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十二月②・イルミネーション
「あぁ、そうだ。クリスマスケーキも買ってくれば良かった」
バーガーのセットを食べ終わって俺がそう言うと「買いに行きましょう。ほら、早く」と圭吾が手を引っ張る。
浮かれているのは、俺だけではないようで安心した。
再びマフラーを巻いて駅の方向へ歩けば、街路樹がキラキラと美しいイルミネーションで彩られていた。
「綺麗だ」
圭吾と二人、人の流れを無視して立ち止まり、うっとりと眺める。
いつか森のクスノキにも、こんな見事な装飾をしてやりたいと、ありえないことも想像した。
森の中でクスノキだけがキラキラと瞬いていたら、どんなクリスマスツリーより綺麗だろう。
ケーキ屋の店頭で、サンタクロースの帽子を被らされたアルバイトから、一番小さなホールケーキを買った。
サンタクロースとトナカイの小さな砂糖菓子と、苺が上に乗っている定番品だ。
アルバイトの女の子が笑顔で「メリークリスマス」と言って手渡してくれる。
二人で顔を見合わせ、照れながら「メリークリスマス」と返事をした。
イルミネーションから少し外れた所にあったコンビニで、着替えの下着と炭酸飲料を買った。
コンビニから出ると、三歳くらいの男の子が小さな声で「パパ……、ママ……、どこ、どこ」とグズグズ泣きながら歩いているのに出くわす。
心配に思い目で追っていると、中年の男性が声を掛けた。
男の子は、ブンブンと首を横に振っているのに、中年の男性は腕を掴み引っ張ろうとする。
「いや、いや」と言う男の子に、男性はポケットからチョコレートを出し「あげるから、おじちゃんと遊ぼう」とでも話しかけているようだ。
明らかに様子がおかしい。
駆け寄って男の子の目線にしゃがみ「どうした?」と声を掛ける。
男性は俺を見ると「チッ」と汚く舌打ちして逃げるようにいなくなった。
どうやら迷子になって彷徨っているうちに、変な人に声を掛けられたようだ。
「大丈夫か?迷子になっちゃった?」
男の子は、俺に救いを求めるように両腕を伸ばし、ギュっと抱きついてきた。
そして声をあげてワンワンと泣き始める。
抱き上げて、トントンと背中を叩いてやった。
「怖かっただろ。大丈夫だから、な。すぐにパパとママ、来てくれるから」
「親御さんが探してるだろうから、僕見てきます」
「うん。頼む」
圭吾が捜索に行っている間に、男の子は段々と落ち着いてヒックヒックとしゃくり上げながらも、涙は止まってきた。
それでも、俺にしがみついたままだ。
「パパとママを見つけられるように、肩車してやろうか?」
コクリと頷くから、マフラーを外して植え込みに置き、男の子を肩に跨らせた。
「しっかり掴んでろよ」
腰を掴んでゆっくりと立ち上がる。
「わー、すごーい。キラキラみえるー」
顔にはまだ涙の跡があり、睫毛も濡れているのに、俺の頭をギュっと掴んで、ニコニコと笑い始めた。
しばらくしてイルミネーションの人混みから、圭吾と、パパと思われる人がこちらに向かって走ってきた。
その後ろを、赤ん坊が寝ているベビーカーを押したママが小走りに追ってくる。
「パパーーー!」
男の子の両親は、本当に助かったと、俺と圭吾にペコペコと何度も何度も頭を下げる。
男の子は、なかなか俺の肩から降りようとせず「まだ、かたぐるま、おりないー」と甘えたことを言う。
「すみません。人見知りな子なので、普段はなかなか知らない方と親しくできないのに、こんなに懐いて。よくしてくださったんですね。本当にありがとうございました」
結局、俺の肩からパパの肩に移り「バイバイー」と手を振って帰っていった。
いかにも幸せそうで、微笑ましい家族だった。
再びオリーブ色のマフラーを首に巻いて、俺はケーキの箱を、圭吾はコンビニの袋を持ってホテルへの道を戻る。
「ねぇ光夜。僕が「セックスをすると段々と感覚が鋭くなるらしい」と言っていたの覚えてます?」
「あぁ、まぁ何となく。縁が見えるとかっていう怪しい話だろ。だから俺とセックスしたいって」
「そう。それで最近ね、少しだけ、ほんの少しだけ見えるようになったんです」
「え、何が?」
「縁が。トランプの神経衰弱でこのカードとこのカードがペアだって思う感覚に似てるって、亮太が言ってたんですけど、まさにそういう感じで。同じような温かな色に光って見えるんです」
「へー」
「それでさっきね、あの男の子と光夜には「縁」があるんだって、僕にも分かりました」
「え?」
「きっと、一つ前の人生か二つ前の人生か、もっと昔かもしれないけれど、近しい関係だったんですよ、あの子と光夜。だからピンチの場面に偶然出くわせたわけだし、あの子も光夜になら安心して甘えられた」
「ふーん」
オカルトには興味無いってふりをしながら、死んでしまった弟のことを思い浮かべた。
もしも弟の生まれ変わりがあの子だとしたら、いい家族の元に生まれ変われて本当に良かった。
そう思った。
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