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10 新しい進路

 記憶障害はまだ残るものの、検査結果に異常はなく、俺は二週間程度で無事退院できた。  俺は退院してからずっと、泰雅(たいが)から提案されたオメガ特待生制度について考えていた。  ベータだった俺がこの制度で入学するのは、オメガという性を利用するみたいで正直戸惑いが大きかった。だから、泰雅の提案に即答できなかったんだ。  けど、オメガ特待生制度を実際に利用した人の声や、口コミなどを調べたら、戸惑いが少し薄れてきた。  大学だけではなく、周辺地域のコミュニティ全体でオメガのサポートをし、自立支援を行う体制が整っているらしい。  オメガだからと守られるだけではなく、オメガ自身が尊重されているところに、好感が持てたんだ。  俺は、数日悩んだ末に、結論を出した。 「俺、泰雅と同じT大学を受験してみるよ」 「……わかった。手続きを進めよう」  泰雅は、俺が出した答えを聞いて、安心したように頷いた。  泰雅はいつでも俺の考えを尊重してくれる。強引にでも進路変更させることだってできたかもしれないのに、可能な限り俺に寄り添ってくれるんだ。  だから俺は安心して、前を向いて歩いていける。 ◇  それから俺たちは、慌ただしく手続きなど準備を進めた。  まずはお互いの家族への報告。泰雅と同じT大学への進学を目指すこと。無事合格したら、大学の書類上とはいえ(つがい)登録することなどを伝えた。  俺の両親は『泰雅くんと一緒なら安心だね』と、二人でニコニコと喜んでくれた。そんな様子を見て、泰雅も泰雅の両親もうんうんと頷きながら、満足そうに微笑んだ。 「なんかさ……婚約の報告みたいだったな……」  部屋に戻ってから泰雅と二人きりになって、思わず口から出た言葉に、「あっ!」と慌てて口を塞いだ。  何言ってんだ、俺! めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってんじゃん!  急いで笑って誤魔化そうとしたけど、俺を見る泰雅の目は全く笑っていなかった。 「いつか……本当に報告したい」  泰雅の熱い視線に、俺の顔は一気に熱くなった。  俺だって、そうなったらいいと思ってる。でも、本当の番にはまだなってないし、その先のことだってまだ話したことはなかった。  思いがけず、俺の本音が漏れてしまったけど、泰雅も同じ気持ちってことだよな。  俺は、返事の代わりに泰雅を抱きしめた。  いつか、この願いが本物になるといいな。  俺が顔を上げ素早く泰雅の唇を奪うと、泰雅の視線がさらに熱くなったような気がした。 ◇  オメガ制度での受験手続きが済んで、あとは試験当日まで手を抜かずに頑張るだけだ。今日も、泰雅に勉強を見てもらう約束をしている。  けど、なんだか朝から体が熱い気がするんだ。 「あれ? もしかして熱があるとか?」  俺は自分の額に手を当ててみた。うーん、なんか熱いような気もするけど、気のせいかなぁ。  とにかく連絡を入れようとスマホを手にしたら、玄関のチャイムが鳴った。  俺は『はーい』と返事をしながら玄関に向かった。  玄関を開けた途端、泰雅は押し入るように家の中に入ってきて、勢いよく扉を閉めた。 「今日の勉強はなしだ」 「え? なんで?」 「ヒートが来てる」 「え? そうなの?」  今までヒートを経験したことなんてないから、これがヒートかもしれないなんて思いもしなかった。  でもなんで、泰雅はそんなに険しい顔をしてるんだろう。 「泰雅、眉間にしわがよってるぞ?」 「ああ、悪い。……外まで匂いが漏れてたから」 「そんなに?」 「いや……多分、俺だから感じ取ったのかもしれない」  恋人だから俺の匂いに敏感になっているのかな? わからないけど、先に匂いに気づいたのが泰雅でよかった。  泰雅に手を引かれながら、俺は自分の部屋に戻った。泰雅は俺にベッドの上に座るように言い、自分は勉強用の椅子を持ってきて座った。 「様子はどうだ?」 「ヒートかぁ……今んところ、体がちょっと熱いかな? ってくらいで、あとはいつも通りな気がするけど……」 「体が熱くなっているのか。完全にヒートが来る前に、準備をした方がいいかもしれない。俺は買い物をしてくるから、圭太(けいた)は絶対に家を出るなよ」  泰雅はそう言いながら椅子から立ち上がった。俺は、すぐ近くに感じていた泰雅の匂いが離れたら、急に不安に襲われた。  俺から離れようとする泰雅の腕を、無意識に掴んでしまった。……あれ、俺どうしたんだろ……。 「泰雅、行っちゃうの……?」  体が勝手に泰雅の腕を掴んだと思ったら、今度は勝手に泰雅を引き止める言葉が出てきた。  え……? 本当に俺、どうしちゃったんだ?  ドクン……。  急に、心臓が跳ねた。胸が苦しくて、ドキドキと鼓動が早まる。  熱が、上がってきたのかな。どんどん体が熱くなって、頭がぼーっとしてきた。  何をしてたんだっけ。何をしなきゃいけないんだっけ。……もう、考えるのも面倒になってきた。  あれ? なんか、泰雅からとてもいい匂いがしてくる。  香水……? こんなのつけてたっけ……? めちゃくちゃ俺好みじゃん……。もっと、もっと、嗅ぎたい。近くに来て欲しい――。  俺は全てを手に入れたくて、ぼーっとする意識の中、目の前の泰雅に思い切り抱きついた――

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