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33 バイト仲間として

 バイトを始めてから、半月が過ぎようとしていた。大学生活もバイトも全てが順調で、逆に心配になってしまうくらいだ。  けど、俺の最大の元気の源の泰雅(たいが)がいない。夜寝る前にベッドに転がって天井を眺めていると、特に寂しさを感じてしまう。  泰雅と離れてからしばらくは、ほぼ毎日ビデオ通話をしていた。寝る前に顔を見ながら話をして、一日が終わる。幸せな時間だった。  だけどある時、泰雅の様子がおかしいことに気づいた。  泰雅の声はいつもより張りがなく、疲れた様子を隠せていなかった。しかも目元に薄っすら隈も出来ていた。  慣れない場所での生活だし、いくら優秀な泰雅でも、親父さんの代理というのはとんでもなく負担が大きいんだと思う。  でも泰雅は、無理やり俺との時間を作ってくれていたんだ。  なんで俺は気づかなかったんだろう。自分のことで精一杯で、泰雅のことを何にも考えてやれなかった自分が嫌になった。  泰雅が忙しくなったことと、滞在先が変わったことで、今は連絡を取ることも難しくなってしまった。  顔も見られない、声も聞けない。だけどせめてメッセージだけでもと、毎日送った。  少しでも、泰雅の元気の源になれますように。 ◇ 「圭太(けいた)くん、バイトどう? 忙しい?」  久しぶりにバイトがない日。俺は柊と大学の学食でゆっくりと食事をとっていた。  大学生活もバイトも順調だけど、自分も気づかないうちに疲れが溜まっているのかもしれない。久しぶりに柊とゆっくりとした時間を過ごせて、癒されているなぁとしみじみと感じた。 「うん、順調だよ。でもやっぱ疲れてんのかなー。柊と話をしたら、なんかすごく元気が出た気がする。やっぱり柊はヒーラーかもしれないな」 「ヒーラー?」 「ああ。回復系の職業っていうのかな。ほら、ゲームとかアニメとかで出てくるやつ」 「あまりよくわからないけど、圭太くんの元気が出るなら、僕たくさん回復魔法かけちゃうよ」  俺の例え話に、柊は手で宙にくるくると円を書いて『元気になぁれ〜』と俺に魔法をかけてくれた。そして最後ににっこりと微笑む。  くー! 可愛すぎる。本当に柊は天使だ。 「柊、ありがとなー。元気出たわ」 「うん、それならよかった。……でも圭太くん、無理してない?」 「え?」 「だって、いつも何かっていうと泰雅くんの話をするのに、最近全然聞いてないなって思って……」 「そ、そうか?」  いつもふわふわしている柊だけど、こういう時は鋭いなって思う。  もともと気遣いができるやつなんだろうけど、もしかしたらオメガとして生きていく中で、まわりを注意深く観察する癖がついてしまったかもしれない。 「大丈夫ならいいけど……。圭太くん、元気が取り柄なのはわかるけど、たまには弱音を吐いてもいいんだよ?」 「柊、本当にお前は優しいやつだ! ありがとなぁ。今日はもう時間がないから、近いうちに話を聞いてもらおうかな」 「うん、聞かせて? その時はまた魔法をかけてあげるね」  柊は、自分が大変な思いをしてきたからか、他人の痛みをわかろうとしてくれる。優しくて、可愛くて……柊には、幸せになってほしい。 「柊こそ、龍星とはどうなんだよ?」 「うん? 龍星くん? ふふ、変わらず仲良しだよ。でも、やっぱり大学に進学して、龍星くんも忙しいみたい。アルファとしてたくさんの期待を背負っているからね」 「そっかぁ。アルファも大変だな……」  アルファは勝ち組なんて言われるけど、やっぱりアルファだって大変なんだ。持って生まれたものに恵まれているとはいえ、努力を怠ればそれなりになるだろうし、努力した分だけ報われると思う。 「俺たちも、負けてらんないな。……がんばろうぜ!」 「そうだね。僕たちにしかできないこともあるしね」  俺と柊は固い握手を交わす。近いうちに寮でゆっくり話をする約束をして、学食を後にした。 ◇ 「圭太くん、お疲れ様。今日もありがとうね」 「あ、大地(だいち)くん。お疲れ様」  十一月も後半に差し掛かり、キッチンの簡単な仕事なら効率よくできるようになってきた。難しい料理はマスターにお願いするけど、俺がお客さんに出す料理も作っている。  普段は泰雅が作ってくれることが多いけど、実は俺も料理を食べるのも作るのも好きなんだ。それが役になっているから嬉しい。 「今日の午後は大学の講義はあるの?」 「午後? 今日は買いたいものがあるから、駅方面行こうと思ってて」  今日は午後の講義がないので、本当は午後までバイトに入りたかったけど、マスターの急な用事で午後は休みにすると伝えられた。なので買い物でも行こうと考えていたんだ。 「じゃあその前に、ちょっとランチにでも行かない?」 「ランチ?」 「そう。いつもはここの二階だけどさ、たまには外でランチもいいかなって」  歳も近いから『大地くん』と呼ぶようになった俺だけど、その頃からか、大地くんとの距離が近くなった気がする。よく話をしたり一緒に食事をすることも増えた。とは言っても、いつもはここ『喫茶にしむら』の二階にあるマスターの居住スペースを借りていて、外に出ることはない。 「そんなに長居はできないけど、それでもいい?」 「もちろん」  大地くんはベータだし歳も近いからか、元ベータの俺と話がすごく合う。泰雅とは違った意味で、一緒にいると楽なんだ。  泰雅の心配する顔が一瞬よぎったけど、昼間だし、マスターにもちゃんと言って行くし、大丈夫だろう。もちろん、泰雅にメッセージを送るし。 「じゃあ、閉店後の片付けを手伝ったら、出かけようか」 「了解!」  俺はそのあと、大地くんとランチの約束をしたことをマスターに伝えた。マスターは俺を近くまで呼び寄せ『彼は大丈夫なの?』と、小声で聞いてきた。  バイトで雇ってもらうマスターには、(つがい)がいることをちゃんと伝えてある。今回の採用は、大学を通してのオメガ雇用枠なので、申告義務もあるんだ。  俺は、ちゃんと泰雅に連絡を入れるし、短時間で解散予定だから大丈夫だと伝えた。  一般的には、必要がある時以外は、第二の性の話題に積極的に触れることはあまりよく思われない。だからマスターは大地くんに聞こえないように、声をひそめながら話しかけてきたんだと思う。  でも俺は、大地くんのことを気の合うバイト仲間だと思っている。マスターは、俺がオメガだから心配してくれたのかもしれないけど、友達と遊びに行くのは全然おかしくないだろう?  マスターは俺の説明を聞いて納得してくれたけど、第二の性って、やっぱり面倒くさいなって思ってしまった。

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