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十二月②・クスノキのツリー

敦貴が一日多く学園に残ることを、一応美智雄に報告した。 「園芸部の手伝いとはいえ、公には許可できない」 仏頂面で答えが返ってくる。 「公には、ね」 「そうだ公には、な」 二十四日午前、三年生全員がバスに乗り最寄駅まで連れて行かれる。 私は一歩遅れて自分の軽自動車で学園を出て、既に他の生徒たちが立ち去った駅へ行く。 敦貴は私の車を見つけ、ブンブンと手を振ってきた。 車の中で敦貴は「楽しみだ、楽しみだ」と、繰り返し、私に「先生も楽しみ?」と何度も同意を求めた。 「えぇ。こんなに楽しみなクリスマスを迎えるのはいつ以来でしょう」 光夜のことを思い出さないと決めていたくせに、敦貴のはしゃぐ姿は早くも二十年前のクリスマスの記憶を甦らせた。 少し遠くのショッピングモールまで車で行き、まずは腹拵えと、二人で手頃な中華料理屋に入った。 敦貴が酢豚定食にするというので、私も同じ物を頼んだ。 パイナップルは入っていなかった。 混雑する食品売り場で、骨付きチキンやサンドイッチ、サンタとトナカイの砂糖菓子が乗った小さなクリスマスケーキも購入した。 最後にコーヒーショップで、いつもは頼まないような甘ったるいコーヒー二つを購入し、カップを持って車に戻った。 「デートみたいだ」 帰りの車の中で敦貴がポツリと呟き、自分で言って耳を赤くしている。 学園に着くと、教諭も職員も仕事納めをし、皆バスで駅へと送られて行った後だった。 「ねぇ先生、俺が頼んだ荷物届いてる?」 「えぇ、届いてますよ」 敦貴に大手のショッピングサイトの段ボール箱を手渡す。 「よし!じゃ先生、あとでね」 跳ねるような足取りでどこかに行ってしまった。 何か企んでいるな、と分かったが、素直にそれをお楽しみとして待つことにする。 年末らしく温室のガーデンテーブル周辺と、自室の本棚を大掃除していると、瞬く間に陽は暮れた。 部屋のドアがノックもなく、勢いよく開く。 「先生、お待たせ!さぁ、行こう、暖かい格好をして」 どこへとも聞かずに、言われるままにダウンジャケットを羽織る。 差し出された暖かい手を取って、宿泊棟を出た。 敦貴はスマホのライトを照らしながら、真っ暗になった森へと進んで行く。 森の中はしんしんと冷え、葉の落ちた枝が暗闇の中で酷く不気味に見えたが、敦貴の足取りは軽い。 何度も何度も私の顔を覗き込むように見てきては、微笑んでくる。 それでも夜の森は怖く流石に途中で心配になり、敦貴いったいどこへ、と訊こうとした矢先、低いエンジン音のような響きとともに木々の間から、何やらキラキラと光る煌めきが見えた。 「え。あれは?」 「ほら先生、早く」 敦貴は我慢できなくなったように小走りに走り出し、私は繋いだ手を引っ張られるように連れていかれた。 突然目の前に現れたのは、クリスマスツリーだ。 あのクスノキに電飾がぐるぐると巻き付けられて、チカチカ、キラキラと瞬いている。 「手が届く範囲にしかライトを付けられなくて」 敦貴はそう言うけれど見事だった。 シャンパンゴールドの光が神秘的で、夢の中にでもいるみたいだ。 「どう?」 心配そうな声で聞かれる。 「あぁ……綺麗です、とても、とても。本当に、綺麗だ……」 クスノキから目を離さずそう答えれば、敦貴が繋いだままの手をギュッと強く握りしめてきた。 あの荷物は電飾だったのか。 電源は文化祭の屋台で使う発電機を持ち出したようだ。 輝く電飾をどれくらい眺めていただろう。 身体が寒さにブルッと震えた。 それに敦貴が気がつき、繋いだ手を一旦離して、両腕で抱きしめてくれた。 「敦貴、ありがとう」 心からお礼を言うと、敦貴は大きく白い息を吐く。 「あー、よかった。先生に喜んでもらえて、本当によかった」 くしゃっと笑った顔を見て、私が喜ぶだけで、こんなにも嬉しそうにしてくれるのかと驚き、彼を心から愛おしく思えた。

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