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六月②・チョコレート色のダリア

温室のダリアは、申請すると誕生日の生徒へ贈ることができる。 贈りたい日の前日に「誰から誰へ」というタグを記入し、選んだ花に括りつけるのだ。 そして見過ごされないように、その花の横に水色の旗を立てておく。 人気のある生徒の誕生日前日には、温室に沢山の旗が立つ。 今年の一番人気予想は、やはり美智雄だ。 超美形でクール、冷たい雰囲気で近寄り難いけれど、憧れるにはそれで十分。 天文部の部長であり、生徒会長でもあるから、当然といえば当然だ。 昨年は生徒から四十二本、学園から一本、計四十三本のダリアが、美智雄に贈られたらしい。 学園からの一本は、どの生徒の誕生日にも贈られ、その花は庭師が選んでくれる。 皆、ダリアが欲しいから、日にちが近くなると「もうすぐ誕生日なんだ」と、クラス、部活、委員会で、触れまわる。 それでも生徒一人が貰っているダリアの平均は、五本だ。 申請書類を書いて事務局に提出し、温室まで花を選びに行かねばならず、贈る側としては、正直面倒くさいから。 春季、夏季、冬季の休暇と誕生日が重なる人は、休みに入る前日に花を受け取る。 だから終業式前の温室は賑やかで、庭師は忙しそうにしている。 部室に部員の誕生日リストを掲示している部も、多いらしい。 でも俺は、一年生の頃から誕生日を人に伝えるのに、躊躇いがあった。 美術部は部員数も少なく、個人主義だから、ダリアを贈り合う習慣がなくてよかった。 だってほら、人に何かして貰うって、いやだろ? やっぱり苦手なんだよ。 水曜の放課後、園芸委員の当番の日。 モワッと湿度の高い温室に足を踏み入れると、既に十本以上の水色の旗が立っていた。 誰の誕生日なのかと、タグを手に取り名前を見てみると、全て圭吾宛だった。 贈っているのは主に天文部の奴らだろう。 圭吾は明日、六月十七日が十八歳の誕生日なのか。 俺は明後日の六月十八日生まれ。 一日違いだなんて、ちょっと嬉しい。 よし、俺からもダリアを贈ってやろう。 園芸委員として庭師の手伝いが終わった後、事務局へ行く。 面倒くさい書類を書いて、ダリアに括り付けるタグを貰う。 温室に戻り、入口から遠い場所に咲いている、ボリュームある八重咲の花を見つける。 その花に圭吾宛のタグをつけ、旗を立てた。 綺麗なチョコレート色のダリアだった。 翌朝。 いつもと同じく圭吾に起こされ、引っ張られるようにベッドから出る。 「さあ、行きますよ」 ドアを引いた圭吾が「あぁ」と感歎の溜息をつく。 ドアの前には、庭師が朝早くに摘んでくれたダリアが二十本程、山となって置いてあった。 圭吾はダリアの前にしゃがみ込む。 「見てください、光夜。今日は僕の誕生日なんです。花を貰うなんて……、人生で初めてです」 これは誰からだ、これは一年生のあの子だ、あぁあの人もくれた、と独り言を言いながら、拾い上げている。 切り口には水分を含ませたキッチンペーパーのようなものと、アルミホイルが巻かれていた。 ダリアの山の一番下に、俺の贈ったチョコレート色が見えている。 圭吾が一本ずつ拾い上げ、山が低くなる毎に、俺の心拍数が上がっていった。 「この一番大きなダリアは……。あっ、光夜!」 パっとこちらを振り向く。 「ありがとう。あぁ、とても嬉しい」 圭吾は素直に喜んでくれた。 少し瞳を潤ませて微笑んでくれた。 俺は照れくさくて「あぁ」としか言えない。 「ほら、花瓶。入りきらないだろうから、俺のも使えよ」 この時の為だけに、部屋には一人に一つ花瓶が用意されている。 庭師もこの花瓶に合う長さにダリアを切って、置いてくれるのだ。 共同の洗面所で花瓶に水を入れ、圭吾が丁寧に活けるのをベッドに腰かけ眺めた。 いつもより少し遅い時間に食堂へと向かう。 圭吾は機嫌が良く、よく喋った。 「本当にありがとう。今までの誕生日で一番嬉しいです。チョコレート色のダリア、綺麗でした。光夜はやっぱりセンスがいい。あの一本だけでも枯れずにずっと保存できたらいいのに。光夜の誕生日はもう終わっちゃいました?」 「いや、まだ」 「なら、よかった」 育ちが良い圭吾は、きっと毎年、大勢に祝われて幸せな誕生日を過ごしてきただろう。 それでも「今までの誕生日で一番嬉しい」と口にする姿は、嘘を言っているようには見えなかった。 — 「あのさ、これもやるよ。誕生日プレゼント」 美術部の時間に、水彩絵の具で描いたチョコレート色のダリアの絵。 ハガキ程の小さなサイズ。 消灯時間になり、ベッドへ入る直前にそっと渡した。 「あぁ、ありがとう。光夜の絵、初めて見ました。綺麗だ。こんな色彩豊かな絵を描くのですね。ずっと、ずっと大事にしますから」 圭吾はその絵を、大切そうに日記帳に挟んで仕舞ってくれた。

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