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第27話 閨指導……!?

「はい。あなたは王子なのに驕り高ぶることもなく、民思いでとても優しい。オルヴァ様のことを、私は心から敬愛しています」  カイゼル様がああいう感じだし、余計にオルヴァ様の穏やかな優しさが光って見える。  プライドの高い王族の人たちは絶対護衛騎士と婚活ロールプレイなんてしないだろうけど、オルヴァ様はやってくれた。  そもそも、国王陛下の期待にこえたようと頑張っているところとか、俺みたいな余所者の庶民の言うことを健気に聞いてくれるところとか、本当に素直で可愛い人だなと俺は思うわけで……  ——……って、俺の好みは置いといて。  頭を抱えていたオルヴァ様が顔を上げ、ソファの隣に座った俺を見つめる。  こうやって見つめられてしまうと、美しい瞳に魅入られずにはいられない。 「リオンは本当に優しいんだな」 「あ、ええと……」 「……敬愛、か」  オルヴァ様は噛み砕くようにぽつりと呟き。俺を見つめたまま数秒黙っていた。  そしてふと、オルヴァ様は何かを思い出したように目を瞬く。 「そういえば、聞きたいことがあったんだ」 「ん? なんですか?」 「カイゼル兄様がおっしゃっていた閨指導というのは……リオンの仕事なのかい?」 「っぐ! げほっ……いやそれは、ごっほ……っ!」  オルヴァ様の質問にびっくりしすぎて呼吸の仕方を忘れてしまった。早く「違う」と言わねばならないのに派手に咽せてしまい、なかなか咳が止まってくれない。  ……その十秒程度の間に、オルヴァ様がすっかり誤解してしまったようだ。 「そ、そうだったのか……だから同じ部屋に滞在を……」  むせ返りながら否定の言葉を口にしようとしたそのとき、きゅっとオルヴァ様に手を握られた。思わず「ヒッ!」と声なき悲鳴を上げる俺を、オルヴァ様は真剣に見つめてくる。 「もしリオンが嫌でなければ、頼みたい」 「……へ? あ、あの、閨指導を……ですか?」  こくり。オルヴァ様が神妙な顔で頷いた。 「書物で多少の知識は得てはいる。だけど僕は……いざというとき、どのようにしてことに及べばいいのか皆目見当がつかない。そもそも、僕とそういうことをしてもいいといってくれるひとが現れるかどうかもわからないのに、先にそんな心配をしているなんておこがましいというか、驕り高ぶりすぎてどうかしているとは思うのだが……」  急に早口になるオルヴァ様である。  ……て、いやいやいや。オルヴァ様とエロいことしたい相手なんていくらでも現れるに決まってるだろ! なんならここにもいるし……って、不埒で不敬な考えは捨てろ、俺。 「オルヴァ様、なにをおっしゃってるんですか! 自信をもってください! あなたは必ず、愛する人に愛し愛されるようになれる人です!!」 「……そ、そうだろうか……」 「そうですよ! 俺が言うんだから間違いないです!」 「それなら」  ずい、とオルヴァ様の美しいお顔が迫る。肘掛けに遮られてこれ以上後退できない俺は、頬を赤らめたオルヴァ様と鼻先を突き合わせることになってしまった。 「教えてくれないか。いざというとき、僕がすべき行動を」 「い、いざ……」 「でで、でも、でも、書物で読んだような激しい行為まではしなくていい! もちろんしなくていいんだ! なんというかその……! 導入部分まででいい、導入部分さえどうにかなれば、あとは勢いで、本能でなんとかなるって書いてあったからなんとかなるんだろうし!」 「……はあ」    参考までに、どんなエロシーンが書いてあったのか知っておきたいところではあるが……  そりゃ、いざベッドに入っていい感じの雰囲気になれば、あとは流れと勢いでなんとかなる——みたいな描写の本は多いけども。ピュアなオルヴァ様が勢いとかわかるのかな? そもそも、ピュアすぎて性欲とかまったくなさそうなんだけどな? 「導入部分、ですか……」 「まずは一緒にベッドに入らないといけないだろ。そのあと……なにをどうしたらそういうムードになれるのかわからないんだ……」 「えと。それは俺も……」  わからないです、と言いかけて俺ははたと口をつぐんだ。  人様の結婚にああだこうだと口出しするくせに、セックスのいろはも知らないなんて——と、オルヴァ様に思われてしまったら、婚活レッスンに説得力がなくなってしまうのでは? と思ったからだ。  それもある……が、ちょっとだけ……本当にちょっとだけだが、心の奥底によこしまな気持ちが生まれていることにも、俺は気づいていた。  ——でも、だめだ。いいわけないだろ、理音。閨指導という名目のもとでオルヴァ様とイチャイチャできるチャンスだなんて思ったらダメだ。罰せられるぞ……!!  俯いて黙り込んでいるあいだも、妙な汗が背筋を伝う。  するとオルヴァ様がはっと悟ったような顔をして、素早く俺から距離を取った。 「す、すまない! そうだな、僕は腐ってもこの国の王子だ。僕にそんなことを頼まれたら断りづらいに決まっている。忘れてくれ。不埒なことを言ってすまなかった……」 「え!? いいえ、不埒なんてことは……」 「そもそも僕なんかがベッドの中で引っついてきたら不愉快極まりないに決まってるじゃないか……。気持ち悪いし怖いし気持ち悪いこと請け合いだ。……ああ、本当にすまない。さっきからはしたないことばかり口にして不愉快な気持ちにさせたはずだ……!! 僕はリオンにどう詫びれば……っ」  「いえあの、そういうことではなくて!!」  いけない、またオルヴァ様がネガティブモードに入られてしまった。  俺もまだ動揺しているせいで、営業モードになりきれない。テンパった頭では適切な言い訳も思いつかなくて、俺は勢いよく言い放ってしまった。 「やります! 閨指導、やらせていただきます!!」 「……えっ。ほ、本当に……?」  オルヴァ様がびっくりしておられる。   そして言い放った俺もびっくりしている。  だが、こうなっては後には引けない。俺はぎこちなく頷いた。

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