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第47話 バレる嘘

 先に城に戻って傷の手当てを受けたあと、俺は離宮でオルヴァ様の帰りを待っていた。  せめてローゼンさんに事情を聞きたかったけれど、すでに夜更けだ。この時間に叩き起こすのは悪い気がして、俺はそわそわ部屋の中を歩き回っている。  一時間、二時間は待っていただろうか。落ち着かないのでひとまず湯を浴び、堪えきれずに大欠伸をしたそのとき、部屋のドアが勢いよく開いた。  弾かれたように振り返ると、あちこち汚れた白い貴族服姿のオルヴァ様が立っている。  俺の姿を見てホッとしたように眉間の力を緩め、微笑んだ。 「リオン、起きていてくれたのか」 「そりゃおちおち眠れませんよ! 事情をお聞かせ願えますか!?」 「ああ……盗賊のことだね。巻き込んで本当に、」 「違います! 婚活パーティのことです!!」 「え?」  攫われたことはもちろん一大事だが、俺にとっては婚活パーティでなにがあったか知ることのほうが重大事項だ。 「と、とりあえず落ち着いてくれないか、リオン。そこに座って、傷を見せてくれ」 「傷はなんともありません! ちょっと縛られてただけですし、口に突っ込まれそうなったけど未遂でしたし!!」 「っ……」 「教えてください、どういうことですか!?」  ベッドに腰を下ろすや否や前のめりになって詰め寄ると、肩をそっと掴まれた。宥めるような目つきで覗き込まれる。 「わかった。ちゃんと話すから落ち着いてくれ」 「俺は落ち着いてます」  オルヴァ様いわく。    婚活パーティが始まる時刻になっても俺が現れないことが心配でたまらず、オルヴァ様はフェルナンたちに俺を探すよう命じたというのだ。  その流れで、カイゼル様の兵が城門の周囲で騒いでいることに気づいたオルヴァ様は、その場にいた兵を問い詰めた。    そこでオルヴァ様は俺が攫われたことを知った。  すぐにでも駆け出して行こうとするオルヴァ様を一旦引き止めたのはアルヴィス様だった。  大勢のご令嬢を集めておいて主賓のオルヴァ様が不在とあっては失礼千万。そもそも、婚活コーティネーターの俺がいなくなっただけ。オルヴァ様にとって、今日集まった令嬢の中から妻を決めることのほうがよっぽど大事だ。リオンのことはこちらで捜索するから——と説き伏せられたのだとか。  だからオルヴァ様は、ご令嬢が一堂に集まる大広間でこう宣言した。 『私の大事な人が盗賊の一味に攫われてしまった。すぐに助けに行かねばならない』と。そして、『今日集まってもらったこと、心より感謝している。だが、私にはもう心に決めた人がいる。その人を今から救い出しにいかねばならない』——……と。 「……え? あの、ちょっと待ってください。大事な人ってのは……」 「リオンに決まっているだろう」 「……。そ、それって、どういう……」  おかしい。話の内容が俺にとって都合がよすぎる。俺は耳を疑い目をこすり、首を捻った。  なんだ? ひょっとして俺はまだ盗賊に囚われたまま眠っていて、そこで幸せな夢を見ているんじゃないのか?  耳を疑うばかりの俺を見て、オルヴァ様がふっと笑った。 「混乱させてしまって、すまない。本当はパーティの前に、どうしてもリオンに話したいことがあったんだ」 「話したいこと……?」    首を傾げる俺を見つめるオルヴァ様の頬が、うっすらと桃色に染まる。  長いまつ毛が震え、鮮やかな瞳がとろりと金色に揺れ——オルヴァ様は、口を開いた。 「リオン。僕の伴侶になってほしい」 「………………へ……?」 「僕は、誰よりもリオンを大切に思っている。——君が好きだ」 「……っ……」  俺は呼吸を忘れてオルヴァ様を見つめた。  突然の告白で言葉が出ない。黙り込んでいる俺を真剣な眼差しで見つめるオルヴァ様の手に、ぐっと力がこもる。 「そ、そんなことできるわけありません! 俺はただの庶民で、しかも男ですよ!? お世継ぎを産むこともできませんし、それに、俺はそもそもあなたの婚活をサポートするために、」 「わかっている。……たぶん、リオンが身分差を気にしていることも、懸命に立場をわきまえようとしていたことも、なんとなくわかっていた」 「えっ。そ、そうなんですか……?」  オルヴァ様は頷き、そっと俺の頬に指の背で触れた。  かすかにひんやりとしたオルヴァ様の手の感触はリアルで、触れられただけで愛おしさが込み上げてくる。俺は目を閉じ、わずかに身震いする。 「ほら、またそんな顔を」 「……そんな顔?」 「ねえリオン。演技だといってたのは、嘘なんだろ?」 「え……っ。い、いやその。あれは……」  思わず弁解しようとすると、オルヴァ様の親指が俺の唇をそっと押さえた。  オルヴァ様からの告白が現実のものだという実感がじわじわ湧いてきて、顔が熱くなっていく。見つめられるだけで瞳の奥まで熱が燻るようだ。  何も言えなくなってしまった俺を見つめたまま、オルヴァ様は少し困ったように笑った。 「こんなことを言ったら失礼に当たるだろうが……リオンは、あまり演技がうまくないと思う」 「うぐ……っ。えっ!? そ、そんな……!」 「僕とキスをしていた時のリオンの目は演技じゃなかった。僕に家族の話をしていたときも、抱いてほしいと、言ってくれたときも」  ——うそだろ。ば、バレてた……!?  オルヴァ様はウブだから、未経験者の俺でもなんとかなると思っていた。『閨指導』にかこつけて、邪な気持ちを抱えながらオルヴァ様に触れていたことがバレていたなんて……!!  さっきとは違った意味で顔がカーッと熱くなる。たまらずそっぽを向こうとしたが、やんわりと頬を包まれてまたオルヴァ様と鼻先を付き合わせるような格好になってしまった。 「僕は、幼い頃から、お母様や、サルドラド帝国で人の顔色を窺いながら生きてきた。だから、人を見る目には自信がある。あれは演技じゃないんだろ?」 「……う、うう……」 「どうなんだい? 本当のことを教えてくれ」  答えを請われ、俺は一瞬ぎゅっと目を瞑った。  だがもう、これ以上偽れない。これ以上自分の気持ちを押さえきれない。  諦めた俺ははぁ~~~……と長い長いため息をつき、うめくように呟いた。

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