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36 ハーレム?
少しだけ躊躇しながらも、ビデオ通話許可の表示をタップした。
画面に泰雅 の顔が映る。
いつもなら、泰雅の気持ちが手に取るようにわかるのに、今はわからなかった。
『なかなか連絡出来なくてごめん』
俺が何から切り出そうかと考えているうちに、泰雅が先に口を開いた。
『系列ホテルから離れて、しばらく通信状態の良くない場所にいたから、確認が遅れてしまった。……心配かけて悪かった』
「いや、だって泰雅は親父さんの代理でそっちに行ってるわけだし、忙しいからしょうがないって」
『でも、何かしら手段はあったはずだ。それをおろそかにしてしまった俺が悪い』
本当なら真っ先に、俺がバイト先の人とランチに行ったことについて問い質したいはずだ。
それなのに泰雅は、まず先に俺の心配をしてくれ、こうやって自分の非を詫びてくる。いや、今回のことについては、泰雅に非なんて一切ないのに。
「泰雅は悪くない。俺が、ちゃんと泰雅と連絡を取ってからにすればよかったんだよな」
『俺は、圭太 を縛り付けたいわけじゃない。けど、俺の知らないやつと二人きりって考えたら、感情を抑えきれなくなりそうだった』
「ごめん……ベータだから大丈夫ってわけじゃないよな」
俺は『ベータだから大丈夫』を免罪符みたいに言ってしまっていたけど、柊 との会話で思い出したんだ。辻本 によるあの出来事を。
俺だってあの時は平気だったわけじゃない。悔しかったり、不安にもなったし。俺のためにも泰雅のためにも、気をつけようって心に誓ったはずなのに……。
『圭太を疑っているわけじゃないけど、ベータと確証が得られないなら、アルファの可能性だってゼロじゃないんだ』
「うん、そうだよな」
『圭太を信じたいけど、アルファの本能が不安にさせるんだ。今俺は遠くにいて、圭太に何かがあってもすぐ駆けつけることができない。自分の番 を守れない状態は、アルファにとってはかなりのストレスになることをわかってほしい』
画面の向こうの泰雅の顔が、微かに歪んだ。
「ちゃんと、気を付ける。バイト先だけじゃなく、普段からもっと気を付ける。いくら元ベータだからって、自覚なさすぎだったよな。俺だって、泰雅を不安にさせたくない」
『圭太……ありがとう』
俺たちは、今まで以上に言葉にして伝えなきゃいけないなって思った。ずっと一緒にいるから、なんでもわかっているつもりでいた。
もっと、泰雅の気持ちに寄り添える『番 』でいたいなって思った。
「あれ? 今帰ってきたばかりなのか?」
ちゃんと話ができたことに安堵していると、画面の向こうの泰雅はスーツを着ていることに気づいた。帰ってすぐ電話をくれたのかもしれない。
『ああ、今日は本当に疲れた。会食の後に飲みの席に誘われた』
「え? 相手の人、昼間からお酒飲むんだ?」
今日は喫茶にしむらのランチ営業後、大地 くんと二人で少し遅いランチに行ったんだ。そして食事後寮に戻って、柊と話をして……。
改めて時間を確認すると、18:00を過ぎた頃だった。こんな時間まで二次会に付き合っていたなら、もう夕飯なんて入らないだろうなって思っていたら、泰雅は不思議そうな顔をして首を傾げた。
『ん? いや、もうすぐ日付変わるような時間だぞ』
「え? ちょっと待って?」
あれ? もしかして俺、大事なことに気づいてなかったんじゃ……。
『ああ、圭太はやっぱり時差のこと考えてなかっただろう』
「時差!? あ! え? でも泰雅、いつも普通にビデオ通話してたじゃん」
『朝から圭太の顔を見ることができて、元気をもらってた』
「まじか! お前、無理してたのか?」
『大丈夫、アルファはタフにできてるし、圭太と話ができるなら少しくらい大丈夫だ』
俺の勘違いを『まぁ圭太だしな』くらいにしか思ってないような口調で、泰雅はなんでもないことのように言った。
いや待て、なんでもないわけないだろう。
泰雅の任されたことがどれだけ大変かなんてわからなかったけど、海外に行って慣れないことして、泰雅のことだから夜もきっと遅くまで起きていて。……なのに俺と話すためだけに、睡眠時間削って早起きしてたってことだよな。
「今度もし同じような状況になったとしたら、先に教えてくれよ。そしたら俺だって時間の調整できるはずだから。俺は、泰雅だけに無理をさせたくない」
『わかった。今度はちゃんと言う。それでも、圭太の顔を見て話す時間を作るために、睡眠時間を削るなんてたいしたことじゃない』
「俺が、絶対に無理させないからな!」
こりゃ、気をつけないと何度でもやりかねないぞ。いくらアルファがタフだからとはいえ、無理したらぶっ倒れるに決まってんだ。
そんな話をして、ふと思った。いつも泰雅は俺に気をつけろってばかり言うけどさ、泰雅はどうなんだよ? 俺はそう思って画面越しに泰雅をチラッと見た。
「泰雅こそさ、まわりに可愛いオメガとかいないのか? オメガでも優秀な人材はいくらでもいるだろう?」
『大丈夫だ。うちの系列ホテルで働くオメガには、教育を徹底している。ホテル宿泊客への注意事項の十分な説明と、スタッフ自身にも自覚を持たせ、ホテル側も最大限に配慮している』
「そう言う意味だけじゃなくてさ」
俺が言いたいのは、イレギュラーの事故の想定の話をしているわけじゃなくて、泰雅を気に入った人が言い寄ってこないかって話だ。
そうだよ。泰雅みたいにかっこよくて優しくて優秀なアルファを、まわりが放っておくわけがないじゃないか。
元ベータで、元気しか取り柄がない俺って、めちゃくちゃ不利じゃないか?
ハーレムみたいに、泰雅のまわりに男女問わずオメガが寄り添っている姿を想像しちゃって、俺は愕然とした。
『圭太、また変なこと考えていただろう? 大丈夫だ、俺はハーレムなんか興味はない。圭太だけがいい』
「えっ……、なんで俺の考えていたことがわかったんだ?」
『圭太が考えそうなことだって思ってな。……あと少しで帰国できそうだから、圭太が二度と変な妄想をしないように、よーく教えてやるから待ってろよ』
泰雅の心は、変わらず俺に向けられてるんだなってわかって、俺はニヤニヤと口元を緩ませた。
そして俺の脳裏に浮かび上がったオメガたちは消え、代わりに泰雅の隣にぴたりと寄り添う俺の姿が見えた。
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