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38 浮き立つ心

 泰雅(たいが)から帰国の目処が立ったと連絡をもらってから、そろそろ一週間が過ぎようとしている。  ギリギリまで正確な日程がわからないと言われているから、毎日まだかなまだかなとソワソワしながら待っていた。  その様子を見た(しゅう)は察してくれて『なに、泰雅くんそろそろ帰ってくるの?』って、ちょっと茶化しながらも良かったねーと一緒に喜んでくれた。  バイト先では、大地(だいち)くんに『なんだか最近嬉しそうだね。良いことあった?』って聞かれた。幸せな気持ちが滲み出ちゃっているみたいだ。  大きな声で『俺の(つがい)の泰雅がやっと帰ってくるんだ!』って、みんなに喜びを伝えたいけど、番がいることは黙ってなきゃいけないからちょっともどかしい。  そういえば、大地くんは定期的にどこか遊びに行こうって誘ってくる。やっぱり大地くんにとっても、俺と一緒にいるのは気が楽なのかな? 気が合うやつと遊びに行くのって楽しいもんな。  でも、本当にタイミングが合わない。初めは、泰雅との約束だからって、やんわりと断っていたんだけど、今は本当に俺も忙しくなってしまったんだ。  あ、そうだ。泰雅が帰ってきたら、柊たちも誘ってみんなで遊びに行くのも楽しいかもしれない。今度みんなに声をかけてみよう。  大地くんもそんなに歳は変わらないし、泰雅も一緒だから問題ないし、男同士友情が芽生えるかもしれない。一石二鳥どころか一石三鳥ぐらいだ。  名案を思いついた俺、天才! って自画自賛しながら、寮を出て大学の講堂へ向かった。 ◇  土曜日には帰れそうだとメッセージが入ったのは、直前に迫った木曜日の就寝前だった。  この時間に連絡がある時は、ビデオ通話をして、一日を幸せな気持ちで終えるという最高の時間だった。  でも今回は、ビデオ通話どころか声も聞けなくてちょっと残念だった。半日くらい音信不通になるけど心配するなというメッセージだけが届いた。  時間を削ってまで俺との時間を作ろうとしてくれていた泰雅が、メッセージのみってことはかなり忙しいんだと思う。  帰国の準備もあるだろうし、泰雅のことだ、ギリギリまで親父さんの代理を務めているのかもしれない。  スマホの画面に向かって『あと少しだ、がんばれ!』と、泰雅にエールを送った。  俺は、期待で胸を膨らませながら眠りについた。  次の日の朝。もしかして昨日のメッセージは夢だったのかも? って心配になって確認したら、ちゃんと土曜日に帰るって書いてあった。  今日一日頑張れば、明日は泰雅と久しぶりに会える。今日のバイト帰りにそのまま帰省するつもりだから、明日は泰雅の部屋に突撃しよう。  いや、待てよ? サプライズで空港まで迎えに行っちゃう? 飛行機に乗る時に連絡くれるだろうから、迎えに行く時間は十分にあるはずだ。  泰雅に会ったら、あれしようこれしようって考えるだけで、テンションが上がりまくる。うん、めちゃくちゃ楽しみだ!  俺は鼻歌を歌いながら、朝食を食べ、支度をし、寮を出た。  今日は午前中は大学に行って、お昼からバイトに入る。 「圭太くん、おはよぉ〜」 「柊、おはよう!」 「あれ〜? なんかいつもに増して、顔がゆるみっぱなしに見えるんだけど?」  小会議室の入り口で合流した柊は、今日もめざとく俺の些細な変化に気づいた。 「バレたか。すごいな、柊」 「すごくないって。だって、圭太くんってすぐ顔に出るんだもん」  柊は顔をふにゃりと崩して、楽しそうに笑った。  出会ってまだ一年も経ってないけど、どんどん柊は明るくなっている気がする。俺と出会ったことも影響しているなら、嬉しいかもって思った。 「……で? 泰雅くんがどうしたの?」  俺の顔のゆるみの原因が『泰雅』と断定していることにも笑っちゃうけど、柊にとっての龍星くんも同じ存在で、俺の気持ちがよーくわかっているんだと思う。  オメガだからアルファに依存しているとか、本能的にはそういうところもあるのかもしれない。けど、ただの依存じゃなくて、共存していきたいって思っているんだ。  だから、泰雅にとっての俺の存在も『幸せの種』であってほしい。想いを込めれば込めるほど、愛は大きく育っていく。 「まーた、自分の世界に入っちゃってるー。圭太くーん?」 「あ、わりぃわりぃ。……泰雅な、土曜日にはこっちに戻って来られそうだって」 「え、ほんと? もう明日には帰ってくるんだね。よかったね、圭太くん」 「ああ、予定より帰国が伸びていたからな。やっとって感じだ」 「もうそわそわしちゃって、居ても立っても居られないんじゃない? でも今日は、僕とペアワークの課題をやるんだからね? しっかりしてよ?」 「おう、大丈夫だ、任せろ!」  胸を叩いて言ったものの、正直ちょっと不安だ。心ここにあらずとなって、柊に迷惑をかけないようにしないとな。  柊に迷惑もかけることなく、ペアワークを真面目に取り組めた俺は、柊に見送られながらバイトに向かった。  いつもと同じ道のりのはずなのに、足取りがとても軽く感じる。  営業時間内なので、静かに裏口から店内に入ろうとしたら、ゴミ袋を持った大地くんが出てきた。 「あ、大地くん、こんにちは」 「圭太くん、こんにちは。今から入るんだね」 「うん、今日はお昼からだから。急いで支度しないと」 「今日は客足が遅いみたいだから、急がなくても大丈夫だよ。……ねぇ、圭太くん。今日もなんか嬉しそうだね」  柊はいつも一緒にいるから、俺の変化に気づきやすいのかもしれないけど、まだ知り合って一ヶ月……しかもバイトでしか会っていない大地くんにまで言い当てられるとは。 「圭太くんは、元気だし素直だし良いよね。顔に出やすいタイプだけど、すごく好感がもてる」 「俺、そんなにわかりやすいかなぁ?」  褒められているのはわかるけど、なんか少し照れくさい。 「疑うことを知らないって感じ。……騙されちゃわないか、心配だよ」 「大地くん、何言ってるんだよ。大丈夫だって、そんな簡単に騙されないよ」  俺が『騙されそう』なんて、なんで大地くんがそんなことを言うのか分からない。でも親にも、顔に出るからわかりやすいって言われたことはある。  最近は特殊詐欺とかも多いし、騙されないように気をつけろよって意味かな? 「こんなところで立ち話をしている場合じゃないよ。早く店に戻らなきゃ」 「そうだね。戻ろうか」  大地くんはまだ何か言いたそうだったけど、バイト開始時間になってしまうから、俺は急いで更衣室に向かった。

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