30 / 49

五月①・天文部の秘密

生徒は必ず、部活と委員会に属さなければならない。 基本的に三年間変更することはできないから、どこへ属するかは、生徒にとって学園生活を左右する大きな要素だ。 五月最初の月曜放課後。 園芸委員にも五人の新一年生が入ってきた。 転校生の敦貴も園芸委員を希望したため、計六人が新たに加わり、全部で十六人となった。 温室に一同が集まり顔合わせをする。 「担当の柚木です。二年二組の担任で指導教科は国語。この学園にとってダリアは大切な花です。新しく加わった皆さんも、毎週この花を見ていたら、きっと魅了されて好きになりますよ」 新一年生の顔を見渡す。 ジャンケンで負けてこの委員になった者もいるだろう。 その子たちにも卒業する頃には、この温室を好きになり、園芸委員でよかったと思ってほしい。 「教諭として監督するのは私ですが、ダリアの世話に関する指示は、庭師さんからしてもらいます」 委員長がチーム分けをする。 十六人を六チームに分け、月曜から土曜までの担当曜日を決めていった。 ではそろそろ月曜の担当以外は解散、というタイミングで、どこかに隠れていたコウが「ミャー」と鳴いてすり寄ってきた。 「お腹が空きましたか?」 声を掛けながら抱き上げる。 「そうそう。新しいメンバーの皆さん、この温室に住んでいる黒猫です。「コウ」といいます。可愛がってくださいね」 「可愛い!」  一年生の一人がコウの頭を撫でようと手を出す。 私の腕に抱かれたコウが「シャーっ」と牙を剥き、彼は慌てて手を引っ込めた。 私にしか懐いていないこの黒猫は、本当に可愛い。 更に今年は、天文部の顧問にもなった。 何年か前から美智雄に打診されてはいたが、断固として拒み続けていたのに。 十三年前に定年退職をした黒部先生に続き、長年顧問を続けていた美智雄が副理事に就任したため、今年は引き継がざるを得なくなったのだ。 顧問はまずは部長と手分けをして、天文部の対象となる一年生に声を掛けることからが、仕事となる。 「天文部」という名前が付いているのは、部活動をする場所が校舎屋上のプラネタリウムにあるという理由だけで、天文の観察をするわけではない。 新一年生の対象者リストは美智雄が作って、入学式翌日には私と部長に配布されていた。 天文部の新一年生が加わっての初めての活動は、五月最初の火曜だった。 プラネタリウムの座席前方に一年生が二十人、後方に二年生と三年生が合わせて四十人座っている。 敦貴も対象者として部長に勧誘され、一年生の右端に座っていた。 どうしてここへ連れて来られたのか分かっている者といない者が、半々といったところか。 敦貴は分かっているようで、私の顔を真っ直ぐに見つめてきた。 「さぁどうぞ始めて」とでも言うような挑戦的な態度だ。 「新一年生の皆、それから転校生の敦貴、天文部にようこそ。顧問の柚木です」 全ての視線が私に集まる。 「まずは、なぜここに集められたのか分からない、漠然とは分かっているが詳しいことは知らない君たちに、天文部とは何かという説明をしましょう。テキストはありません。メモも取らないように。頭に入れてください」 話を聞く一年生の緊張が伝わってくる。 「我々の魂は、人生を九回過ごし、合計で四百十八年を生きます。全ての魂の寿命は等しいのです。普通の人にこんな話をしたら、どう思うでしょう。漫画や映画の設定だろ?と考えるかもしれません」 私は皆を見渡し、続きを喋り出す。 「しかし、今この天文部に集った人たちは、きっと大小に差はあれ腑に落ちるものがあるでしょう。九回目を生きる人は、自分の魂が人生を既に何度か過ごしていて、今回がその最終回だろうという自覚が、幼い頃から少なからずあるからです」 一年生と敦貴だけでなく、二年生も三年生も真剣に私の話に耳を傾けている。 二年生と三年生は、初めてこの話を聞いた日のことを、思い出しているのかもしれない。 「九回や四百十八年という数字が、はっきりと分かったのは三十年程前のことです。それまでは、この事象を皆がもっと漠然と捉えていた。九回目を生きる者への聞き取りを繰り返し、世界に先駆けこの数字を導き出したのは、この花睡高等学園と深い関わりのある、花睡研究所です」 今回、天文部へ勧誘した一年生の中で、入部しないという選択をした者は二名。 それは本人の判断だから何の問題もない。 「皆さんにも今後、研究所の研究員による聞き取りに協力してもらうことがあるでしょう。その見返りとして、今分かっていることを、余すことなく伝えていくのが、この天文部です」

ともだちにシェアしよう!