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一月①・突然の悲劇
しんしんと雪の降る寒い夜、真夜中にふと目が覚める。
目線の先ではカーテンが少し開いていて、その隙間から森の木々が白くなっているのが見えた。
俺はベッドを下り、窓に近寄ってカーテンをきっちり締め直す。
ベッドに眠る圭吾を見下ろすと、足先が掛け布団からはみ出していて寒そうだ。
すぐに布団の中に戻り、圭吾の足を俺の両足で挟んで温めてやった。
寝ぼけた小さな声で圭吾が「あったかい」と呟く。
寝ている圭吾は起きている時の十倍可愛らしい。
徐々に足は温まり、二人の体温が混ざり合って、俺はまた眠りの世界へと引きずられていく。
温かくて、幸せで、一生この布団から出たくないと思いながら、圭吾の背中に手を回し、引き寄せる。
圭吾からはスースーと穏やかな寝息が聞こえていて、俺もふわふわと夢の中へ入っていった。
—
悲鳴。
誰かが怒鳴るような声。
バタバタと廊下を走る複数の足音。
取り乱した叫び。
ただごとではない気配に意識が覚醒し、上半身を起こす。
室内でもブルッと震える寒さだ。
時計を見ると、食堂が開くにはまだ三十分程あった。
圭吾が「ちょっと見てきます」と、ジャージを羽織って、部屋を出ていく。
一人残された俺は胸騒ぎがして怖くなって、掛布団をかぶりじっとしていた。
ガタっと大きな音がして、勢いよく部屋のドアが開く。戻ってきた圭吾の顔は酷く青白い。
「光夜、和登が……」
とてもとても悪いことが起きているのが分かって、足がすくんだ。
身体が震え、とりあえずベッドから出たものの、そのままうずくまる。
開けられたままのドアから、階段下の喧噪が鮮明に聞こえてきた。
寮父に加え、教諭たちも駆け付けたようで、聞こえる声の数が、どんどんと増えていく。
「ナイフ」とか「背中」とかいう単語が断片的に耳に入ってきた。
俺は圭吾に連れられ、皆から随分と遅れて食堂へと続く渡り廊下へ、どうにか辿り着く。
田淵先生が「ここからは近づくな」と渡り廊下に立っていたけれど、いつの間にか降り止んだ雪の上に、真っ赤な血が流れ着いているのが見えた。
倒れている和登らしきものには、もう毛布が掛けられている。背中の辺りがポコリと盛り上がっているのは、ナイフが今もそのまま刺さっているからだろうか。
毛布を掛けてやっても、渡り廊下は寒いだろうに、と妙に冷静な自分が思った。
和登は人一倍寒がりだから、と。
誰かが「これってあの高校生が殺される事件だよな……」と震える声で呟いたのが耳に届いた。
二年生の時、俺と同じ部屋だった和登。
三年生の今はクラスが同じで、圭吾の次に俺と仲良くしてくれている友達。
オシャレで、バスケットが上手くて、でも成績は悪くて。
お互い家族のことは干渉しないよう心掛けていたけれど、その分毎日、くだらない馬鹿話を沢山した。
俺は今、寒いのか、怖いのか、悲しいのか……。
身体は震えるけれど自分の感情が分からない。
涙だって一粒も出ない。
遠くから、パトカーのサイレンがいくつもいくつも重なって、聞こえてきた。
授業は休講になり、全員、トイレ以外は寮の部屋から出ないようにと通達があった。
朝食は、ワゴンに乗せられ、寮父や教諭たちが一部屋一部屋を訪ね配ってくれた。
生徒全員の顔を直接見て、精神状態を心配しつつ、和登以外の全員が揃っているか調べていたのだろう。
被害者という意味でも、加害者という意味でも、確認する必要があるはずだ。
俺自身は取り乱したりもせず、感情が麻痺し、ただただ和登を早く暖かい場所に移動してやってほしい、とばかり考えていた。
配られたコーンポタージュにトースト、ベーコンエッグとフルーツヨーグルトを、突くように食べながら「警察は生徒も調べるかな?」と圭吾に問いかけた。
「まぁそうでしょうね」
「俺たち、疑われるのかな?」
「そんなことはないでしょう」
「マスコミも来るだろうな」
「でも学園内には入れないと思いますよ」
上滑りした会話を交わし、沈黙を埋める。
結局トーストとベーコンエッグはほとんど喉を通らず、残してしまった。
窓際に椅子を移動させ、グミを舐めながら森を眺める。
昨晩の雪で真っ白に化粧されているから、光が反射して眩しい。
どうやら俺は、友達が死んだのに悲しいと泣き叫ぶこともできない、薄情な男だったようだ。
圭吾が俺に何か言おうと、何度も口を開きかけては、やめているのが目の端に見える。
俺は、冷静なつもりでも、気が立っていたようで、先回りして圭吾に冷たく言い放つ。
「また、四百何年だかを生き抜いたとか、次にもっと沢山の人生を生きられるとか、言うなよ。そんなオカルトな慰めは、俺にも和登にもいらないから」
圭吾は悲しそうな顔をして、ただ頷いた。
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