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一月②・引き裂かれる俺たち

昼食も部屋に配膳された。 夕方になりようやく、学園内を出歩いてもいいと許可が出る。 その場合は必ず複数で行動するように、と条件付きで。 コツコツとノックの音が聞こえ、美智雄が天文部の副部長とともに訪ねてきた。 圭吾を「天文部で集まるから、来るように」と連れ出していく。 一時間程で戻ってきた圭吾に「夕飯を食べに食堂に行きましょう」と誘われた。 俺はどうしても和登が倒れていた渡り廊下を通りたくなくて「いらない」と伝えた。 渡り廊下が見渡せる一階へ降りるのすら嫌で「今日は風呂にも入らない」と宣言をする。 圭吾が部屋から出て行ってすぐ、食堂まで一人で行かせてしまったと後悔したが、予想より早く戻ってきてくれた。 「調理師に頼んで用意してもらいました」 圭吾は二人分の夕食をテイクアウトしてきてくれたのだ。 麻婆豆腐丼を食べながら、決意したように圭吾が言う。 「嫌かもしれないけど、聞いてください。この事件は弟くんの時とも、亮太の時とも、違うんです。和登は八回目の人生だったんです」 またその話かと、圭吾を睨む。 それでも話すのを止めてはくれない。 「和登には、あと四十年しか残っていなかったんです。まだ八回目だったのに。有益な九回目の人生を少しでも長く過ごすためには、八回目を早く終えたほうがいい、と考える偏った人たちがいるんです。だから和登もこれでよかったという……」 「よかった?そんなわけあるかよ。は?」 「僕の考えではありません。そう考える一派が、世の中に存在するという話です」 「圭吾の意見じゃなくても、お前たちが信じている生まれ変わりみたいな可笑しな話が、大前提にあるんだろ。俺の前で二度とその話をするのは、やめろ!」 「光夜、どうか僕の話を聞いて」 「イヤだよ。だって可笑しいだろ、その死生観」 「和登だけじゃなく、光夜も八回目だから……」 俺は話を遮る。 「さっき委員長が、明日の朝、ダリアを摘むって言いに来た。圭吾は摘まなくていいよ。温室には来ないでくれ」 圭吾の目からポロポロと涙が溢れ出た。 「光夜にちゃんと話しておきたいんです」 「黙っててくれ。泣きたいのは俺の方だ」 俺は二段ベッドの上にあがり、布団を被る。 麻婆豆腐丼は、豆腐をいくつか飲み込んだだけで、残してしまった。 圭吾に辛く当たる必要なんてなかったのに。 俺は本当に弱くてダメな人間だ……。 圭吾が一人で食事をする音が聞こえている。 途中で鼻をすすり、ティッシュで拭いて、また鼻をすする。 謝らなくては。 今こんなタイミングで圭吾と揉める必要なんてないのだから。 圭吾だって和登の死が悲しいのだから。 けれど今は、頭の中が混乱したままで、もう少し、もう少しだけ気持ちが落ち着くまでの時間がほしかった。 またコツコツとノックの音がする。 圭吾がドアを開ける気配と、寮父の声が聞こえてくる。 「光夜も、ちょっといいか」 寮父が部屋に入ってきて、ベッドで寝ている俺のところまで近づいてくる。 和登が死んで、部屋に一人になってしまった一年生の理久と、圭吾か俺のどちらかが同室になってやってほしい、という話だった。 三年生同士で同室なのは俺たちだけだから。 和登の使っていたC棟の部屋ではなく、B棟の空き部屋で理久と残り一ヶ月半を過ごすことになるらしい。 俺が、と名乗り出ようとしたが理久は天文部だと思うと一瞬の迷いが生じた。 その隙に圭吾が「僕が」と応えた。 「そうか圭吾、ありがとう。ではすぐに荷物をまとめて、移動してやってくれ」 寮父は「これは片づけておくから」と二人共が残した麻婆豆腐丼を下げてくれた。 和登の身体は、警察が連れていってしまったらしい。 俺たち一人一人が、警察に事情聴取されるようなことはなかったし、マスコミが学園に入ってくることもなかった。 翌日、圭吾以外の園芸部のメンバーで、ダリアを摘んでC棟の和登の部屋、バスケット部の部室、三年一組の教室に供えた。 俺たちが作業している間、天文部の数人が見張るようにこちらを見ていた。 その中に、圭吾の姿はなかった。 ダリアを全て活け終わって温室へ戻った時、美智雄がすっと近づいてきて「君も気をつけろ」と良く分からない忠告をしてきた。

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