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四月③・親切にしてやる

翌日は、全校生徒が体育館に集まり、入学式と始業式がまとめて行われた。 入学式とはいえ、生徒の親が来る訳でもないから淡々としている。 それがこの学園の楽なところだ。 一学年は三クラスある。 圭吾とは違うクラスだったが、和登とはまた同じクラスで、互いに自分がビリにならずに済むと、喜んだ。 こうして、俺の高校三年生の一年が始まった。 — 入学式から一週間もすると、例年ホームシックになる一年生が多発する。 こんな花冷えの寒い夜は、特に。 だからと言って、学園から外へ出ることは許されない。 家に帰れるわけでも、電話ができるわけでもなく、ただ慣れるのを待つのみ。 森の木々に囲まれたこの生活に、馴染んでいく日まで。 圭吾は、ホームシックはないけれど、今夜も眠れないようだ。 相変わらず何度も寝返りを打つから、二段ベッドの上にも振動が伝わってくる。 寝つきのいい俺も、一度気になり出すと気になるもので、眠気が遠くにいってしまった。 日付が変わってからも、モゾモゾとしているから、低い天井を見上げたまま声をかけてみる。 「なぁ、眠れないの?」 ぼそぼそと返事がくる。 「もともと寝つきが悪くて、枕が変わったから余計に……。迷惑でしたよね。できるだけじっとしてますから」 どおりで毎朝、眠そうな顔をしているわけだ。 「よし。じゃあ、俺が一緒に寝てやるよ」 返事を聞かないうちに、自分の枕を持って二段ベッドの梯子を下り、圭吾の布団にもぐり込んだ。 本当は、新一年生にしてやりたかったこと。 本当の本当は、小さな弟にしてやりたかったこと。 こんな大きな男では代用にならないけれど、自己満足の為に行動に移す。 クラスの奴らに「光夜は突拍子もない困った奴だ」と散々聞かされているのか、圭吾は大きな拒絶をしなかった。 それでも眼鏡を外している眉間に、シワが寄った。 入り込んだ布団は、圭吾の体温で温まっていて生々しく、一瞬ドキリとしてしまう。 だけど彼に背を向け「はい、おやすみ」と目を閉じる。 圭吾は、あきらめたような溜息を一つついて「狭いですね」と言った後「おやすみなさい」と呟く。 温かさにウトウトしてきた頃、圭吾が話し掛けてきた。 「そのモフモフした髪、実家の犬みたいです」 「犬って。失礼な奴。俺さ、この学園に毎週日曜に来る美容師、苦手なんだよ。だから伸びちゃって。あの美容師も人生何回目?ってタイプだからさ」 「ふふっ」と、小さな笑い声が返ってきた。 しばらく無言だった後、また圭吾が口を開く。 「二人で寝ると温かいですね」 「あぁ俺、体温高いから」 「うちの犬と一緒だ。シェットランド・シープドッグの雌なんです。可愛いですよ」 だんだんと、圭吾の声が眠たそうになってくる。 「いつも犬と寝ていたんです。もうおばあちゃん犬なんですけどね。今頃、どうしてるかなクロワ」 男二人で入る狭い布団の中は、収まりがよくて意外と心地良い。 しばらくすると、スースーと穏やかな寝息が聞こえてきた。 俺は上半身を起こし、その寝顔を真上から見下ろす。 無防備な顔は意外と可愛くて、俺も少しは役に立てたと満足し、再び身体を横たえ目を閉じた。 — 「鳥の声が煩いのに、光夜はよくギリギリまで寝ていられますね」 朝になれば可愛くない男に戻っている。 既に髪をアップにセットした眼鏡の顔。 昨晩はよく眠れたのだろう。 すっきりとした表情だった。 「鳥の声?そんなのすぐに慣れるよ……。ギリギリまで寝かせて。八時までは食堂開いてるから、七時四十五分に行けば、間に合うから……」 その日の夜の消灯後も、枕持参で何食わぬ顔をして、二段ベッド下の布団へもぐり込む。 圭吾は一瞬顔をしかめたけれど、何も言わずに自分の枕を少しずらし、スペースを空けてくれた。

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