッ……あ、あ、うん、よろしく。僕は、オルヴァだ」
「おにわでいっしょにあそびましょう?」
「っ……!? ぼ、僕と……?」
「うん! はなかんむりつくってあげます!」
アリス様はにぱっと笑顔になり、有無を言わせぬ強引さでオルヴァ様の手を掴んだ。オルヴァ様が気にしている容姿について全く頓着する様子もなく、天真爛漫な笑顔だ。きっと父親に似て、底抜けの陽キャなのだろう。
おっかなびっくりアリス様にひっぱられて庭へ出ていくオルヴァ様を見送っていると、ぐずん……とローゼンさんがまたハンカチで目元を拭っている。ずいぶん涙脆いんだな……
背の高いローゼンさんを横から見上げていると、ぬっと視界が暗く翳った。
「ほう、そなたが噂の『迷い子』か。よく顔を見せてくれ」
「わっ……お、王太子殿下……」
「はははっ、固いな。私のことは、アルヴィスと呼んでくれ」
「あ、は、はい。恐れ入ります」
いかにも王子様らしい王子様に話しかけられて、さすがの俺も動揺してしまった。ビクビクしながらアルヴィス様の物珍しげな視線に耐える。
「黒い髪、黒い瞳……なるほど、珍しいな。年齢は?」
「二十六です。アルヴィス様」
「ほう、もうとっくに成人しているのか。にしては幼く見える」
日本じゃそんなこと言われたことなかったけど、西洋人の目には日本人がやたら幼く見えるらしいから、まあそういうことなのだろう。若く見えるのは嬉しいような気もするけれど、年相応の落ち着きや貫禄がないと言われているような気もして複雑な気分だ。
「コンカツ、という技を持っているらしいな」
「技……」
「おかげでオルヴァが見違えるように身綺麗になったようだ。礼を言う」
「お、恐れ入ります……!」
「表情も悪くない。幼い頃から自分を卑下しがちで、後ろ向きな考えばかりするきらいがあったからなぁ」
「そ、そうなのですか?」
てっきりサルドラド帝国での人質外交に耐えていたからネガティブになられてしまったのかと思っていたが、小さい頃からそうだったのか?
アルヴィス様は腕組みをして、ゆるゆると首を振った。
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