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第49話 国王陛下の語る過去
◇
翌日、俺はひとりで離宮の庭にいた。
オルヴァ様は朝から領地へ赴くための準備があり、城を離れている。なんでも、オルヴァ様とともに魔法石採掘の街・ブレイバルトに同行する騎士たちの任命式があるのだとか。
フェルナンは騎士団長、ギルバートは副騎士団長とし出世し、この先もオルヴァ様にお仕えすることになる。
そして俺も、生涯オルヴァ様のおそばにいることを許された。
それも伴侶として。オルヴァ様の愛を一身に受ける存在として……
「ああああ……なんだこれ、いまだに信じられないな……はぁ、いいのか俺。こんなにやけまくってていいのか……? 何か落とし穴でもあるんじゃないのか……?」
慣れない幸福に酔いつつも、慣れなさすぎて何か裏があるのではと考えてみたりして……。でも、昨晩のオルヴァ様は幾度となく俺に愛を囁いてくれた。有り余るほどの熱を、俺に注いでくれた。
——うう……思い出すだけで勃っちゃいそう。オルヴァ様、普段はおとなしそうな顔して夜はすごいんだな。若いからってのもあるだろうけど、俺のこと、あんなに欲しがってくれて……
爽やかな昼下がりの空の下にいるというのに、俺の頭の中はピンク一色だ。
溢れんばかりの煩悩をなんとかするべく深呼吸を繰り返してみても、身体に染み込むほどに突き上げられた腹の奥がずくずくと疼いて、余計にたまらない気分になってくる。
——だ、だめだぞ理音。浮かれてばかりもいられない。俺はオルヴァ様のパートナーとして、共に領地を治めて行く立場になるんだ。しっかりこの世界のことを勉強して、オルヴァ様の助けになるんだからな……!
そう、いつまでもぽやぽやしてはいられないのだ。
とりあえず、この国の建国以来の歴史を振り返ろうと思い立ち、部屋の中に戻ろうとした。すると……
金色の飾緒が煌びやかな、見たこともない派手な兵士たちが、ぞろぞろと離宮の庭に並び入ってきた。今度は何事かと仰天していると、ひときわ派手な槍を手にした男が先頭に現れて、声高にこう述べた。
「国王陛下のおなりである! |頭《こうべ》を垂れよ!」
「こっ、国王陛下が……!?」
そりゃここはオルヴァ様のお住まいであるから、いつ国王陛下が現れてもおかしくはない。だが今はお留守だ。俺しかいないのに、国王陛下が参られるなんて何事だ!?
——え、まさか……! 『オルヴァの言ったことはなかったことにしてくれ』とか言われちゃうのか? それで俺、ひっそり城から追い出されたりして……?
腰を折って頭を下げている間も、冷や汗がじわりと滲む。青々とした芝生を見下ろしながら、どのような沙汰が降ってくるのか、俺は怯えながら国王陛下の声を待った。
すると……思いの外のんびりした低音の声が、頭上から降ってくる。
「よい、頭を上げよ。きみがリオン・ナルミだね」
「……えっと……はい、そうです」
「ほう、『迷い子』……か。ほう、これは珍しい」
顔を上げた俺を、国王陛下がしげしげと見つめてくる。
恐れ多くて目を合わせられないが、とても大柄で華やかな容姿をしていることはわかった。足首までを覆うたっぷりしたマントが、俺の視界で揺れている。
「まあ、楽にしてくれ。まずは、王家の騒動に巻き込んだこと、カイゼルが君を囮に使った件についてだが……本当に申し訳ないことをした」
「えっ!? あ、いえ、こちらこそ……!!」
なんてことだ、国王陛下が俺に頭を下げてきた。
またしても仰天してパッと顔を上げると、国王陛下もちょうど顔を上げて姿勢を正すところだった。
アルヴィス様によく似た、たてがみめいて見える金色の豊かな髪を揺らし、国王陛下がゆっくりと頭を上げる。
——わあ……この人が国王陛下。オルヴァ様の、お父様……
彫りが深く整った顔立ちはオルヴァ様たちにそっくりで、確固たる血筋を感じる。
この国で一番偉い人だという認識はあるが、思っていたよりも威厳というか、威圧感のようなものがなく、意外と話がしやすい雰囲気だ。
「そして、オルヴァが本当に世話になったね。あの子から君への想いを聞いた」
「そっ、その件につきましてですが、婚活コーディネーターとしてご子息のお相手を見つけるべきところを、私のようなものがしゃしゃり出てしまい、大変申し訳ありませんでした……! お世継ぎが望めなくなってしまったことについて、私は——」
「ああ、いい。それはいいんだ」
国王陛下は悠然とした動きで片手を上げ、俺の謝罪を遮った。
「オルヴァを十一年にも渡り遠ざけてしまったことを、申し訳なく感じていた。あの子が帰国したと聞いていたが、今更どの面を下げてオルヴァに会えばいいのか分からず……出迎えが遅れてしまったのだよ」
「あ……そうだったんですか。人質外交、とお聞きしていますが……」
「人質、か。……それは違うんだ」
国王陛下は疲れた表情でため息をつき、膝に肘をついて頭を押さえた。
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