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十二月①・雨の夜の会話
冬の雨の日に温室にいると、二十年前の卒業式前日を思い出す。
光夜が殺されたその日の夜、警察に続き、あの当時名のある政治家だったお祖父様が学園に来て、理久を連行していった。
私はその間もただひたすら、光夜の身体に縋り付いて泣いていた。
美智雄に何度も部屋に戻るように促されたけれど、聞く耳を持たなかった。
和登が刺された後、美智雄は第二の事件が起きぬよう、八回目で尚且つ六十年以下だった数名に見張りを配置していた。
その中に光夜が含まれていることは把握していたが、私は理久と同室だったため、憔悴が激しかった彼の側に居てやることを優先させてしまった。
まさか理久が犯人だとは気づいていなかったし、再び突発的な行動に出るとは少しも予想できていなかったのだ。
そのことを光夜の亡骸にいくら謝っても、後悔は深まるばかりだった。
翌早朝、警察が光夜を連れて行く時には「やめて、光夜に触らないで」と喚き散らし暴れたことを、覚えている。
結局、卒業式は行われず全校生徒で黙祷だけをした。
園芸部の一年と二年が用意した生花のコサージュを胸に差し、三年生全員はバスで駅まで送られ、予定通りの日程で学園を出された。
記憶の中を彷徨っていたら、いつの間にか温室に敦貴が来たことにも、気が付かなかった。
「先生。ねぇ、先生」
「あぁ、敦貴。どうしました?」
敦貴は、行儀悪くテーブルに腰掛ける。
「あのさ、先生。九回目が持つ三つの力って、強い能力は一人に一つしか与えられないんでしょ?それって結局、何の意味もなさないよね」
「なぜそう思いましたか?」
「例えばさ、八回目を生きる残り六十年の人を好きになって、その人が急に死んだとするだろ。二十年後にその人の生まれ変わりを探したくても無理だよね。「見透かす力」では、九回目で残り四十年前後で現在二十歳ぐらいの人を探すことしかできない。該当者を何人見つけたとしても、確定はできない」
何の話をしようとしているのだろう。
「「縁を見る力」では、その人と自分に過去縁があった、ということしか分からない。良い縁なら暖色系、悪い縁なら寒色系、縁が深ければ深い程濃く色づいて見える。だけど、どんなに暖色系の濃い色を見つけても、それは二つ前の母親とか、三つ前の弟なのかもしれない。想像することしかできず、誰なのかは分からない」
「そうですね」
「「記憶を保持する力」もさ、いくら自分の八回目、七回目の記憶がクリアにあったとしても、生まれ変わって容姿が変わってしまった相手を探すのには、何の役にも立たない」
「敦貴、何が言いたいのですか?私は別に、光夜の生まれ変わりに会いたいわけではないですよ」
「何で?会いたいでしょ?大好きだったんでしょ?もし目の前に現れても先生は嬉しくないの?」
「探してまで会いたくはないですよ。だってその人は、光夜の魂であっても、光夜ではないのだから。嬉しくは思うかもしれません。でもだからといって、その生まれ変わりを光夜と同じように愛せるかどうかは、分かりません。縁はあるだろうから、いつか知らずに会えるかもしれないとは思っていますけどね」
私は日々思っていたことを彼に伝える。
「それに、光夜には私と過ごした八回目の記憶が無いほうがいいと思っています。背中を刺された記憶など、残っていたら気の毒でしょう」
「……そっか。そうなのか。俺なんか勘違いしてたよ、先生。ごめん」
酷く悲しそうな顔をしてテーブルから降り、敦貴が温室から出ていこうとする。
敦貴は、光夜を探そうとしてくれたのだろうか?
そうしたら私が喜ぶと思って……。
私のことを親身になって考えてくれる敦貴が、愛おしく思えた。
そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
笑って嬉しそうな顔を見せてほしい。
そう思うと、どうしても振り向かせたくて、咄嗟に声を掛けた。
「クリスマスの夜、私、学園に一人なんです。よかったら敦貴、一緒に過ごしませんか?」
「えっ?」
敦貴は振り向いてくれた。
「もうすぐ卒業ですし、三月一日にはお別れですから。少し思い出作りを、ね」
ガーデンテーブルまで敦貴が戻ってきてくれる。
「実はクリスマスに、ダリアの切り花を分けて欲しいって言ってきた関連団体があるんです。庭師さんと二人で刈り取れば対応できるだろうと、引き受けてしまったんですけどね。彼、お孫さんとテーマパークに行く約束があったんですって。敦貴が居残って手伝ってくれれば、助かります」
「先生の部屋に泊めてくれる?」
この子はこんなにも嬉しそうな顔をしてくれるのか。
私とクリスマスを過ごすぐらいのことで。
「えぇ、そうしましょう。途中で自室に帰らなくても、朝まで私の部屋にいたらいい」
敦貴は、はにかんだように笑ってくれた。
「そうだ!先生、クリスマスに欲しいものがあるんだ。先生なら、学園に居ながらネットで注文ができるでしょ?」
「いいですよ、手伝ってもらうお礼にプレゼントしましょう」
「俺が自分で頼むからパソコン貸して。先生宛に届くようにするけど、箱を開けたりしないでくれよ」
敦貴が居残ってくれるクリスマスには、光夜のことは考えないように努めようと、心に誓った。
それが敦貴への礼儀だと思って。
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