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第25話 フェルナンとの婚活プレイ
俺は常に持ち歩いているメモ帳にサラサラと架空女性のプロイフィールを書き、オルヴァ様とフェルナンに手渡した。
趣味は『料理・園芸』、休日の過ごし方は『散歩・自然の中でリフレッシュ』、未来像『互いを思いやれる穏やかな家庭を築きたい』——としておいた。
ふと見ると、指示を出す前だというのにフェルナンはすでにしゃなりしゃなりとした女性的な動きになっている。内腿を擦り合わせて内股気味になっているし、目つきなんかも完全に乙女のそれになっていてさすがすぎる。
ノリの良いとこはすごく助かるんだけど、騎士がもじもじしながらチラチラと上目遣いをしている様はなかなかキツイものがあって……オルヴァ様もすっかり怯えているご様子だ。励まさなくては!
「オルヴァ様、大丈夫です! 実際あなたとマッチングする予定のご令嬢たちは、きっともっと上品で愛らしい方ばかりでしょうから」
「ん? ちょっとリオン様? それっていったいどういう意味でして!? まるであたくしが下品で可愛くないみたいな言い方じゃありませんこと!?」
すでに役に入っているらしいフェルナンが、猛然と俺に食ってかかってきた。タレ目の優男ではあるが、フェルナンは俺よりはるかにガタイがいいので、テーブルから身を乗り出してこられるとすごい迫力。
だが、これはなかなかいい。俺は咳払いをして、ロールプレイを開始することにした。
「も、申し訳ございません、フェルナンお嬢様。けっしてそういう意味では」
「じゃあいったいどういう意味ですの!? 言っときますけど、あたくしほどオルヴァ様の妻にふさわしい女はこの世におりませんことよ!!」
「そうですか……でしたら、ご自分がいかにオルヴァ様に相応しいかということをアピールしていただけますか? 時間は三分です」
「三分!? 短いですわね……あたくしの良さとオルヴァ様への愛を三分程度で語り尽くせるとは思えませんわ。一時間くらいくださればなんとか」
「このあと十数名のご令嬢が控えておいでです。時間厳守でお願いいたします」
「じゅっ、十数人……!? なんてひどい! あたくし以外の女をオルヴァ様に紹介するなんてどういうおつもり!?」
「ぐえ……っ! ちょ、ぐ、苦しい……」
役に入り込み過ぎのフェルナンが思いっきり俺の胸ぐらを掴んできた。目を三角に吊り上げて女性言葉で食ってかかってこられ、涙目でギルバートに助けを求めるが——……だめだ、真顔のまま震えてる。必死で笑いを堪えてる。ギルバートのやつ、クールな顔して笑い上戸なのか!?
と、そのとき。すっとオルヴァ様が立ち上がり、がしっとフェルナンの手首を掴む。
フェルナンの顔が一瞬にして少女漫画の主人公みたいなタッチになり、背景に花が散った。……ように見えた。
「まあっ……オルヴァ様の御手が、私に触れて……っ……!! これはもう、結婚するしか……!」
「リオンの胸ぐらを掴むような女性とは結婚できない。申し訳ないが、僕のことは忘れてくれ」
思いのほかきっぱりと、オルヴァ様はそう言い放った。
——お? おお……っと、そんな断り方するんだ、オルヴァ様……
「そ、そんなッ……」
ガーン! という背景とベタ塗りの背景が見えてきそうなフェルナンだ。ちょっと感心するくらい役に入り込んでいる。世が世なら、この人は劇団とかで大活躍してそうだな……と俺は思った。
てか、これじゃ会話の練習にならないだろ! と、俺はフェルナンに文句の一つでも言ってやろうとした。
……が、その前に、オルヴァ様がフェルナンに向かってこう言った。
「フェルナン……僕相手にそこまで激烈なアプローチをしてくるご令嬢はいないだろうから、もうちょっと落ち着いた感じのご令嬢をやってくれ」
「はひっ!? アッ、は、はい!!」
オルヴァ様に話しかけられたフェルナンが、顔を真っ赤にしてガクガクと頷いた。まともに話しかけてもらえるとは思っていなかったのだろう、これまでとは打って変わって完全に緊張の面持ちだ。さっきまでの勢いはどこへやら。まったく言葉が出てこない。
「ああ、あの……わたくし、コンカツパーティって初めてで、よくわからなくて……」
「僕もです。えと……あ、ぷろふぃーる? によりますと、あなたは園芸が好きなのですね。どのような植物を育てているんですか?」
ぎこちないなりに、ロールプレイが始まった。俺はギルバートと目を合わせ、たじたじしながら会話を展開していくふたりを見守る。
「しょ、しょく、しょくぶぶつつ……あ、花を! たくさん……!」
「花ですか、素敵ですね」
——おっ、いいぞ。きちんと相手の言葉を拾えているし、しかもポジティブな感想まで……!
オルヴァ様、緊張しているようだが上手い切り返しだ。感心した俺は、その場で深々と頷きつつ耳を傾ける。
だが、フェルナンは未だに舞い上がったままらしく、顔は真っ赤だし目は泳いでいる。……でも、さっきのキャラよりよっぽど臨場感があるな……
「はひっ! あ、ありがたきしあわせ……!! よ、よろしければ我が家の花を共に愛でてはくださりませぬか……!?」
「僕なんかでよければ、ぜひ……」
ニコ……とぎこちない笑みを浮かべつつ返事をしたオルヴァ様を前にして、フェルナン嬢は「ひゃぁぁぁん」と身悶えた。
ときめきを隠しきれていない様子で、「うちに来るってことはもう、もはや……け、結婚!! そしてめくるめくしょ、しょ、初夜……!!」とブチ上がりはじめたところで、俺は拍手で一旦ロールプレイに区切りを入れた。
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