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第20話 盗賊が出る地域?

    「そうっ!! 氷と雪に閉ざされ、常に薄暗い陰鬱としたあの国に、突如として現れた美しき大天使……ッ!! それがオルヴァ様なのです……!! 誰しもがオルヴァ様を遠巻きに見つめ、時に拝み、オルヴァ様がお過ごしになられた教室の空気を吸いに行く……!! 武術の訓練中に倒れる者あらば、優しいオルヴァ様はすぐに手を差し伸べる…………だが、その手を取るわけにはいかないのです!! オルヴァ様は神、神に触れるは禁忌、サルドラド帝国への裏切り行為……!! それゆえ、オルヴァ様はずっとおひとりで……っ、ああっ……美しさは罪……ッ!!」 「まあ、そういうことなんです」  ギルバートは淡々とそう言って、カイゼル様と剣を戦わせるオルヴァ様をのほうを見た。   「リオン様とお過ごしになられる中で、あのお方の凍りついた心がほどけてゆくなら、俺はそれ以上を望みません」 「ギルバートさん……」 「あのお方の性格を考えると、いきなり結婚相手を見つけてこいだなんて無茶な気がしています。国王陛下のお心遣いというのはわかりますが……あまりにもあの方をわかっていない」 「そう! そうですよね!!」  うわやばい、ここへきてものすごい理解者を発見!!   俺は思わずギルバートの手を握り、ブンブンと激しめの握手をした。 「ああ、リオン様もそうお考えで……」 「はい。でも、オルヴァ様は頑張っておられます。このままいけば、婚活パーティ……じゃなくて社交会で、オルヴァ様は素敵なご令嬢とマッチング……じゃなくて出会うことができるでしょう」 「そのあとも、リオン様はオルヴァ様の世話係を? 結婚までの間も、なにかと手助けが必要な気がしますが」 「いや……そこまではさすがに。あとは、結婚を控えたおふたりのことなので」 「それもそうか」  アルヴィス様やカイゼル様よりも、ギルバートはオルヴァ様の人生を心配しているように見える。よっぽどギルバートのほうが兄貴っぽい。  ——数日後の婚活パーティ。……俺とオルヴァ様の付き合いはそれまでか。  ギルバートと話をして、突然現実が迫ってきた。ちく、と胸の奥が痛む。  カイゼル様と打ち合ううち、次第に笑顔が増えてきたオルヴァ様を見つめ、俺は無意識のうちに笑みを浮かべていた。 「それにしても、こんな場所にわざわざオルヴァ様を連れてくるなんて。カイゼル様はいったいどういうおつもりだろう」  ちょっと落ち着きを取り戻したっぽいフェルナンが腰に手を当てて辺りを見回している。 「ここ、なにかあるんですか?」 「見てください」  フェルナンが指差した先に目をやって、俺は息を呑んだ。  草原の奥には森が広がっている。その手前、俺たちがいる場所から数メートル離れた先の地面に、矢が突き立っていた。それも一本や二本じゃない。そこかしこに、数十本はあるだろう。  さらにその向こうには、赤黒く焼けた土が剥き出しになっている箇所や、壊れた馬車が野晒しになっていて——…… 「あ、あれはなんですか?」 「あの森の向こうには、我がフィオレアン王国の魔法石採掘場へ続く街道があります」 「あ、ああ……国の重要拠点だと、上司に聞いたことがあります」  久々に、ボルンさんののんびりした顔を思い出す。  魔法石はこの国のインフラを支える重要な資材で、炭鉱夫は国で一番人気の職業だ。 「この数か月、このあたりにちらほら盗賊が出るようになったんですよ」 「と、盗賊?」 「魔法石を運ぶ馬車が襲われたり、炭鉱夫が追い剥ぎに遭ったりと、物騒な事件が頻発しているんです。警備を強化したので、いく人かの盗賊は捕まりましたが下っ端らしく、首謀者はまだわかりません」  フェルナンの言葉を聞き、背中に冷たいものを感じた。  ——カイゼル様は、そんな場所にわざわざオルヴァ様を……?  今度はギルバートがスッと身を屈め、俺の耳に口を寄せてきた。   「ただ問題なのが……取り逃した盗賊たちのいでたちが、サルドラド帝国の民に酷似していたという証言があるんです」 「……えっ?」 「オルヴァ様がこちらに戻られてから出てきた証言なので、あらぬ疑いがかけられているのではないかと、我々も心配で」 「そ、それって、オルヴァ様がサルドラドの人たちを手引きしているとか、そういう疑いがあるってことですか?」 「はっきりとは分かりませんが、おそらく。姿は見えませんが、そこここにカイゼル様の兵が潜んでいます。我々のことも監視していますね」  ギルバートが静かに言う。視線だけを動かし、あたりを窺っている。  やはりカイゼル様はフィオレアン王国の軍部を司る立場にいるらしく、兵力は思いのままに動かせるのだという。  ただ、その疑惑はあまりにも的外れだ。 「オルヴァ様がそんなことをするはずがありません。この数日おそばにいて、私はそう感じますが」 「我々も同意です。が、カイゼル様のお考えは違うようです」  と、ギルバートがため息混じりに言う。するとフェルナンも頷いた。 「カイゼル様は、オルヴァ様に個人的な恨みもおありですからねぇ……」 「……えっ? う、恨み!?」  聞き捨てならない言葉がフェルナンの口から飛び出して、俺は仰天してしまった。思わずフェルナンの袖を掴み、食らいつく。 「う、恨みってなんですか? 兄弟なのに……」 「あー……オルヴァ様からは、何も?」 「聞いてません!」  口を滑らせてしまったらしいフェルナンを、ギルバートがじっとりした目つきで睨んでいる。  フェルナンは肩をすくめて、「いずれリオン様のお耳に入ることだろうさ」と言い訳がましくそう言った。 「オルヴァ様をご懐妊された当時、カイゼル様はまだ五、六歳。母に甘えたい盛りでしょう。ですが、前王妃殿下は幼いカイゼル様に辛く当たられたり、怒声混じりに突き放したりしておられたそうで、まるで人が変わってしまったようだと噂されていたそうですよ」 「……そ、そんなことが」 「その後、無事にオルヴァ様はお生まれになりました。ですが……」  話しかけて、ギルバートが言葉を切る。  オルヴァ様の注意がこちらに向いていないことを確認しているみたいだ。

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