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十一月②・文化祭を楽しむ
森の中で孤立している学園でも、文化祭はある。
誰も来場しない内部だけの開催だけど、単調で閉鎖的な学園生活だからこそ、体育祭や文化祭は、かなり盛り上がるのだ。
花睡学園の文化祭は、全校生徒三百人が、数人ずつのグループを組んで、グラウンドと体育館に模擬店を出す。
圧倒的に食べ物屋が多い。
食品系は、事前に寮の食堂の調理師と打ち合わせ、材料や道具を用意してもらう。
俺と圭吾は園芸委員の二年生の二人、それから和登とその同室の理久、計六人で最も簡単なフランクフルト屋をやることになった。
家庭で使うようなホットプレート一台とトング三本を借りる申請を出し、フランクフルト四十本、トマトケチャップ、粗びきマスタード、油、串、紙の皿を仕入れリストにして提出した。
電源はどの模擬店も、学園備品の小型の発電機から取ることになる。
あとは当日の朝、皆で串に刺せば準備完了だ。
現金を扱うことがない学内では、十枚綴りの券が生徒皆に配布され、その券を使って買い物を楽しむ。
まるで子どものお店さんごっこだ。
どのグループも午前と午後で当番を分け、昼を挟んで売り子と買い子が交代する。
学園の理事、教諭、事務員、司書、寮父、庭師、用務員、調理師、警備員、校医、美容師も店を出すし、客にもなる。全校挙げての大イベントだ。
文化祭というからには、文化部は展示も行う。
もちろん六人しか部員のいない美術部も、美術室に作品を飾る。
とはいえ皆、模擬店に夢中だから、美術室まで生徒が観にくることはほぼ無い。
毎年教諭や寮父がお義理で覗きにくるだけだ。
俺の描いた温室の絵を、一年生の時も二年生の時も欲しいという教諭がいたらしく、どこかに貰われてはいったが、どうせ生徒のやる気を出させるためのヤラセだろう。
天文部は展示ではなく例年怪しい占いコーナーをやる。
人手は十分に足りていて、圭吾は手伝わなくて済むらしい。
午前中に売り子だった俺、圭吾、和登は、十三時から買い子になった。
買い子は、いったん駐車場に集まり、十三時に一斉入場をする。
人気の店には行列ができるから、皆、臨戦態勢だ。
開場とともにたこ焼き屋を目指して走り、列に並んだ。
それでも前に既に五人が並んでいる。
「あれ?圭吾は?」
和登とキョロキョロと見渡すけれど、一緒に走ったつもりだった圭吾の姿がない。
仕方がないから、俺の券を使って、圭吾の分も買ってやった。
熱々を体育館の片隅で立ったまま食べる。
うん、とても美味い。
「圭吾の分も食べちゃおうぜ」
和登の提案を受け入れそうになった頃、圭吾が戻ってきた。
「どこ行ってたんだよ。たこ焼き買っておいたけど、冷めちゃったぞ」
ぶつぶつ文句を言うと、圭吾はニコリと笑った。
「光夜の絵を見てきました」
「え?」
「とっても良かった。好きです、光夜の絵。ベースの暗い色と目を引く明るい色の使い方が独特で、力強い。ダリアを描くのが好きなんですか?前に僕にくれたチョコレート色のダリアの絵も良かったけど、温室全体を描いた大きな絵も、素敵だったなぁ」
嬉しかったけれど、照れくさくて「へー」としか返事ができなかった。
また「好き」という言葉を使った圭吾に、心の中で恥ずかしくないのかよ、と悪態をつく。
そこからは一緒に模擬店で食べまくった。
クレープ、焼きそば、かき氷、綿菓子、じゃがバター、りんご飴、フライドポテト、糸引き飴。
甘い物を食べれば、塩っぱい物が食べたくなり、また甘い物を食べる。
自分の機嫌がとても良い自覚があって、ひたすらに楽しい時間となった。
券を使い切って「あー腹いっぱい!」と二人で休憩用に用意されたベンチに座り込む。
体育館のステージ上では、和登がカラオケを歌っていた。
俺たちは新しい曲に触れる機会がないから、中学生の頃に流行った曲だ。
「今度圭吾を描いてやるよ」
圭吾に聞こえるか聞こえないかの声で伝えた。
圭吾は「え?」とステージから俺に目線を移したけれど、ちょうど理久が「フランクフルト完売しました!」と報告に来たから、それきりになった。
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