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四月④・特別な関係

「なぁ俺たち、前にどこかで会ったことない?」 そう聞いたのは、世間ではゴールデンウィークが始まる頃だった。 俺たちは、同じ布団で眠るのが、すっかり習慣化していた。 毎晩眠くなるまで、布団の中でどうでもいい話を少しだけする。 「出身どこだっけ?」 「東京の杉並区です」 「俺は静岡。三島市、行ったことない?親戚がいるとか」 「行ったことないですね。親戚もみんな都内在住です」 「俺も、東京行ったことない。うーん、接点は無さそうだなぁ。でもなんか知ってる気がするんだよな、圭吾のこと。何でだろ」 「えっ?なぜそう思うのです?」 「分からない、何となくだよ」 それで終わる、眠る前の取るに足らない会話のつもりだった。 しかし思いもよらず、圭吾がその話に食いつく。 「いやその感覚、大事ですよ」 そう言って上半身を起こし、俺の顔を覗き込んでくる。 沈黙が訪れ、圭吾も頭を枕に戻し、話は終わったかと思った頃。 「ねぇ、光夜……。僕の特別になってくれませんか?」 「ん?」 「僕と特別な関係になってください」 「は?何それ?突然何言ってるの?イヤらしい意味?同じベッドで寝てるから変な気持ちになっちゃった?え?」 真意が読めず、アワアワしながら、おちゃらけて答える。 「この学園多いんだよ、意外とそういうの。男ばっかりだとさ、ね」 「まさか。そうじゃなくて。この学園に転校してきたことで、縁の深い光夜とようやく出会えたんだ……と思いたい……」 「思いたい?何それ。何の話?」 「探してるんです、そういう縁を。自分と深い縁の人を探す為の能力を高めたくて来たんです、この学園に」 「縁……」 「そう、縁。お祖父様から、自分と縁の深い人を見つけることが何より大切だと、小さな頃から何度も言われて育ってきました。でも、僕はそういう能力が芽生えなくて。そんな中でも光夜には何かを感じているんです。光夜もそう思ってくれてるならと、勇気を出してみました……」 自分の言っていることが無茶苦茶だと気づいたのか、圭吾の声がだんだんと小さくなる。 「恋人って意味じゃないんだろ?」 「もちろん」 「親友みたいなこと?」 「いやもう少し、出会うべくして出会った運命の人って感じの」 「変なの。でもいいよ。すげぇ面白そう」 「実は僕、親友もいたことがないんです。「この人はこうしたいんだろうな」と先の先までついつい考えちゃうから。何事においても遠慮が生じてしまって。「一緒に帰りましょう」すら、同級生に言えなかったんです。幼稚園の頃から」 「空気を読み過ぎちゃうわけか」 「でも、光夜のことは全く読めないんです」 「何だよ、それ」 寝返りを打って、俺は圭吾のほうを向く。 「褒めてるんですよ。そういう人、好きなんです」 圭吾は、そう口にしてから「好き」という語彙を使用したことに照れたのか、赤くなる。 そこで照れられたら、俺まで恥ずかしくなるだろ。 「分かったから、もう寝うぜ。明日から特別だからな。おやすみ」 「ありがとう。おやすみなさい」 翌日。 俺は「特別」っていう響きがくすぐったくて、授業中もニヤニヤしながら過ごし、和登に気味悪がられた。 「特別な関係になったんだから、連れてってやるよ」 放課後にはそう言って、和登も知らない森の中の秘密の場所へ、圭吾を案内してやった。 夕暮れ間近の森には、斜めから当たる陽の光が反射して燦く。 「ほら、このクスノキ。上を見て。大きく三股に分かれるところに、板が張ってあるだろ?あそこに座ると、気持ちがいいんだ」 一年生の時に雅史先輩が作ってくれた俺の避難場所。 上に伸びる枝が雨除けになって、多少の雨なら濡れないで過ごせる。 自慢げに説明をしながら、上から垂らしてある縄梯子を先に上る。 「ほらこいよ」 「高いところは苦手で」 「は?何言ってんだよ、ほら」 手を差し出して促すと、圭吾はおっかなびっくり登ってきた。 「眺めがいいだろ?向こうの温室まで見えるんだ。風もよく通るから、森の匂いに包まれた気になれる」 「あー、まぁ。そうですけど……小さな虫がいっぱい飛んでますね……」 圭吾は、少しも気持ち良さそうではない。 「食べる?」 いつも一人でこっそり食べているグレープ味のグミを分けてやれば、少しは喜ぶかと思った。 「グミは食感がちょっと……」 圭吾は顔をしかめている。 全然趣味が合わないって顔をして。 これでも俺たち、縁がある運命の人って言えるのだろうか? でも、それもまた面白くて笑える。 早く降りたそうにしている圭吾を見て、満ち足りた気持ちになれた。

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