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第46話 婚活パーティは!?
「リオン!! ここか!!」
バン!! と激しい音とともにドアが破られ、真っ白な貴族服に身を包んだオルヴァ様が現れた。
まだ目にしていなかった新衣装。俺が王宮御用達の仕立て屋に依頼して作ってもらった、婚活パーティのために誂えてもらったとっておきの盛装……!!
——ひぇぇ〜! めっちゃくちゃ似合ってる!! カッコ良すぎるだろ!!
こんなときだがオルヴァ様にすっかり目を奪われていると……
「っ……リオン!!」
ベッドの上で大男に跨られている俺を見るやオルヴァ様の顔から表情が消え、金眼が暗がりの中でぎらりと光を帯びた。
刹那、腰に帯びていた鞘から一閃の光が走る。
次の瞬間には、俺の上にいた大男が、言葉を発するまもなくぐらりと後ろに傾いて、倒れた。
——えっ、こ、こ、殺した……!?
下半身を丸出しにして倒れ伏した男を汚物を見るような目で睥睨しているオルヴァ様の背後に、今度はあの小柄な男の刃が迫った。
「ミナルテの仇だ!! 貴様も死ね!!」
だがオルヴァ様はまるで動じる様子もなく、スッと身を交わして突き出された刃をよけた。ぶん、ぶんっと振り回される剣を造作もなく躱しながら、オルヴァ様は流れるように男の背後に回り、剣の柄で男の首のあたりを突いた。
さほど重い衝撃を喰らったようには見えなかったが、小男は白目を剥き——そのまま埃っぽい床に倒れ伏す。
——つ、強い……
あっという間に賊を二人制圧したオルヴァ様が、音もなく剣をしまう。最後にカチリと刀身が収まる音だけが静かに響いた。
「……リオン!! ああ、リオン!!」
駆け寄ってきたオルヴァ様にベッドの上で助け起こされ、後ろ手に縛られていた手が解放される。ずいぶん長い時間無理な体勢で縛られていたらしく、腕の付け根がびりびりと痛む。
肩を覆っていたマントを外したオルヴァ様が、ふわりとそれを俺に羽織らせる。そしてそのまま強く強く抱きしめられた。
「リオン! すまない、遅くなってしまって……!!」
「オルヴァ様……どうして……?」
「何をされたんだ!? あの男に酷いことをされたんだろう!?」
「い、いえ……かろうじて、まだ……」
「本当に!? 本当に何もされていないのか!?」
「は、はい……」
オルヴァ様は俺の上腕をガシッと掴んで全身くまなく視線を巡らせ、俺の目をじっと覗き込んできた。長い指がそっと持ち上がり、俺の目尻を優しく拭った。
痛ましげに細められる美しい双眸がそこにある。恋焦がれたオルヴァ様が目の前にいる。
これは紛れもなく現実だ。オルヴァ様が、俺を助けてくれた……
安堵すると同時に、ガタガタと全身が震え始める。そんな俺を、オルヴァ様はもう一度腕の中に包み込んでくれた。腕の中で見上げたオルヴァ様は、賊を相手にしていたときの酷薄さが嘘のように、いつもの穏やかな表情に戻っている。
「本当にすまない。……僕が中途半端な態度を取らなければ、こんなことにはならなかったんだ」
「……え? 中途半端って……」
そう問おうとしたとき、蹴破られたドアを踏んでカイゼル様が姿を現す。ベッドの上で抱きしめられている俺を見るや否や、ただでさえ釣り上がり気味の目がさらに鋭く吊り上がった。
「この大馬鹿者!! 『迷い子』だから狙われるぞと忠告したそばからふらふらひとりになるとは何事だ!!」
「すっ……すみません……!! でも城内だったし……」
「街の者がうろうろ出入りできるような場所だろうが!! もっと危機感を持って行動しろ!!」
「は、はい!!」
「兄様、やめてください。あなたにリオンを責める資格はないでしょう」
冷ややかな声とともに、オルヴァ様がひょいと横抱きにした。オルヴァ様がカイゼル様に向ける冷たい視線に、俺は戸惑うばかりだ。
「いつかの遠乗りのとき、リオンを連れ出したのはこのためだったんでしょう?」
「……。なんのことかな」
「とぼけないでください。『迷い子』の存在を盗賊団に示し、リオンを囮に使うつもりだった。そして実際、その通りになった」
「え……」
嫌な沈黙が落ちる。オルヴァ様に疑いの視線を向けられても、カイゼル様は普段と変わらぬ無表情だ。
だがふと、気が抜けたような吐息がカイゼル様の口から漏れ——、小さく唇が歪んだ。
「すごいじゃないかオルヴァ。よくわかったな」
——ええええ……俺、囮に使われてたの……!?
ショックだったけど、こいつならやりかねないという納得感もある。だが、オルヴァ様はさらに視線を鋭くし、兄を睨みつけている。
「……やはりそうですか」
「だがな、囮に使うつもりだったからリオンには常に見張りをつけていた。だからこそ、売られる前に助けられたんだぞ」
「でも、リオンは恐ろしい目に遭いました。一歩遅かったら、何をされていたかわかりません」
「……それについては、謝る」
盗賊を捕まえるためなら手段を選ばなそうなカイゼル様が、意外にも謝意を口にした。
しかも俺をまっすぐに見つめて、深々と頭を下げてきた……!
「危険な目に遭わせて本当にすまなかった。この通りだ」
「あ、あの……そんな、やめてください」
「お前のおかげで奴らを捕縛することができた。感謝する」
「え、あ、……はい、どうも」
キビキビした動きで身体を起こしたカイゼル様は、小柄な男を後ろ手に縛り上げ、部下を呼んで引き渡した。そして俺にフェラさせようとしてきたあの大柄な男もまた、同じように部屋から連れ出されていく。
オルヴァ様に横抱きにされたまま部屋を出る。俺が連れ込まれたのは、そこそこの広さのある屋敷のようだ。盗賊のアジトとして使われていたらしく、俺がいた部屋以外でも男たちが捕まり、暴れ、暴言が飛び交っている。
「帰ろう。こんなところにリオンを長居させるわけにはいかない」
どこか硬い口調のオルヴァ様に、俺は恐る恐るこう尋ねた。
「……オルヴァ様、あの、婚活パーティは……?」
もう外は真っ暗だ。今が何時何分かわからないけど、間違いなく婚活パーティは終わっている。てことはつまり、オルヴァ様にはもう、伴侶がいるってことだ。
なのに、俺が攫われたと聞いて助けに来てくれた。優しいオルヴァ様のことだ、婚活をサポートした俺に恩を感じてくださっているんだろう。
オルヴァ様は小さく息を吐き、腕に抱えた俺に向かって微笑んだ。
「大丈夫。ご令嬢ひとりひとりにきちんと事情を話し、納得してお帰りいただいた」
「そうですか。一体どちらのご令嬢を奥様に——…………え? おかえりいただいた?」
呆気に取られている俺を抱き抱えたまま、オルヴァ様は建物の外で待っていた馬車のほうへと歩を進めていく。外はすでに真っ暗だったが、馬車に魔法石がくっついているようで、そこだけほんのりと明るかった。
そこには白衣のようなものを羽織った男女が数人待機している。オルヴァ様は俺だけを屋根付きの馬車に乗せ、微笑んだ。
「まずは傷の手当てをしてもらってくれ。僕はここで残党を捕まえてから城へ戻る」
「ちょっ、ちょっと待ってください! お帰りいただいたってどういうことですか!?」
身を乗り出してオルヴァ様を問い詰めようとする俺を、白衣の男がやんわりと制止してくる。オルヴァ様は彼らに「リオンを頼んだぞ」と言い置いて、ふたたび足早に洋館のほうへと行ってしまった。
ええとつまり。……婚活パーティは失敗だったってこと、か?
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