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第26話 結婚観はありますか?
「はぁ、疲れた……」
フェルナン相手の婚活レッスンで、オルヴァ様はだいぶ疲れてしまったようだ。
とはいえ、こっちに戻ってから長く外出するのは久しぶりだったようで、新鮮な刺激は楽しかったようだ。オルヴァ様の表情はいつもより少し清々しい。
「オルヴァ様、とても会話がお上手でした。あの短時間でプロフィールをきちんと読んでおられますし、相手の言葉の拾い方も、感想の返しなんかも完璧でしたよ」
「本当か?」
「ええ! あの調子でご令嬢たちとお話をして、ああこの人ともっと話してみたいな~という方がおられましたら、私にお伝えください。まずは一度目のデートを設定いたしますので」
「でえと?」
「そのお相手とふたりきりで出かけたり、お食事をしたりすることです。相手のことをさらに知っていくための、大切な手順です」
「ふーん……そうなのか」
オルヴァ様は細い顎を撫でながら、噛み砕くように「でぇと……食事……」と呟いておられる。
そしてふと顔を上げ、澄んだ瞳で俺を見た。
「リオンは、どんなでぇとをしたいと思う?」
「えっ? どうして……」
「あっ、その……さ、参考までに聞いておきたいというか……」
真顔で聞き返したもんだから、俺が怒っていると感じたのだろうか。オルヴァ様が眉を八の字にしてたじろいでいる。
そして俺もたじろいでいる。だって俺、デートらしいデートなんてしたことないし……。ほんのり好意を抱いていた男友達とゲーセンやファミレス行けてすごく楽しかった思い出はあれど、あれは一般的なデートってやつじゃないしな……
物思いに耽りかけて、俺はハッとした。気まずげなオルヴァ様を放っておくわけにはいかない。俺は慌てて笑顔を浮かべた。
「そうですね。今日みたいに、美味しいものを食べにいくとか、いいかもしれません」
「美味しいもの……なるほど」
「あとは、馬に乗るのは楽しかったので、遠乗りに行くのも楽しそうです。俺、日本にいた頃は自転車……ええと、風を感じながら乗り物に乗るのが好きだったので」
「遠乗りか、いいね。乗馬ってところもすごくいい。乗馬なら、僕でもリオンに教えることができるし」
「あ……へへ」
オルヴァ様が楽しそうに目を輝かせていて、なんだか照れくさくなってしまった。……が、俺とのデートを想像されても困るんだ。だってあなたは、近々婚活パーティで出会うご令嬢たちとデートしないといけないのだから……
——オルヴァ様とふたりで遠乗りとかできたら楽しいだろうな。こないだはカイゼル様がいたから怖かったけど、ふたりなら……
妄想しかけて、慌てて不埒な考を止める。一庶民が一国の王子様をつかまえて乗馬に付き合えとか、不敬だ!
「そ、そうだ! ローゼンさんが婚活パーティーに参加予定のご令嬢たちのプロフィールをまとめてくださっています。あとで一緒に確認しましょう」
「……あ、うん。そうしよう」
すん……とオルヴァ様の顔から表情が薄くなる。
ずっと引っかかってはいたけど、やっぱりオルヴァ様は結婚にあまり乗り気じゃないようだ。
——そりゃそうだよな。こっちに戻ってまだ日も浅いのに、いきなり結婚しろって言われるなんて。オルヴァ様の性格を考えると、あんまりにも展開が早すぎる。女性に苦手意識あるみたいだし……
王子だから政略結婚が当たり前。そう思っていたけれど……俺はつい、こう尋ねずにはいられなかった。
「オルヴァ様は……結婚についてどうお考えですか?」
「え……?」
「不躾な質問で申し訳ありません。ただ、オルヴァ様の本音を知っておきたいな……と」
「……」
オルヴァ様が、珍獣を見るような目で俺を見ている。……が、小さなため息のあと、オルヴァ様はとつとつとこう言った。
「憧れはある。僕を理解してくれる人と穏やかに暮らせたらいいな……と」
「そうなんですね」
「でも、こんなにも唐突に場を設けられて戸惑ってはいる。もっとゆっくり自然な形で出会った相手とそうなれたらいいなと思うけれど……父上は宙ぶらりんな僕を、さっさとこの国の一部にしたいのだろう」
——国の一部、か。
領地を与え、所帯を持たせる。確かに、これ以上安定した形はないように思える。
だが、オルヴァ様の気持ちはまったくそこについていけてないようだ。
「アルヴィス様は、どういう経緯でご結婚されたんでしょう」
「政略結婚だよ。ただ、兄様は嫁いできた王太子妃のセリアンヌ様に一目惚れしたらしいから、幸せな結婚をされたと思う」
「一目惚れか……」
「兄様もああいう性格だから、セリアンヌ様も幸せそうだ。アリスも元気で明るい」
「確かに。最高のロールモデルって感じですね……」
「ろーる……? 何?」
首を傾げるオルヴァ様に、ロールモデルってのは身近なお手本だ、という説明をした。オルヴァ様は頷きつつも首を傾げている。
「いいなあとは思うけど、アルヴィス兄様と僕じゃ性格が真反対だからな……僕もあんなに明るい性格だったなら、きっとあっという間に結婚して子どもをもうけて、父上を安心させてあげられたのだろう……ああ、僕はどうしてこんなにも薄暗い性格をしているんだ……こんな陰鬱な男の下に嫁がされる女性の気持ちを想像したら僕は……っ」
と、胸を掻きむしり頭を抱え始めたオルヴァ様である。俺は慌ててフォローに入った。婚活コーディネーターにはフォロー力の高さも必要なのだ。
「そんなことはありません! そうやって相手の気持ちまで慮ってしまうオルヴァ様の優しさ、私はとても好きですよ」
「……好き?」
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