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十一月・タロットで愛の告白

敦貴との身体の関係は、温室ではなく私の部屋へと場所を移し、続いていた。 「エッチした後、すごい眠そうだからさ、先生のベッドでしたほうがいいんじゃない?」 そう言われ、一旦は否定したものの、いつしかこそこそと部屋に招き入れるようになってしまった。 自室なら鍵が掛かるし、私にとってセックスの後に訪れる熟睡は、大変貴重なものだったから。 鉢巻での目隠しも、最近の敦貴はわざと途中で取れるように緩く結ぶから、役割を果たさなくなった。 二人でベッドに入れば、恥ずかしく喘がされ、敦貴にしがみついて「もっともっと」と痴態を晒しながら快楽をむさぼるくせに、私はことを始める直前まで先生らしく振る舞おうとする。 「ところで敦貴、能力は開花しそうですか?」 「全然。全く。何の兆候もないよ、先生。だからさ、もっともっと、イヤらしいことしようよ」 甘く口づけをされ、服を脱がされ、長い指が身体を這えば私は酷く興奮してしまう。 行為が進めば「奥を突いて。もっと激しくして」ととんでもないことを口走り、乱れてしまう。 事後、敦貴はいつも私の首元に顔を埋めながら「フルーツみたいな甘い匂いがする」と吐息交じりに囁く。 そして、私の髪を撫でるように触っていた彼が、いつ部屋を出ていったのか知ることもないくらい、私は深く入眠することができる。   一度だけ、真夜中に目が覚めたことがあった。 暗闇の中、ボクサーパンツだけを身に着けた敦貴が、ベッドに腰掛け、壁に掛かった光夜が描いた絵をじっと眺めていた。 「……敦貴、どうしました?」 「せんせ、起こしちゃった?ごめん。俺、もう部屋に帰るね」 「敦貴」 甘えるようにその裸に手を伸ばせば、チュッと指にキスを落としてくれた。 「先生を描いたこの絵、いい絵だね。他の絵も、燃やさなければよかったのにね……」 燃やす?何の話をしているのだろう。 「おやすみ、せんせ」 その言葉が、まるで何かのまじないかのように、またスーと眠りに誘われた。 — 森の木々がカラフルに色づいて、落葉樹がハラハラと舞い落ちる頃になると、今年も文化祭の季節がきたと、学園内が浮足立つ。 天文部は毎年恒例で、体育館の片隅に占いコーナーを開設する。 当日の朝。 たっぷりと眠ったので目覚めがよく、いつもより丁寧に髪をセットしてから食堂へ行く。 トーストにたっぷりバターを塗っていると、つい数時間前まで私のベッドにいたはずの敦貴が、やってきた。 「ねぇ先生。今日は俺が占ってあげるから、絶対に来て。約束だよ、いい?」 「ふふ。いいでしょう。分かりましたよ」 普段大人びている敦貴がはしゃいでいるように見え、文化祭を楽しみにしている姿が微笑ましかった。 敦貴の進路は早々に、私の母校のいわゆる一流大学に決まったらしいので、残りの学園生活は、思いっきり楽しんでもらいたい。 私自身は、教諭数人で、イカ焼きの店を出した。 午後に店番担当だったが、磯の香りと生姜醤油の焦げる美味そうな匂い、それから田淵先生の強制的な呼び込みに釣られ、沢山の生徒が買いにきてくれた。 三十本のイカ焼きは早々に売り切れ、店じまいとなった。 天文部が行うタロットカード占いは今年も大好評で、長蛇の列が出来ているのが見える。 どの部員もタロットカードを並べてはいるが、カード内容に関係なく、九回を生きた経験を活かし人生相談のようなものを行っているのだ。 ブースに近づくと、敦貴が「先生、こっちこっち」と嬉しそうに手招きをする。 敦貴の列にはまだ沢山の生徒が並んでいる。 彼は校内でかなり人気があるようだ。 私が最後尾に並ぶと、敦貴が近寄ってきて私の首に「ここまでで終了」という札をかけた。 敦貴に占ってもらう子たちを眺めていたが、席を立つ時には皆、笑顔になっていた。 どうやら優秀な占い師のようだ。 三十分程待っただろうか。 ようやく順番が回ってきて、テーブルの前に座った。 「先生の恋を占ってあげるね」 慣れない手つきで、タロットカードをシャッフルし並べている。 カードの意味など、きっと一つも知らないくせに。 「先生はね、ずっと同じ人が好きだった。十八歳から。でもそろそろ違う人を好きになる時期だって、カードが言っている。次に好きになる人は今年になって現れた人で、身近にいる。相手も、先生の事を好きになったみたいだよ」 そう言いながら照れたように俯き、耳を赤く染めていた。 もしかして、これは愛の告白なのだろうか。 顔を上げた敦貴は、まるで私を説得するように、熱心に語りかけてくる。 「ねぇ、先生お願い、その生徒を好きになって。彼は先生に好かれたい、愛されたい、先生の寂しそうな隙間を俺が埋めたいって思っているよ。なかなか寝付けない先生と、モフモフな犬みたいに一緒に寝て、安眠できるようにしてあげたい、そう思っている。先生の心の中に違う人がいるのを知っていて、それでもその人より自分を見て欲しい、と願っている」 犬のことなど、敦貴に話した覚えがないのに、どうして分かったのだろう。 私が犬を飼っていたこと、私の寝つきが悪いこと、私が光夜を犬みたいだとよく言っていたこと、犬がいれば眠れること。 もしかして本当にカードが暗示しているのだろうかと覗いてみたが、私もタロットの意味など一つも知らなかった。 「先生からの質問は?」 「カードには、私が過去を忘れ、新しい恋ができると、出ていますか?」 敦貴としっかりと目が合う。 彼は深呼吸するように、大きく息を吸い込んだ。 「カードにも、分からないって」 小さな声でそう答え、目を逸らし俯く。 正直な敦貴を好ましく思ったし、自分自身の意地の悪さを情けなく思った。 私は敦貴の手元にあるカードを見ながら、話し始める。 「その生徒が誰なのか分かりませんが、私は光夜のことを忘れられません。生徒は春になる前に卒業し森から出て行くけれど、私はずっとこの森の中にいる。だから、そもそも恋など始められないんです」 私は敦貴の顔を見ずに、席を立った。 体育館のステージからは、下手くそなカラオケの歌が聞こえていた。

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