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第44話 盗賊の正体

「第三王子の母親は、我々の家族だった。……ミナルテを蔑ろにした国王のことも、我らは決して許さない」  ——ミナルテって……前王妃殿下のことだ。名前呼びって、どういうことだ……!? 「あんた……前王妃殿下と、どういう関係なんだ……? どうしてこんな、人を攫うようなことをやってるんだよ」    そう問いかけずにはいられない。小男は尚も冷え冷えとした目つきで俺を見下ろしていたが、ふと唇に笑みを浮かべた。 「まぁいいか。あんたはもうすぐ隣国のジョシュゼン公国に売られる商品。この国の最後の土産に聞かせてやろう」 「ミナルテは俺の従姉妹だ。幼い頃は、本物の姉のように慕っていた」  三十六年前、ミナルテ様は十八歳で国王陛下のもとへ嫁いだ。レイムハルト公爵家の長女として賢く美しく成長した彼女は、フィオレアン王国の民から熱い歓迎を受けたという。    そしてそのレイムハルト家は、かつて異国からやってきた民の一族。  移民だった彼らの一族が、ついに王妃となったのだ。その頃にはすでに複数の貴族としてフィオレアン王国に根付いていた彼らだが、このなによりもめでたい出来事にいっそう湧いた。  ミナルテへの一族からの期待はすさまじいものがあった。絶対に男子を産め、たくさん産め、そしてこの国にもっともっと我らの血族を増やすのだ——と、たびたび彼女に文を送ってプレッシャーをかけていた。  努力家で真面目な彼女は一族の期待に応え、アルヴィス様とカイゼル様を産んだ。  だがその頃には、国王陛下の心が彼女から離れ始めていた——…… 「国王に謁見がかなう立場にあった俺は、何度も何度もご意見申し上げたさ。どこぞで女遊びばかりをしていては、国王としての品性が問われる、他国からの良い笑いものだ。あんなにも美しい妃になんの不満があるのかと」 「国王に会える……? あんた、貴族なのか?」 「ああ、元はな。……とある一件以来、俺の両親は断罪され、爵位は剥奪。我が家系は断絶した」  家を取り潰された元貴族。身綺麗ではないものの、どことなく話し方に漂う知性はそのせいだったのかと腑に落ちた。 「そ、それで国への腹いせに、盗賊行為をしているってことか……?」 「我が一族は皆冷遇されるようになり、領地は全て没収。国外へ逃げたもの、物乞いに身を落としたもの、病で死んだもの——俺たちは散々な目にあった。これまで、誠心誠意この国に支えてやっていたのに、恩知らずもいいところだ」 「魔法石くらい奪って何が悪い。この国の石は高品質だ。他国に高く売れるのでね」 「……いったい、国王に何をしたんだ。あんた」 「ミナルテを蔑ろにしたあの男を、我ら一族との晩餐会の席で殺そうとした」 「えっ……」 「何度意見しても、あの男は行動を改めなかった。気を病んだミナルテは死に、挙句すぐに若い馬鹿女を後妻に迎えている。ただの好色野郎をいつまでも王位につかせているこの国もおかしい。とっととあいつを排除して、ミナルテの血を——我らの血を継ぐアルヴィスを王位に就かせようとした」 「な……なんてことを」  現代日本人の俺でも、この男がやろうとしたことがどれだけ非道なことかはわかる。私怨のために国のトップを暗殺しようとするなんて……! 「そして極めつけは、オルヴァだ。あの不気味で忌まわしい姿といい、母親を階段から突き落とすという悪魔のような所業……あいつは間違いなく呪い子だ」 「呪いなんてあるわけないし、あれはれっきとした事故だ! 赤ん坊が親を突き落とすなんてありえない!」 「ふん、貴様にはわからないだろう。女遊びの絶えないあの男への悲憤、女たちへの卑屈な嫉妬……ミナルテの怨嗟の姿がオルヴァそのものなのだ!」  おそらくこの男、身内を蔑ろにされて自分のプライドさえも傷つけられたと感じているのだろう。一族全体をコケにした国王陛下を憎み、殺そうとし、オルヴァ様のことも陥れようとしているのだ。  ——国王に対して怒る気持ちはわかるけど、だからって殺そうとしたり、何も知らないオルヴァ様を巻き込もうとするなんて許せない。  この男たちをこのまま放置していていいのだろうか。俺が国外に売られたとして、その後もこいつらはコソコソとこの国で悪さを働き続けるのだろうか。恨みを抱えたままずっと、オルヴァ様がいるこの国で……?  ——ダメだそんなの。絶対にダメだ……! オルヴァ様が幸せに暮らすこの国に、こんなやつらがいていいわけがない……!!  俺は唇を引き結び、後ろ手に縛られた手をグッと握りしめる。  何かないか。何か。こいつらを止める手立ては。 「おい、いつまでダラダラしゃべってんだよ。ふぁ~~あ、ちょっとそいつで暇つぶしさせろ」

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