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第38話 独り占めできる時間

 すっかり陽が落ちるまで、俺はローゼンさんと彼の部下たちとともに、婚活パーティ会場の設営に勤しんだ。  会場が素晴らしいから特に手を加える必要はなかったのだが、ご令嬢たちが一斉にオルヴァ様に殺到しないよう、しっかり動線は設定させてもらった。    まずはご令嬢がたにプロフィールカードをご記入いただき、それをもとにオルヴァ様と五分程度の会話をしていただく。いわゆる『自己紹介タイム』だ。  今回、男性はひとりというアンバランス極まりない婚活パーティだが、致し方ない。会場の最奥にいるオルヴァ様の前に一人ずつお進みいただき、そこで会話をしていただくのだ。  ご令嬢たちには、長時間待たなくてなならないわけだが、その間は美味しい食事やデザートを楽しんでいただくことになった。  こういう形式をとらないと、ご令嬢たちが団子になってオルヴァ様に押し寄せてしまう危険性がある。もし、女性に苦手意識のあるオルヴァ様に目をぎらつかせた女性たちが一気に詰め寄ったら——……考えるだけでヒヤヒヤする。  その後は、オルヴァ様的に好印象だった女性をピックアップしていただき、その数人とフリートークの時間を設定する。そこで何人の女性が残るかは未知数だ。オルヴァ様がピンと来る女性がどれほどいるか、またはいないか……場合によっては、第二回婚活パーティを開催することにもなるかもしれない。  ——さて、どうなることやら……  適度な疲れを感じつつ、俺は離宮に戻ってきた。会場設営に集中していたおかげで、この数時間は余計なことを考えずに済んだ。 「……あ」  離宮の入り口の前に、フェルナンとギルバートが戻っている。ということはつまり、オルヴァ様も帰ってきているということ。  にわかに、心臓が早鐘を打ち始めた。 「おや、リオン様もお戻りで」  俺に気づいたフェルナンがにっこりまろやかな笑みを浮かべた。俺は軽く会釈を返し、ふたりに近づく。 「お帰りなさい。視察はどうでしたか?」 「つつがなく終わりましたよ。盗賊の群れが襲いかかってくるのではと考えておりましたが、至って静かなものでした」 「そう、よかった……」  ほっと胸を撫で下ろしていると、ギルバートが静かに頷いた。 「オルヴァ様の領地となるブレイバルトという街は、魔法石採掘場を抱くフィオレアン王国の重要拠点です。早々に賊への懸念を潰しておきたいところです」 「ほんとですね」  頷きつつ、ちりりと胸を刺す痛みに耐える。    外堀はどんどん埋まり始めている。もはや、オルヴァ様の気持ちの如何にかかわらず、妻を連れて領地へ赴くことはすでに決まっていることなのだ。  確実に、着実に、国の一部としての働きを求められているオルヴァ様は、どういうお気持ちでおられるのだろう。  俺はふたりにぺこりと一礼し、足早にオルヴァ様の部屋へ向かう。早くオルヴァ様の顔が見たかった。ほんの一日……いや、数時間離れていただけなのに、こんなにもあの人の笑顔に焦がれている。  ——あと一日、あと数時間だけか。俺がオルヴァ様を独り占めしていられるのは…… 「オルヴァ様……!」  勢いよく扉を開いて部屋に飛び込むと、窓辺に佇むすらりとした後ろ姿が見えた。  俺の声を聞き、ぱっと振り返ったオルヴァ様の表情が見る間にほどけ、柔らかく優しい笑顔になる。 「リオン、おかえり」 「っ……あ、ただいま戻りました。オルヴァ様も、おかえりなさい」 「ああ、ただいま」  カイゼル様が身につけている濃紺の軍服と似たデザインの衣装を身につけたオルヴァ様は、眩しいほどに凛々しいお姿だ。ぽーっとなってしまいそうになったがなんとか理性を引き戻し、俺はこっちに歩み寄ってくるオルヴァ様に近づいた。 「ご無事で何よりです。領地のほうはいかがでしたか?」 「想像していたよりもずっと活気のある素晴らしい街だったよ。街の人たちが皆とても元気でね、僕のことも歓迎してくれたんだ」 「へえ……! それはよかったですね!」  表情がいつになく引き締まっていて明るいのは、街の人たちと良い交流ができたからなのだろう。いつもより早口になって見たこと、聞いたこと、経験したことを話してくれるオルヴァ様が可愛くてたまらない。胸が引き絞られるような想いを抱えながら、俺は明るく相槌を打った。

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