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六月①・フォークダンス

六月が始まったばかりの日。 曇天でもいつもと変わらず、窓の外から鳥の鳴く声が、何種類も聞こえてくる。 「光夜、起きて。朝食に行きますよ」 まだ七時十五分。 半分寝ている俺を引っ張るように、圭吾が部屋のドアを開ける。 廊下には夏の制服のズボンとサマーセーターが置かれていた。 昨晩のうちに寮父によって配布されたのだろう。 ズボンは生地が夏物になり、冬服の茶色から、爽やかな紺色のチェックに変わる。 俺のは昨年秋に回収されクリーニングされたものが、圭吾のは新品が届いていた。 食事を済ませ、制服に着替える頃、ようやくしっかりと眼が覚めてきた。 圭吾は、夏服もよく似合っていて、白いサマーセーターが少し眩しかった。 — 六月二週目の土曜には、毎年恒例の体育祭が行われる。 今年は珍しく朝から快晴だ。   紅と白と青の三チームに分かれ、各色の鉢巻を頭に巻いて点数を競う。 優勝したチームには、夕食にチョコレートケーキが付くという特典がある為、皆かなり真剣になる。 俺の三年一組は、二年一組、一年一組とともに紅組。 圭吾たち三組は青組だ。 この学園、運動部は弱小で突出して足の速い者もいない。 ゆえに結果が読めないから、クラス対抗リレーは、とても盛り上がる。 午前午後と行われた競技が終わり、優勝チーム発表の前には伝統のフォークダンスがある。 大きな輪っかと小さな輪っかが、一つずつグラウンドに作られた。 小さい方は、内円も外円も二年生。大きな方は、内円が一年生で外円が三年生。   フォークダンスの振付は、一年生の体育の授業でみっちりと教わる。 といっても、オクラホマミキサーとコロブチカの二曲を、交互に何度も繰り返すだけの単純なものだ。 一週間前。 「圭吾にフォークダンスを教えておいてくれ」と体育教諭の田淵先生に頼まれた。 だから、部屋で鼻歌を歌いながら踊ってやった。 「な、簡単だろ?やってみ」 圭吾は意外とダンス的なことが苦手らしく「部屋が狭いから動きにくいです」などと言い訳をしてくる。 「じゃ、もっと広いところでやろうぜ」 そして消灯前。 わずかな灯りだけになった夜の温室へ移動し、練習をした。 二人、少し汗ばんだ手をしっかりと繋いで、カウントを取りながら、温室の中央通路で踊る。 頭では分かっていても、手足が動かない圭吾が可愛い。 もう一回、もう一回と熱心な彼に合わせて、手を繋いだまま、何度も何度も練習に付き合った。 ダリアはほとんど香りがしないのに、段々と花に酔っているかのような気分になって、妙に気持ちが高揚した……。   グラウンドに作られたフォークダンスの大きな輪っか。 俺の対角線上に、圭吾の姿が見えた。 練習の甲斐あって、上手に踊っているのを目で追う。 和登の情報によると、圭吾は一年生に人気があるらしいから、彼と踊れた子は、喜んでいるだろう。 運動会の優勝は僅差で青組だった。 夕食時、物欲しそうな顔をして、じっと圭吾のトレーに乗ったチョコレートケーキを見つめてしまう。 「うちの犬が、よくそういう顔をしていました」 「ワン!」と元気に返事をしてみせれば、圭吾は深く溜息をつく。 「一口食べてもいいですよ。フォークダンスを教えてくれたお礼です」 一口といいながら、半分を皿に取り分けてくれた。 「うわっ美味っ!」 体育祭の日にしか食べられない特別なチョコレートケーキ。 俺は、三年間で初めて食べた。 そして何より、素直に欲しそうな態度をとった自分が珍しかった。 圭吾が特別だからだろうか。 そう思うと、照れくさかった。 夜まで、体育祭の興奮は続く。 大浴場の中でも、皆がいつもよりはしゃいでいた。 消灯時間を過ぎても、廊下からふざけあう声が聞こえる。 きっともうすぐ田淵先生の怒鳴り声が響き、静かになるだろう。 体育祭で浮ついた校内の雰囲気は、三日もしないで日常へと戻ってしまった。

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