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第34話 甘く気まずい朝
翌朝。
痛いほどの視線を感じて目を覚ますと——一メートルくらい離れたところで肘枕をしているオルヴァ様と、目が合った。
寝ぼけ眼の俺をガン見している。あっという間に目が覚めて、俺は何度も目を瞬きつつ「おはようございます……」と掠れ声で挨拶をした。
「おはよう、リオン」
「おはようございます……」
なぜだか安堵したような顔で微笑むオルヴァ様の神々しさに、目を灼かれそうだ。なぜかって、背後から朝陽が差し込んで、後光が差して見えるから……
「あの……まさかずっと起きてらっしゃったんですか?」
「少しは寝た。だけど、カイゼル兄様がまたいつ突撃してこないとも限らないから、起きて見張っていたんだ」
「あ、そ、そうでしたか……」
本当なら、俺が血気盛んなメイドさんたちからオルヴァ様を守らねばならないというのに、逆に守られてしまったようだ。
『うちの兄が、本当に申し訳ない!!』
昨晩部屋に戻った後、オルヴァ様に頭を下げられてしまった。慌てて制止したけれど、オルヴァ様は俺の顎についたカイゼル様の指の痕を痛ましげに見つめて、首を振った。
『ギルバートに聞いたんだけど……兄は、盗賊団の頭領が捕まっていないことで随分気が急いているらしいんだ』
『疑わしい人間は片っ端から尋問しているらしい。だが、まさかリオンにまで……』
カイゼル様の名誉のためにも、そういった内容の尋問を受けたわけじゃないと説明をしたけれど、オルヴァ様は『兄を庇わなくてもいい。気を遣わないでくれ』と首を振るばかり。
——オルヴァ様に相手にされなくて拗ねてるだけにしか見えなかったけど、盗賊団のことは解決してないんだもんな。そりゃ焦ってイラつくか……
もぞもぞと寝返りを打ってオルヴァ様のほうへ身体を向け、俺は軽く頭を下げる。
「昨日は助けてくださって、ありがとうございました……って、本当に話をしてただけですからね?」
「うん……だが顎が痛そうだ、かわいそうに。カイゼル兄様は見かけによらず剛力だから」
「そのようですね……」
「リオン」
オルヴァ様は肘を立てたままうつ伏せになり、俺の顔を覗き込んできた。そっと伸びて来た指先が俺の顎に触れそうになった瞬間——俺は思わず、スッと身を引いていた。
触れられると、また昨夜のように気持ちが溢れてしまいそうだったからだ。
オルヴァ様がまた自虐メンタルになってしまうかもとヒヤリとしたが、そうはならなかった。
——あれ? 僕なんかに触れられたら……とか、自虐っぽいこと言わないんだ。
オルヴァ様はちょっと困ったように微笑んで、何も言わずに手を引っ込める。
「昨日はがっついてしまって悪かった。コンカツ訓練とは思わず、つい……」
「あ……いえ、俺こそ……」
「リオンに触れてもらえたのが嬉しくて、気持ちが昂ってしまった。でも、ああして勢いのまま襲いかかるのはよくなかったな。……ああ、先が思いやられる」
「い、いえ! とても……とてもお上手でしたよ! 相手が俺だったのでお止めしましたが、奥様が相手であれば、あのままオルヴァ様のしたいようにされたらよいのです」
「リオンじゃなければ、か……」
まただ。オルヴァ様が、また淋しげな笑みを浮かべる。ああ……そんな顔をしないでくれ。罪悪感で胸が押しつぶされそうだ。
——俺だってあのまましたかった。オルヴァ様とキスできて嬉しくて、俺こそ、すぐには止まれなくて……
沈黙が落ちる。
オルヴァ様は気を取り直すように軽く息を吐き、あえてのように軽い口調でこう言った。
「今日は、僕の領地となる場所へ視察に赴かねばならないんだ。リオンはここでゆっくりしていてくれ」
「視察ですか、わかりました。気をつけてくださいね」
盗賊だなんだと物騒な話を聞いたばかりだからか、オルヴァ様の身が心配だ。それが顔に出ていたのだろうか、オルヴァ様はちょっと驚いたように目を瞬いたあと、ふっと柔らかく微笑んだ。
「うん、わかっているよ」
何気ない、短いやりとりだ。だけど無性にむず痒い。俺は俯いて、込み上げてくる笑みを噛み殺した。
——こんなに自然に笑えるようになったんだ、オルヴァ様。
俺の指導のたまものか。それとも、相手が俺だからこんなふうに笑えるのか。
後者であってくれたらどんなに幸せかと思いはするが、この気持ちはあまりにも不敬だし、なにより婚活コーディネーター失格だ。
先に起き出しバスルームへ向かうオルヴァ様の背中を目で追いながら、俺は重いため息をついた。
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