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十一月①・天文部で祖父と面談

目覚まし時計の電子音が鳴る。 それを圭吾が止める時、俺の意識も浮上する。 けれど、圭吾が起こしてくれるまでは、目を閉じたまま布団の中に籠っている。 甘えた幸せなひと時だ。 いつもなら、圭吾は俺を気遣ってそっとベッドを抜け出し、トイレと共同洗面所に行く。 顔を洗い、時間をかけ髪をセットし、部屋に戻ってきてから俺を起こしてくれる。 しかし今日は目覚まし時計を止めた圭吾が、布団から出ようとしない。 そっと目を開けば、カーテンの隙間から真っ赤に紅葉し始めた森の木々が見えた。 天気の良い一日になりそうだ。 寝返りを打って、圭吾の姿が見えるように身体の向きを変えると至近距離で目が合った。 なんだ起きていたのか。 「おはよう」 「……おはようございます」 いつもの朝の、爽やかな圭吾の表情ではなかった。 「どうした?頭でも痛い?」 ふるふると首を横に振る。 右手をオデコに当ててみたけれど、熱があるわけではなさそうだ。 「ただの登校拒否です」 そう言って布団に潜ろうとするから、足を絡みつけてホールドする。 「もう!光夜、何するんですか」 圭吾も悪ふざけに乗るように、胴回りを抱きしめ返してくれた。 俺は犬の真似をして、圭吾の顔や首をペロリ、ペロリと舐める。 「はあ、はあ」と大型犬のような大げさな呼吸をして「ワン!」と吠えれば、声を立てて笑ってくれた。 二人揃ってベッドから出て、二人揃ってトイレと洗面所に行った。 圭吾のヘアセットの時間に合わせ、俺もいつもより念入りにモフモフな髪をいじる。 食堂で朝食のアジの干物と大根おろしをつつきながら「今日、何か嫌な授業でもあんの?」と訊く。 圭吾は「お祖父様が、面談に来るんです……」と気が重そうな顔をして溜息をついた。 てっきり、圭吾は著名なじいさんのことが自慢で、慕っているのかと思っていた。 誰にでも家族の面倒ごとはあるようだ。 六限目の体育が終わり、和登と二人で教室へ移動していた時、車寄せに黒塗りの車が到着した。 「うわ、すげぇ車。運転手付きだぜ」 和登が立ち止まって、もの珍しそうに眺めている。 白手袋の運転手がドアを開け、降りてきたのは圭吾の祖父、柚木玄一郎だった。 さすが大物政治家、こちらに向かって歩いてくる姿を見るだけで、後退りしたくなるほど威圧感がある。 和登が、俺の腕をつかみ小声で「行こうぜ」と呟いた。 ペコっと会釈だけして、二人で走って教室へと戻った。 あの貫禄あるじいさんと面談だなんて、身内の圭吾でも登校拒否したくなるわけだ。 放課後、美術室でパネルに水張りをしていると、担任であり、天文部顧問の黒部先生が俺を探しに来た。 「光夜、ちょっと来てくれるか」 連れて行かれた先は、屋上にあるプラネタリウム。 天文部の部室だった。 初めて足を踏み入れたその場所には、圭吾と、部長の美智雄と、それから柚木玄一郎がいた。 じいさんは俺を一瞥するとよく響く低い声で「この子か?」と問う。 圭吾が「はい、彼は……」と話し始めたが、すぐにそれは遮られた。 「それで圭吾は、縁を見る力、記憶を保持する力、見透かす力、どれか一つでも開花できたのか?」 「光夜がいてくれれば、いずれ……」 「だが、この子は八回目だ。残りは六十年程度だろう。私は、九回目の人間にしか興味はない。圭吾をこの学園へ入れたのは、ここは世間より九回目の人間の割合が多いからだ。九回目の生き方に関して学ぶだけなら、家庭教師でもよかったのだからな」 「お言葉ですが、九回目至上主義はこの学園では良しとされていません。今年に入って多発しているあの事件の原因も、九回目至上主義にあるのではないですか?」 美智雄が堂々とじいさんに意見する。 俺には、何についての会話が交わされているのか、少しも分からない。 ただ、じいさんは美智雄をただの学生だとは思っていないようで、対等の者が発した意見として耳を傾けているのが分かった。 「柚木先生、光夜くんはもうよろしいですか?」 黒部先生はこれ以上俺に、この話を聞かせたくないようだ。 「あぁ、君。圭吾が能力を開花できるよう、よく相手をしてやってくれ」 それだけ言うと目線を外し、また美智雄に向かって「あの連続事件については……」と話し始める。 黒部先生は、慌てて俺をプラネタリウムの外へと連れ出した。 その夜。 じいさんが持ってきてくれたという青い缶に入ったクッキーを、二人で食べた。 バターが贅沢に使われていて、とても美味い。 圭吾はじいさんが帰った後も、何か考え込んでいるようだったが、俺の前では必死に普段通りに振る舞おうとしている。 だから天文部でのことは話題にしにくく「美味いな、このクッキー。和登には内緒にしようぜ」と別の話ばかりをした。 「圭吾、面会だったんだろ!」 突然部屋のドアが開き、和登が顔を出す。 「ノックしろよ」 「おっ、クッキーだ。美味そう」 和登はきっと、運転手付きの車でやってきた人が、圭吾の面談相手だと気がついているだろう。 父親という年齢ではないから、どういう関係の人なのかと思ったはずだ。 もしくはテレビで見たことのある政治家だと、気がついたかもしれない。 でも和登は家族のことには、触れてこない。 そういうところは配慮のできる奴なんだ。 「和登、酷い格好してんな。ジャージ二枚重ねに靴下二重って、お前のオシャレポリシーは、毎年寒くなると無になるのな」 「仕方ないだろ、寒がりなんだから」 そろそろ朝晩は冷える季節になった。 和登はまた、同室の理久への土産にすると言って、多めにクッキーを持ち去っていった。

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