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五月③・それぞれの力
私は九回目を生きる者としては珍しく、何の能力も強くは持たない。
二十年前、お祖父様の意向で、その能力を活性化させるために、研究機関と繋がっているこの学園に転校してきたが、能力を手に入れることはできなかった。
いや、この年齢でもまだ伸び代はあるのかもしれないが、今は能力を強くしたいという気も失せてしまった。
大切な人を失って、能力をつけることに協力してくれる相手もいなくなってしまったから。
あの頃よりも今のほうが、九回目をどう生きるべきか、という検討・議論が世界各地のコミュニティで盛んに行われている。
顧問を引き受けた以上、私は天文部の部員たちの視野を広げ、共に学んでいきたい。
二十年前に世界を震撼させた恐ろしい連続殺人が、もう二度と起きないように。
週に四回の部活動のうち、週に一度は私が講義をする時間だ。
「ここは男子校だから皆さんの身体は現在、男性ですね。けれど前回は女性だったかもしれません。これまで全九回の中で男だったり、女だったり、両方の性別を経験していることでしょう」
特に一年生は、真剣な表情で話を聞いている。
「また、魂はある程度土地に縛られ、前回東京に生まれた人が次はオーストラリアに生まれるということは無いとされています。生まれてすぐ引っ越すということは、もちろんありますけどね。八回目が東京生まれだとしたら、九回目は関東近県に生まれるでしょう。そして、人生と人生の間の休眠期間は一年から五年と言われています。この期間は四百十八年には含まれません」
部員を前に、その話をしながら、そうか光夜の魂はもう九回目の人生をどこかで生きているんだな、と当たり前のことに気が付く。
この生徒たちと同い年くらいだろうか。
光夜は、この輪廻の話が大嫌いだったから、自分が九回目だと気が付いたとしても「俺は信じない」と言い張ってそうだ。
そう思うと可笑しくなった。
部員たちに能力についての説明を、三週にわたって行った。
まずは「見透かす力」だ。
「目の前にいる人の人生が何回目で、残りはだいたい何年ということが、感覚として分かる能力です。映像や写真を通しては、何も感じないようですね」
能力を持っている美智雄によれば、あのおばあさんは九十歳くらい、あの子は十歳くらいと容姿を見て分かるのと同じ要領だという。
そして三十代から五十代辺りの年齢は見た目の変化が少なく当て難いように、三回目から七回目辺りの人生がずばり何回目で残り何年と感じ取ることは難しいらしい。
私のお祖父様は、その辺りもハッキリと分かる強い能力を持っていたらしいが。
八回目、七回目、更にそのまた遠い記憶が、映像としてリアルに頭に残っているという人もいる。
これが「記憶を保持する力」だ。
「勘違いしないでほしいのは、映像としての記憶があるだけで、感情が持続しているわけではないということです。例えば前回の記憶として、海が好きで、船に乗ったり釣りをしたり泳いだりしたことをはっきり覚えていても、九回目の人生では、水が嫌いで近づきたくないという人もいます」
また、記憶の中の人たちを探し出し、年をとったその人たちと交流を持とうとしても、もちろん本人の姿形が変わっているわけで、受け入れてもらえるとも限らないのだ。
この能力を持つ人の中には、過去の自分に囚われ過ぎて、辛い思いをする人もいるという。
しかし昭和、大正、明治など激動の時代の移り変わりをハッキリした記憶として保持しているということは、世の中に貢献しようととする時の判断材料として、大変役に立つことなのだ。
そして校医の雅史先生が持つ能力が「縁を見る力」。
「人と人の時代を超えた縁が、トランプの神経衰弱のペアカードのように分かります。過去から脈々と続くその縁が、暖色系で見えたら良いもの、寒色系で見えたら悪いものと色合いで判別ができ、どの人と親しくなるべきか、距離を置くべきかが分かります」
縁が深い者同士は、過去に親子関係だったり、恋人同士だったり、それが何代にも渡って、同じ魂と繰り返されていたりする。
良い結びつきが強い魂とは、当然九回目でも上手くやっていくことができるというわけだ。
つまりこの能力が、ビジネスや政治では大きく役に立つとされている。
私にも少しだけこの能力の片鱗があり、たった一度だけ、縁が見えた経験もあった。
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