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第30話 いけないキス※

——ダメだ。オルヴァ様の優しさに甘えちゃダメだ。俺は、この人が幸せな結婚生活を見つけられるように手伝いをするだけの存在なんだから……!!  でも、話したい。受け入れてほしい。そしてあわよくば、俺を——…… 「リオン? 目が潤んでる。大丈夫かい?」 「あ、いやこれは……あくびのせいで」  「リオンの目、よく見ると真っ黒じゃないんだね。少し茶色い」 「う、うん……日本人はだいたいこんなもんで……」 「深くて、神秘的な色だ。とても綺麗だよ」 「っ……」  腰に回っていたオルヴァ様の手が持ち上がり、長い指が俺の目元に触れた。  触れられた場所がじわっと熱を持ち、鼓動がいっそう激しくなる。 「っ……リオン?」  震える俺の指先が、オルヴァ様の唇に触れている。  やわらかくて、あたたかい唇。  この人に、この唇にキスしてもらえたら、どんなに嬉しいだろう。どんなに幸せだろう。  穏やかなこの人の声で、愛を囁いてもらえたら、俺は…… 「あ……」  オルヴァ様の手が、俺の手を握る。その指先に、オルヴァ様の唇が躊躇いがちに触れた。  かすかなリップ音と、信じられないくらい柔らかな弾力。確かな体温。  心臓がばくばくと暴れていて、目の奥が熱い。呼吸が乱れる。 「んっ……」  気づけば俺は、オルヴァ様の頬を両手の中に包み込み、唇を重ねていた。  戸惑いがちに乱れるオルヴァ様の吐息を感じながら、淡く、柔らかな唇に自分のそれを押し付ける。  一回だけじゃ足りなくて、二回、三回と唇を触れ合わせているうち、オルヴァ様の腕が再び腰に回ってきた。ぎゅっと強く強く、抱き寄せられる。 「っ……ぁ」    最初の遠慮がちな仕草が嘘のように、余裕のない雄々しい仕草だった。ぴったりと密着した身体が燃え上がるように熱くなる。  腰を抱かれたまま目を開くと、オルヴァ様の瞳がすぐそこにある。戸惑いの色よりもずっと濃く、瞳の奥に雄々しさがちらついて見えて——……俺は、咄嗟に身を引いた。 「す、すみません……!!」 「……リオン。これは」 「っ……ごめんなさい! 突然こんなこと……!!」  なんてことだ。俺は、なんてことをしてしまったんだ。  突き上げる欲望のまま、俺はオルヴァ様にキスをしてしまった。    理性が戻ると同時に、とんでもないことしでかしてしまったことに愕然としてしまう。こんな状況で一つのベッドに居られるわけがない。俺は、身を捩ってオルヴァ様の腕から逃れようとした。  だけど、俺の身体はびくともしない。オルヴァ様の腕は、まるで鋼の拘束具のように俺を抱きしめて離さなかった。 「あの、オルヴァ様……」 「もう一度」 「え……?」 「もう一度だ、リオン」 「あ、っ……」    腰に回っていたオルヴァ様の手が動き、あっという間にベッドの上で組み伏せられる。四肢で俺を捕らえたオルヴァ様の頬は赤く、かすかに吐息が乱れている。 「オルヴァ様、俺っ……んっ……」  押し付けられたオルヴァ様の唇は、さっきよりもずっと熱い。抗おうとするものの、すぐに手首を取られてベッドに縫い付けられてしまう。オドオドしているときの頼りない姿が嘘のように強い力だ。 「オルヴァさ、まっ……ん、ぅ……ぁ」  制止しようとした言葉を丸ごと飲み込むように、オルヴァ様の唇が俺の唇を塞ぐ。どこか甘い唾液と熱い吐息が俺の中に流れ込み、触れ合う粘膜の淫らな感覚にゾクッと身体が震えた。  ——ああ、あ……なんだよこれ、気持ちいい……  やってはいけないことをしているのに、オルヴァ様のぎこちないキスのせいで、全身が激しく昂り始めている。  食らいつくようなキスはがっつきすぎともいえるほどに性急だ。でも、そうまでして求めてくれているのかと思うと嬉しくて、心臓がはち切れそうなほどに暴れている。  俺の中を暴こうとするかのように荒く、淫らに動く熱い舌に誘われて、俺はいつしか自ら大きく口を開け、オルヴァ様の舌を迎え入れていた。 「ぁ、はぁ……ぁっ……オルヴァ、さまぁ……っ」 「……っ……」  喘ぎの隙間で、無意識にオルヴァ様の名前を呼んでいた。するとオルヴァ様の指がするりと俺の指に絡まり、ぎゅっと強く握りしめられる。反射的に固く握り返すと、オルヴァ様のキスがさらに深くなる。    絡まり合う舌も、指も、密着するオルヴァ様のしなやかな肉体も、なにもかもが愛おしくてたまらなかった。  このままずっとこうしていたい。キスだけじゃ足りない。このままセックスをしてしまいたい。  言葉を交わすこともなく、俺たちは無我夢中でキスに耽った。ふたりの乱れた吐息だけが、静かな寝室に淫らに響く。  すっかり勃ち上がった俺の性器に、ぐっと硬く張り詰めた剛直が押し付けられ、「ひゃ……ぁ」と甘えたような声が漏れてしまった。  興奮してくれてる? 俺とのキスで。オルヴァ様も気持ちいいと思ってくれてるの……?    オルヴァ様の昂りを味わってみたい。口でして差し上げたら喜ぶだろうか。    オルヴァ様の俺の屹立の硬さに気付いたのだろう。ぎこちなく、いいところを狙うように腰を揺らしはじめている。  気持ちよくてたまらない。もっと、確かな快楽を感じ合いたい。  オルヴァ様のコレをしゃぶってみたい。フェラだけじゃ足りない。さっきからずっと熱いものが燻っている俺の中に、オルヴァ様のペニスを挿れてほしい。  ぐちゃぐちゃになるまで突き上げて、俺の中でイって欲しい。溢れるほどに俺の中で吐精してほしい。声が嗄れるまで喘がせて、俺を抱き潰してほしい。  ——この人を誰にも渡したくない、俺だけのものにしたい……!! 「っ……」  唐突に姿を現した自分の本音。俺はハッと我に返った。   「だ、ダメだ!! やめて……やめてください!!」  咄嗟に大きな声を出すと、オルヴァ様は驚いたように動きを止めて俺を見つめた。  オルヴァ様の瞳が、妖艶な色香を帯びて金色に揺らめいている。欲を帯び、ぞくぞくするほど美しいオルヴァ様の眼差しから、俺は必死で目を逸らす。 「こ、これ以上はダメです……!! 今日は、その、導入まで、ということで……!」 「……いやだ」 「いや、いやって言われても、俺っ……これ以上は……!」 「リオンのここも、こんなに硬くなってるじゃないか」 「あっ……!」  リネンのズボン越しに屹立を撫で上げられ、思わずか細い悲鳴が漏れる。オルヴァ様はちょっと苦しげな眼差しで俺を見つめて、誘惑する。 「ん、っ……さわらないで、くださ……っ」 「最後まで教えてくれ。ここから先も、リオンとしたい」 「っ……でも、でも俺は……っ」 「リオン。こっちを向いて」 「んんっ」 「……命令だ。僕を見るんだ」  突然の王子様めいた発言だが、オルヴァ様の声はひどく優しい。耳元で甘く囁かれ、ぞくぞくぞくと背筋がわななく。  力の入らない目でオルヴァ様を見上げる。俺ときたら、さぞかしだらしない顔をしていることだろう。 「リオン」 「……はい……」 「っ……はぁ……。なんて可愛い顔を……」  俺と目が合うと、オルヴァ様は長い長いため息を吐いて、俺の肩口にぽすんと顔を埋めた。    ——可愛い? 俺が? オルヴァ様のキスでトロトロにされて情けない顔をした俺を、可愛いと思ったのか……?  オルヴァ様の重みを受け止める俺の胸は、ずっとこれ以上ないというほどに高鳴り続けていてずっと苦しい。  苦しいけれど、胸の奥で確かな形を持ち始めているのは、オルヴァ様への甘く激しい感情だ。  ——好きなんだ、俺。オルヴァ様のこと、こんなにも…… 「リオン」  ふと顔を上げたオルヴァ様は、とても真剣な顔をしていた。  真摯な眼差しを目の当たりにした途端、俺は大変な過ちを犯してしまったことにようやく気づいた。    無垢な王子様に勝手に惚れて、自分からキスを仕掛けた。  そのせいで性欲に火がついて、多分……オルヴァ様は快楽と恋心を混同させてしまっている。  これから美しいご令嬢とのご結婚を控えたオルヴァ様に、俺は一体なんてことを。  この人は、これから一国の王子として国を支えていかなきゃいけないひとだ。  美しい奥さんと幸せな家庭を築いて、たくさん子どもをもうけて、もっともっとフィオレアン王国を繁栄させていくべきお方だ。  ——いけない、こんなこと。……しっかりしろ、俺っ……!! 「オルヴァ様。今日の訓練はここまでにしましょう」

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