25 / 53
第24話 褒めて伸ばします!
——厳しく育てられきた……か。やっぱ王族って大変なんだ。
銀髪に生まれたからといって、母親である前王妃様が不貞を疑われ。謎の体調不良のせいで可愛がってはもらえず、兄のカイゼル様からは恨まれ疑われ…… オルヴァ様にはひとつも非がないことなのに、理不尽なことだ。そのうえ人質外交で他国に送り込まれたりもしていたけれど、この人は、腐ることなく真っ直ぐに成長された。
——人を疑わず、民思いで優しい人だ。こんないい人、絶対に幸せにしてあげなきゃって思うよな。
多少、自己肯定感が低めに育ってしまったせいでネガティブ陰キャになってしまわれているけど、それはちょっとずつマシになってる気がする。婚活パーティーまでそう時間はないけど、しっかり認知の歪みを修正して差し上げなくては。
オルヴァ様に淡くときめき続けている胸をどうにか宥めすかし、俺はキリッとした笑顔を浮かべた。
「オルヴァ様が頑張ってきたのは事実ですよ。それに、褒めて伸ばすのが私のモットーですから」
「……ふ、ふふ。そんなに甘やかされると、クセになってしまいそうだな」
オルヴァ様が照れくさそうに笑う。ふにゃりと気の抜けた愛らしい笑顔が目の前で花開き、ぎゅうううん! と、心臓がひときわ激しく震えた。
——は~~~~…………かわいい。守りたいこの笑顔……
さっき剣を振るっていたときの真剣な眼差しもかっこよかったけど、ふたりきりのときに見せてくれる無防備な笑顔の愛らしさときたらたまらない。
不整脈を起こしそうになりながらうっとりオルヴァ様を見上げていると、ふと伸びてきた指先が、目元にかかる俺の前髪をそっとよけた。
「リオン、顔が赤いな。大丈夫か?」
「あっ……!? いや、ごめんなさい、ちょっと疲れた……のかも!?」
「そうだね、今日は慣れない遠乗りをして疲れたんだな。たくさん食べてくれ」
「はい。オルヴァ様も」
オルヴァ様がにこっと微笑む。……ああ、すごく自然な笑顔だ。顔面筋肉痛になりながら口角を鍛えた甲斐があったというものだ。
——疲れたときにこの笑顔をもらえたら、これ以上の癒しなんてないだろうな。
ほどなくして料理が運ばれてきて、テーブルの上が一気に華やいだ。
サラダ、漫画みたいな塊肉のグリル、ラビオリのような食材を野菜と煮込んだスープなどなど。目にも楽しく匂いも最高に美味そうで、俺は思わず感嘆の声を上げていた。
「うわぁ~! 美味しそうですね!」
「ちょっと量が多かったかな。フェルナンたちもここに呼んでも?」
「もちろんですよ。大勢で食べたほうがきっと美味しいです」
「そうだね。僕もあの二人とは改めて親睦を深めておきたいと思っていたところだ」
オルヴァ様はそう言って、テラス席のガラス扉にいた二人を手招きした。
すぐさま駆けつけてた二人が、さっとその場に跪く。
「お呼びでしょうか、オルヴァ様」
「せっかくだから、二人も一緒に食べるといい」
「わぁ……わぁ……っ、オルヴァ様と食卓を共にできるのですか!? 光栄です!! ありがとうございます!」
案の定、フェルナンが顔を発光させる勢いで喜んでいる。あまりの喜びようにオルヴァ様が若干怯えた顔をしているけど、ギルバートもいるから大丈夫だろう。
いそいそと椅子を運んでくる二人の騎士を見て、俺はふととあることを思いついた。
「オルヴァ様、ちょうどいい機会なので、婚活のレッスンを一つやってみたいのですが」
「いいけど、どんなレッスンだい?」
「初対面の女性と会話をするレッスンです」
「ゔっ……初対面の、女性……」
俺の会社で主催していた婚活パーティでは、参加者がまずはプロフィールカードを記入する。それを元にして、まずは一対一、五分程度ずつフリートークをやってもらっていた。
女性参加者は席についたまま、男性がローテーションしていく形式だ。まずはそこで、印象が良い相手を探っていくというやり方である。
オルヴァ様の場合は、男女比が一対十くらいになりそうなので、オルヴァ様が女性たちを審査するような形になるだろう。
限られた時間の中で相手の印象を探り、効率的に情報を引き出すためには、それなりに会話のテクニックが必要だ。
——まあ、オルヴァ様を前にしたら、ご令嬢たちはこぞって猛アピールしてくるだろうから、会話が成り立つかどうかちょっとわかんないけど……
オルヴァ様は俺の説明を聞いて頷いてはいるが、どうも怪訝な顔をしておられる。
「女性というのは? ここに女性はいないけど……」
「代理として、フェルナンさんにやっていただこうかと」
「エッ!? 私が!?」
オルヴァ様の斜向かいに椅子を置こうとしていたフェルナンが、カッと目を輝かせた。
すると珍しいことに、オルヴァ様がすかさず言葉を挟んできた。
「待った。ちょっとそれは……リオンじゃだめなのかい?」
「オルヴァ様はそろそろ私に慣れてこられているので、初対面の相手という設定には多少無理があるかと」
「じゃあせめてギルバートが」
「やりますやります!! 私、女兄弟が多いので女性のふりとか上手いです!!」
食い気味で挙手をするフェルナンを見て、ギルバートが呆れた顔でため息をつく。
そして一言こう言った。
「俺はちょっとそういうのは……。フェルナンのほうが適任かと」
「……そんな」
オルヴァ様が絶望している。サルドラド帝国にいた頃はほとんど言葉を交わしていなかったようだけど、ひょっとしたらフェルナンの視線とかで彼の変態性を察していたのかも……?
——物陰からオルヴァ様を見つめてハァハァ言ってそうだもんなこの人……
可哀想だが、堅物っぽいギルバートよりはフェルナンのほうが女性役のロールプレイには向いているような気がするので、この配役でいかせていただこう。
ともだちにシェアしよう!

