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第37話 異国の血
「前王妃殿下……ミナルテ様は、異国の血筋のご令嬢でした。海を超えた南方の国から交易のために訪れた商人の一族がフィオレアン王国で大成され、貴族の称号を与えられたのです。ミナルテ様の曽祖父にあたる方です」
「異国の血。……え? じゃあ、オルヴァ様の肌や髪の色が違うのって、」
「いえ……彼らもまたこの国の民と姿形はよく似ています。隔世遺伝、というわけではないかと」
「あ、そうなんですか……」
オルヴァ様が気にしている容姿の違い。その答えを見つけたかに思えて昂った気持ちが、しおしおと元に戻る。
「ということは、ミナルテ様も金髪碧眼の美しい人だったんですね」
「ええ、それはもう。美しく聡いお方でした。国王陛下よりも五つ年上でございましたので、お若い陛下をよく支えておられました。ときには、厳しいこともご進言されていましたね」
「へえ、しっかりものの姉さん女房だったんですね」
俺の軽い物言いに、ローゼンさんが曖昧に笑い、そっとハンカチで汗を拭った。やばい、場を和ませたくて言ったけど、下手したら不敬罪だったかも……?
「ただ……国王陛下は多少……多少、移り気なところがあるお方でして。特にその……女性関係について、多少……」
「え? ……あ、なるほど」
移り気。つまりは浮気性ということだろう。あとから若い王妃を迎えたことも、すとんと腑に落ちる。
そういえば、オルヴァ様が帰国された折も、たくさんのご令嬢と戯れろと言わんばかりの女性を集めて、相性が良い相手と結婚しろ——みたいな場を設けていたな。思いっきり失敗してたけど。
国王が女好きとなると、年上でしっかりものの奥さんの小言を多少鬱陶しく感じたりすることがあったかも。息抜きみたいに女遊びをしたりして、奥さんを困らせていたのかもしれない。
そんな不届なことを考えていると、ローゼンさんの表情が苦々しく歪んだ。それは彼の本心が滲み出たような、生々しい表情に見えた。
ベテラン執事のローゼンさんがそんな顔を俺に見せるなんて。俺はつい、ローゼンさんを凝視してしまった。
「ローゼンさん……」
「アルヴィス様がお生まれになったあと、なかなか次の御子様に恵まれませんでした。ミナルテ様はひどくお悩みのご様子でした」
「……そ、そうなんですか」
「その頃、周辺諸国が多少騒がしく、国王陛下もお忙しくしていらっしゃいました。戦に勝った兵を讃え、また鼓舞するため、前線に出向かれることもあり……そこで、存分にハメを外されることもおありだったようで」
——え、え~~……。こんなこと、聞いていいのか?
戸惑いつつも、ローゼンさんの語りを止めることができない。これはきっと、オルヴァ様出生の秘密に近づくチャンスでもあるからだ。
「ミナルテ様は努力されていました。その甲斐あってカイゼル様がお生まれになった。ですがその頃から、国王陛下のお気持ちがますます離れていくことに心を痛められ、幾度か生家に戻られることもありました。……様子がおかしくなり始めたのは、そのあたりからです」
「ご実家に……」
「リオン様をご紹介くださったハリス侯爵も、もとはミナルテ様と同じルーツを持つご一族なんですよ」
「へえ、そうなんですか。だからとても親しくていらっしゃるんですね」
俺の口コミを流してくれたのはハリス侯爵家の人々だ。嫡男ラミール様の結婚をお手伝いしたのがきっかけだった。前王妃殿下の曽祖父の代にこの国で爵位を得たってことは、だいたい九十~百年前くらいのことだろう。
異国にルーツを持つ彼らが、脈々と王家の中にまで血縁を広げているらしい。
——ひょっとして、それが派閥争いのタネなのかな……。姿形は似ていても人種が違うってことだろ? 勝手なイメージだけど、王族の人たちってプライド高そうだし、嫌だと思ってる人もいそうな気がする。
ローゼンさんの話を聞いてふと思案に耽っていると、ようやく大広間に到着した。
見上げるほどに天井が高い。天井には見事な絵画が一面に描かれていて、俺は思わず嘆息が漏らした。
壁一面の大きな窓の外には、またしても広々した庭が広がっている。さっきお茶会をやっていた庭の数倍は広く、サッカーコートが二、三面は取れそうだ。
「うわ……素晴らしいですね! 季節も良いですし、ガーデンパーティにしてもいいかもしれません」
「左様ですね。我々におっしゃっていただけたら、いかようにも設えますよ」
「ありがとうございます」
二百人は入るホテルの宴会場で、けっこう豪華な婚活パーティをやったことはある。会費は高くなってしまったが、高所得者限定という謳い文句が効いて大盛況だった。
だが、この広間の見事さと素晴らしさは比べようがない。俺は気合を入れるべく、腕まくりをした。
「では、早速準備を始めていきましょう」
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