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34 ランチ
閉店作業の手伝いを終えた後、俺は更衣室に行きその場で泰雅 にメッセージを送った。
支度をしつつ既読になるか見ていたけど、なかなか既読にならない。きっと今手が離せない状態なんだろうな。
今からランチへ行くという連絡を確認しないまま、大地 くんとランチへ行くのは少し気が引けるけど、待たせてしまうのは申し訳ないので仕方がない。ランチが終わったら、もう一度連絡をしてみよう。
喫茶にしむらを出た後、大地くんに案内されたのは、徒歩圏内にあるおしゃれなイタリアンレストランだった。
「ここ、ずっと気になってたんだ。でも一人だと入りづらくて」
「それならちょうど良かった! 敵情視察ってことで喫茶店でも良かったんだけど、それだと仕事モード入りそうでさ」
大地くんは、そう言って笑った。見た目はチャラそうだけど、本当に喫茶にしむらが好きなのが伝わってくる。だから喫茶店に行くと、内装を観察したり、出されている料理を確認したり、接客をチェックしたりしてしまうんだろう。
「じゃあ行こうか」
大地くんがドアを開けると、カランカランと昔懐かしいベルの音が鳴った。……実際には、ドラマで見たくらいだけど。
店内に入ると、窓際の席に案内された。柔らかい日差しが心地よい席だ。
着席してメニュー表を見ると、おしゃれな店構えの割に、リーズナブルな料金設定だった。
「俺、オムライスが食べたい!」
「圭太 くん、マスターのオムライスもすごく喜んでたよね。好きなの?」
「うん、大好物なんだ。幼馴染と一緒に、昔からよく食べるし思い出の料理でさ」
俺は、泰雅とオムライスを食べさせあったことを思い出し、自然と口元が緩んだ。
「そんなに好きなんだ?」
「毎日食べても飽きないくらいだ」
大地くんは、俺の顔を見て、なんだか楽しそうに目を細めた。
そういえば、第一印象はちょっとチャラいなって思ったのに、最近はそうでもなくて普通な気がする。俺が慣れただけ?
「大地くん、最近なんか落ち着いた気がしない?」
「ん? 落ち着いたって?」
「初めて会った頃はさ、なんかもう少しチャ……ノリがいい感じかと思ったんだけど」
俺がつい『チャラそう』と言いかけて、言葉を濁したのに気づいた大地くんは、ぷっと吹き出し笑った。
「あ! ごめん! 決してバカにした意味で言ったわけじゃ……」
「くくく……。大丈夫、わかってるから。うん、確かにそうかもしれない。俺、正直オメガってちょっと苦手でね。だから、ちょっと近寄りにくそうな人間を装っていたのかもしれない」
「え? そうなの? じゃあ、俺といるのも……」
「ああ、圭太くんは平気なんだ。オメガだけど、まるでベータみたいに普通な感じだからかな」
大地くんにベータみたいだと言われて、『後天性オメガ』だと言い当てられたような気がして、ドキッとした。
雇用問題もあるし、泰雅にも後天性オメガだということは、軽く口に出さない様にと言われている。
大地くんが悪いとかそういうわけではなくて、事前に無用なトラブルを避けるためだ。
「ははは、そうなのかな? 俺ってベータみたいなんだな」
ちょっと乾いた笑いになってしまったけど、大地くんは全く気がついていないようだ。良かった。
でも、大地くんに嘘をついているわけじゃないけど、何か後ろめたいような気持ちになってしまった。
俺の頼んだオムライスは、きのこたっぷりデミグラスソースがかかった、ふわとろたまごのオムライスだった。
マスターの作る昔ながらの喫茶店オムライスも美味しいし、ここのお店のオムライスもふわとろでめちゃくちゃ美味い。
……けど、やっぱりどんなに美味しいお店のオムライスを食べても、俺の中での一番は、泰雅の作ってくれたオムライスだ。
「ごちそうさまでした。美味しかったー!」
「ごちそうさま。来てみて良かったなぁ」
美味しいものを食べて、気の合う大地くんとたくさん話をして、気分転換にもなったし日々の疲れも吹っ飛んだ……と思っていたのに、なぜか引っ掛かるものがある。
「圭太くん、これから買い物だっけ? 俺も一緒に行ってもいいかな?」
「……あ、そうだ。買い物に行きたかったんだ。もうお腹いっぱいで、満足しちゃったかも」
俺は、誤魔化すように笑って言ったけど、やっぱり何か疲れている様な気がする。
「そっか。じゃあ、もう今日は帰るの?」
「うーん、どうしようかな。今日は買い物やめて、帰ろうかな」
「ごめんね、予定外のランチに誘ったから、疲れちゃったかな?」
「ううん、そんなことない! すっごく楽しかった。大地くんとたくさん話もできて良かったよ」
大地くんが悪いわけじゃないのに、なんかすごく申し訳ない気持ちになってしまった。
楽しかったのも本当だし、ランチに誘ってもらえて良かったって思ってる。
「……また、誘ってもいいかな?」
「あ、うん。……タイミングが合えば」
純粋に友達としてランチに誘ってもいいか聞いているだけなのに、俺の脳裏には泰雅の顔が浮かんできて、すごく曖昧な返事をしてしまった。
大地くんの表情は変わらないけど、きっと俺の態度はあまり良い気分はしないよな。
「じゃあ、もう帰ろっか。帰り送らなくても大丈夫?」
大地くんが声をかけてくれるのと同じタイミングで、俺はスマホの通知を確認した。
喫茶にしむらを出る前に送ったメッセージは、未読のままだ。そのことが、余計に心をざわつかせる。
「何度もスマホ確認してたよね。誰かから連絡待ってるの?」
「えっ? あ、大学の友達から連絡が来るはずなんだけど、まだ来てなくて。今日の夜部屋に来るって話だったんだけど、まだ何も決めてないから、どうしようかと思って……」
スマホを気にしていたことがバレていて、咄嗟に嘘をついてしまった。
個人情報は、バイト仲間でも簡単に話すなと言われている。だから、俺が番 持ちのオメガだということも言わない方がいいと思う。だけど、嘘をついてしまったのは心苦しい。
けど、どこからか見ていたのかと思うくらいのナイスタイミングで、柊 からメッセージが入った。
「あ! メッセージ来た!」
「おー、良かったじゃん」
「ああ、良かった! 大地くんありがとう。ちょうど近くにいるみたいだから、合流するよ。今日は本当に楽しかった。またランチしような」
さっきは返事に戸惑ってしまったのに、あっさりと『またランチしよう』という言葉が口から出てきた。きっと柊からの連絡で、気が緩んだからかもしれない。
結局、途中での合流はやめて、そのまま寮まで帰ることにした。
寮までの帰り道は、なんかどっと疲れが出たように、少し足取りが重かった。
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