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十二月①・クリスマス
この学園は大学への推薦入学の枠が多く、ほとんどの者は年内に進学先が決まる。
俺は実家から遠い関西の美術系大学に、圭吾は東京のいわゆる一流大学に進む。
「圭吾はさ、じいさんの跡を継いで政治家になるの?」
布団の中でそう訊いてみた。
「分からないけど、期待はされているんです。でも僕には兄が二人いるから本来なら彼らなんですよ、跡を継ぐのは。お祖父様だけが、僕を推していて。だから「能力を開花させなさい」ってこの学園に転校できるように手配してくれて」
「ふーん」
圭吾が言う「能力」が何を指しているのかよく分からないけれど、こうして二人で過ごすことができる期間は、残り三ヶ月。
それだけは決定事項だ。
卒業したら、圭吾は俺のことを忘れてしまうだろうか。
きっと俺はアパートで一人暮らしをして、大学の課題をそれなりにこなし、飲食店でアルバイトをしたりするのだろう。
圭吾がその狭いアパートの部屋に、年に一回でも遊びに来てくれたらいいのに。
「光夜は高校三年の時、僕の「特別」でしたから」と理由をつけて。
—
春期と夏期に比べ冬期休暇は意外と長く、クリスマスイブには学校を出されてしまう。
一年生は二十三日午前、二年生は午後、三年生は二十四日の午前に、スクールバスが最寄り駅へと連れて行く。
バスでは圭吾の隣に座り、整った横顔と寒々しい窓の外を眺める。
昨晩は約束の土曜ではなかったけれど休暇前ということで、消灯後どちらともなくイヤらしいキスを仕掛け、そのままセックスをした。
バスの中で取り澄ましている圭吾に、そんな余韻は微塵も残っていない。
「帰ってもどうせ一人だし、クリスマスなんてつまらないよな」
聞いて欲しかったわけでもないのに、何となく口にしてしまった。
窓側に座って外を見ていた圭吾はその言葉に反応し振り返って俺を見たが、特に何の返事も寄越さず、また窓の方を向いてしまう。
五分程して良いことでも思いついたような期待に満ちた声で「ねぇ、光夜」と話しかけてきた。
「二人でどこかに泊まりませんか?」
「え?」
「今夜のクリスマスイブ、二人でホテルに泊まるんです」
思ってもいなかったアイデアに、期待感がムクムクと膨らむ。
「あぁでも俺、ホテルに泊まれるような現金持ってないぜ……」
圭吾が財布からカードを取り出した。
「ジャーン!これ自由に使えるので大丈夫です」
「うわっ、さすが、おぼっちゃま」
急に頭の中を楽しみな想像が駆け巡り、心が弾む。
バスが最寄駅に着くまでの長い道のり。
いつも憂鬱な道中が、遠足にでも行くような明るい気分になった。
到着した最寄駅には車で迎えに来ている親も何組かいたが、大抵の生徒はそこから電車に乗って東京方面へと向かう。
電車でも二人で並んで座った。
山間を抜け、谷を抜け、俺が乗り換えるはずの駅も通り越す。
賑やかそうな知らない駅に電車が止まり「よし、ここにしよう」と二人で降りた。
街はクリスマスの装飾が施され、平日なのに人々が溢れ、その賑やかさは森の中の生活とあまりにかけ離れている。
昼食は、駅ビルの中華屋で酢豚定食を食べた。
その後は、知らない街をあてもなく歩く。
思いのほか寒く、圭吾は辛子色、俺はオリーブ色の安いマフラーを購入し首に巻いた。
いつも同じ服装をしている俺たちだから、マフラー一つで圭吾が大人っぽく見える。
ゲームセンターでクレーンゲームをしたり、コーヒーチェーン店に入って、飲み慣れないカフェラテも飲んだ。
日が暮れ始めた頃、駅から少し離れたところにビジネスホテルを見つけ「ここにしましょう」とチェックインする。
制服姿の高校生二人をホテルの人が不審がるのではないかと思い、聞かれてもいないのに白々しく「今日も明日も模試があって」などと嘘を言ってみた。
フロント横に、古びた小さなクリスマスツリーが置かれているだけの、ロマンチックでもなんでもないホテル。
部屋に入り窓を開ければ、眺めは隣接するビルの壁面で、広さだって寮の部屋と大して変わらず、シングルベッドが二つあるだけ。それでも、想像もしなかったこの状況に、気分が高揚していた。
圭吾はロビーの公衆電話から自宅に電話をしている。
俺はそんな必要もない。
夕飯は二人でファストフードのハンバーガーをテイクアウトしてきて、部屋で騒がしいテレビを見ながら食べた。
寮暮らしの俺たちには、それすら珍しく非日常を噛みしめる。
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