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第35話 妙な視線
◇
半年勤めていた教会から一歩外へ出た瞬間、甲冑を身につけた騎士が素早く俺の左右を固めた。
俺の護衛につけられたふたりの騎士はいかにもベテラン風の厳しい表情で、厳しい視線をぐるりと巡らせ、道ゆく街の人々をびびらせている。
オルヴァ様が不在の間、俺は俺の仕事——婚活パーティの準備を進めるべく街へ戻って来ているのだ。
久方ぶりに顔を合わせたボルンさんが懐かしくて、俺はちょっとだけウルっとしてしまった。
異世界にきて一番長い時間一緒にいて、俺の世話を焼いてくれた恩人のボルンさん。たった数日離れていただけだけれど、ようやく日常を思い出したような気がしてホッとした。
俺がいない分、ボルンさんは仕事がすごく忙しいとこぼしていた。でも、大丈夫。オルヴァ様の婚活が終われば、俺はすぐにここに戻ってくるんだ。
——日常、か。
オルヴァ様と過ごしたのは、まだたった数日だ。なのに、これまで過ごして来た街での日常を、なぜだかひどく遠く感じた。
そう感じてしまうほど、俺はオルヴァ様に心を奪われてしまっているようだ。
——……考えたって仕方がないことだ。せっかく街に戻ったんだし、しっかり買い出しをして城に戻ろう。
「えーと、まずはプロフィールを書くための紙だろ? 確か、街の端に王室御用達の上等な紙を売ってる店があったよな……」
街の地図を見ながら諸々の準備について考えていると、少しずつ頭がスッキリしてくる。
仕事のことを考えていると、いろんな騒動でちらかっていた思考が整理され、だんだん元の自分が戻ってくるような感じがする。
「やっぱ、働いてたほうが気が楽だなぁ」
二人のいかつい騎士を引き連れて、俺はメモを片手にレンガの敷かれた道を歩いた。知り合いの顔もちらほら見えたけど、サッと目をそらされてしまう。さすがに甲冑を着た騎士を二人も連れ歩くのはさすがに物々しすぎたようだ。
街の人たちの視線は居心地が悪い。だがそれ以外にも、チリッとするような妙な気配を俺は感じていた。
——なんだろう。
さりげなく視線を配ってみても、怪しい人物などは見当たらない。平和な日本で暮らして来た俺が不届者の気配を察するなんて到底無理だろうから、きっと気のせいなんだろうけど……
不気味な居心地の悪さを感じつつ、購入したばかりの上質な紙をまとめてもらう。例の書状を見せたら、店主は平伏する勢いで丁寧に接客してくれた。お金は後ほど王家から支払われるらしい。
「リオン様。そろそろ日が暮れます。城に戻りましょう」
「ええ、そうですね。あちこち付き合っていただいてありがとうございました」
騎士のひとりに促され、俺は徒歩で城のほうへ戻り始めた。
小高い丘の上に聳える白亜の城を見上げ、俺はちらりと周囲を見やる。気のせいには違いないのだが、いまだに妙な居心地の悪さを感じるのだ。
——カイゼル様がスパイだなんだって物騒なこと言うから、その辺にいる人全員が悪者に見えるのかも……
これまでは、王都は治安がいいものだと思い込んでいたけれど、フィオレアン王国の治安が心配になってきた。『暇を持て余した貴族の性奴隷』うんぬんと脅かされたせいもあるだろう。
——ま、今日は護衛の人がいてくれるから心配ない。……けど、この仕事が終わったあと、俺は平和に過ごせるんだろうか? 奴隷商人とかが俺を攫いにこないかとか、気にしながら生きていかなきゃいけないのかなぁ……
そう思うと、多少憂鬱ではある。だが、異世界転移してから半年、なんとか平和にやってこれたのだ。きっと大丈夫……と、思うほかないだろう。
——俺はアラサーのおっさんだし。ま、大丈夫だろ。
それより、今はきちんと自分の仕事をまっとうしなくては。
オルヴァ様によいお相手を見つけること——それが、俺の仕事なんだから。
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