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第42話 一体何が……!?

   ◇ 「……はあ、しんど」  人混みから離れると、ほっと一息つくことができた。  俺は西側の城門のすぐそばに造られた噴水の縁に腰を下ろした。この門は主に城に荷物などを届けにくる商人たちが使うものらしく、今もひっきりなしに人の出入りがあった。  その門のそばにある噴水は、随分長く稼働していないらしく、中央に佇む天使像は汚れが目立っている。噴水の中を満たす水も、少し澱んでいる。  その水面に冴えない顔をした自分が映っている。 「はぁ…………」  この気持ちの重さは一生消えそうにない。失恋すると、こんなにも苦しいものなのか。  昨日、オルヴァ様は俺を抱いてはくれなかった。  オルヴァ様は俺にそっとガウンを羽織らせ、少し寂しげに微笑んだ。 『やめておこう。今日はこのまま眠りたい』——オルヴァ様はそう言って、火照り切った俺の体をただ抱きしめてくれた。  恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。やったこともないのに慣れたふりをして、準備万端で後ろの準備までしていた自分が恥ずかしくて、情けなくて、全く眠れる気がしなかった。  オルヴァ様も無言のまましばらく起きていたと思う。だが、遠出の疲れもあったのだろう、いつしか静かな寝息が聞こえ始めたころ、俺はそっとオルヴァ様の腕から抜け出した。  そして、部屋の護衛はフェルナンとギルバートに任せ、離宮の空き部屋で休ませてもらったのだ。  だから今朝は、まだオルヴァ様と顔を合わせていない。  そもそも今朝は午前中いっぱい王族の方々と過ごす予定になっているため、俺はあの人に会うことができないのだ。  おそらく今後の話し合いなんかをするんだろう。オルヴァ様の妻が今夜決定し、その後結婚式をどうするかとか。いつ領地に旅立つのかとか——確定した未来のことを細かく詰めていくのだと思う。   その未来に、俺が関わることはない。  ——オルヴァ様に愛される女性が、羨ましいな……  優しくて、素直で、純粋で、曲がったことを嫌うまっすぐな人。  ちょっと後ろ向きなところもあるけれど、穏やかに愛される幸せが積み重なっていけば、きっと性格は変わっていくだろう。  ——いつの間に、こんなにもオルヴァ様のことを大切に思うようになっちゃったんだろう……  そして、あわよくば愛されたいとも思っていた。でもそれは、絶対に表に出しちゃいけない感情だ。  今日の婚活パーティで、オルヴァ様はきっとたくさんの人に愛される自分を知る。その中から、自分に合う相手を見つけ出す。  俺はそのお手伝いをする。オルヴァ様が幸せな未来を掴み取るために、俺は黒子に徹してオルヴァ様をサポートする。それが俺の仕事だから。  ——素敵な王子様には、ハッピーエンドしか似合わない。  懐いてもらえて嬉しかった。不遇な幼少期、少年時代を過ごしたあの人が自信を取り戻すお手伝いが少しでもできたこと、誇らしく思っている。  笑顔さえぎこちなかったオルヴァ様が、自然に笑えるようになった。視察先でも、たくさんの民とあたたかい交流ができたようだった。  兄弟関係だって、もう大丈夫だ。オルヴァ様の人生は、このままいい方向に進む。  幸せな未来を、きっと築ける。 「……あ、そういえばパーティの料理のことでシェフと話すんだった。厨房に行って、それで……」  ゆらりと立ち上がり、身だしなみを整える。深呼吸して空を見上げ、俺はぎゅっと唇を噛み締めた。 「……未練がましいぞ俺。しっかりしろ。今夜の婚活パーティは、絶対に成功させるんだからな」  あえてのように大きな声で言葉にすると、少しだけ気持ちがしゃんとした。上着の襟をビシッと正し、城の中へ戻ろうと踵を返す。    ふと、視線を感じた。  周りを見回してみるも、忙しそうに荷車を引いている人や、荷物の上げ下ろしをしている商人らしき人々がいるだけだ。こっちに注意を払っているような人間はいないようだが……  ——寝不足のせいか。……シェフと話したら、ちょっとだけ仮眠を……  伸びをしながら城に戻ろうと足を踏み出したそのとき、突然背後から誰かが抱きついてきた。  驚いて振り返ろうとしたが、荒々しく口元に湿った布を押し付けられ、息ができなくなる。 「っ……!? っぐ、んんっ……!!」  同時にざらりとした布で目隠しをされ、俺はゾッとした。  カイゼル様から聞いた『迷い子』のひどい扱い。  このまま拉致されてしまったら、俺は——……!!  俺はやけくそに暴れて抵抗しようとした。だが、それは長くは続かなかった。  下腹を打つ重い衝撃とともに、俺は意識を失った。

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