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第50話 体調不良の原因
「前王妃のことについては、オルヴァから聞いているね?」
「あ、はい……。盗賊に落ちてしまわれたご親戚からも、多少……」
「そうか……あの男。ミナルテの従兄弟だな。クヌトという男だ」
あの小男はクヌトという名前らしい。長年に渡って憎悪を煮詰めてきたようなあの男の目を思い出し、俺は小さく身震いした。
「オルヴァが生まれたとき、あの男が大騒ぎをしてな。オルヴァの容姿を見て——この禍々しい姿はミナルテの恨みが具現化したものだ、と」
「ああ……言っていましたね、そういうことを」
現代人の俺からすれば、非科学的すぎて信じるに値しないことだ。だが国王陛下は項垂れたまま、重い口調でこんなことを言った。
「ミナルテの体調の悪さも、すべて私とオルヴァのせいだと。私の不誠実さは言い逃れできない事実だが、生まれたばかりのオルヴァになんの咎があるというのか。……だというのにあの男は、幼いオルヴァにことあるごとに苦言を呈し、忌み嫌ってきた。私に対する恨みをオルヴァにぶつけるかのごとくな」
「そうだったんですね。……あの、大変大変失礼ながら……陛下が奥様を蔑ろにされていたという点については……その、事実でいらっしゃったのですか?」
恐る恐るそう尋ねてみると——……国王陛下が、項垂れるように頷いた。
「……事実だ」
「そっ……そう、でしたか。でも、どうして」
「ミナルテは年上で賢く、本当によくできた妻だった。いつも清く正しく美しく、曲がったことを嫌う立派な妻だ。……私は武芸ばかり好んで治世についてあまり明るくなく、若い頃は彼女の意見に頼り切りだったものだった」
国王陛下は苦笑を浮かべて俺を見た。
困り顔で笑う顔が思いのほかオルヴァ様にそっくりで、少し驚く。
「すると、周りの皆が言うのだ。ミナルテ様を女王にしたほうが良いのではないか? とな。だが彼女の一族は、もとは異国の民。彼女を国王にするなどもってのほかだと加熱する一派も現れた。カイゼルが生まれた頃、派閥争いが激化していてな。私はこの城にいるとひどく息苦しかった」
「だからその……息抜き、を?」
「まあ、な。君も男ならわかるだろう? 妻には頭が上がらず、外からはお前がもっとしっかりしろとせっつかれ、板挟みだったのだ」
「はあ……。ちょっと私には、わかりませんが……」
素直に俺がそう言うと、国王陛下は一瞬あっけに取られたように目を丸くし——そして、豪快に笑い始めた。さすがにちょっと失礼すぎたかも、とヒヤヒヤしていたが、国王陛下は何度も頷きながらこう言った。
「純粋なオルヴァには、君のようなタイプが合っているのだろうな」
「す、すみません。さきほどからたびたびご無礼を」
「かまわんさ。オルヴァの伴侶になるということは、君は我らの家族なのだ。父上と呼んでも構わないぞ」
「そ、そんな、畏れ多いです……!」
「ははは。……まあ、俺のそういう不誠実さがバレて、ミナルテはあんな間違いを犯したのだ。全て俺が悪い。クヌトの言うことは、何一つ間違っていないのだ」
「間違い、というのは……?」
首を傾げる俺に、国王陛下は小さく頷く。窓から見える空に思いを馳せるように遠い目をした。
「自分に女の魅力があればいいのだと、彼女は誤解をしたのだよ。それで妙な薬を飲んで、あんなことに……」
「妙な薬?」
「彼女の祖国に古くから伝わる『愛の秘薬』……それを飲んで、彼女は壊れてしまった」
「えっ……!?」
思ってもみなかった方向に話が動いた。俺は思わず身を乗り出し、「な、なんなんですか、それ!?」と食い気味に国王陛下に尋ねた。
陛下いわく。
ミナルテ様の祖国には、女性の性的な魅力を引き出すと言われていた薬があるのだという。
商人の男はあちこち行商の旅に出て行くため、浮気を働く者が多かった。ただの浮気なら、涙を飲んで許す女性も多かったようだが、中には浮気相手に本気になり、家に戻らない男もいたのだとか。
そんなとき、とある薬師が開発したのが『愛の秘薬』。
どこにどう作用するのかわからないが、その薬を飲めば女性の魅力はすこぶる高まり、夫の心を掴んで離さない女になれるというのだ。行商に出ていても、妻に会いたくてたまらなくなる——そんな眉唾ものな評判があったらしい。
「そ、それをミナルテ様が飲んでいたと……?」
「妙な包み紙を見つけ、はじめは俺に毒を盛ろうとしているのだと勘違いしたんだ。彼女を問い詰めたら、違った。これは祖国に伝わる薬だと彼女は言った」
「その頃にはもう、不調が出ておられたのですか?」
「ああ。急いでやめさせたが、彼女はの肉体はすでに痩せ始めていた上、オルヴァが腹の中にいた。俺はフィオレアン王国の医術師らに薬の成分を調べさせ、治療薬を作らせようと考えたのだが……」
その薬に、ミナルテ様が求めるような成分は含まれていなかった。
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