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第2話

午後三時。 ひと通りの家事を終え、身支度をして買い物に出る。 竜一が今の仕事に就けたのは、とある建設会社の会長のお陰だ。 それは、僕が生まれるずっと前──まだ若葉が成人して間もない頃。当時、闇金融の取り立てを請け負っていた現虎龍会会長、美沢大翔の代理として訪れた若葉に、随分とお世話になったらしい。 岩瀬巡査と同様、若葉に惚れ込んだ一人なんだろう。若葉の息子というだけで、僕に当面の生活資金を援助してくれた。加えて、ヤクザ上がりで中々職に就けない竜一を、是非うちで面倒をみたいとも。 だからこそ。これ以上、迷惑をかける訳にはいかない。 もしあの男が不動産に通報したとしても、竜一はもう……暴力団とは何の関わりもないんだから。 「……あれ、今からお出掛け?」 外階段を下りた所で、突然声を掛けられる。びくんと肩が跳ねると、クスクスと笑い声が聞こえた。 身構えながら振り返れば、同じ棟の住人──田辺悟が、階段の上から片手を振っている。 「ごめんごめん。驚かしちゃって」 申し訳なさそうに微笑みながら、長い足を軽快に動かして階段を駆け下りる。 丸眼鏡の奥にある、奥二重の垂れ目。 後ろで一つに束ねた、強いパーマの掛かった髪。 長身痩せ型の恵まれたモデル体型のせいか、シンプルな服ながら不思議と格好よく見えてしまう。 「今朝は大変だったね。大丈夫だった?」 「……はい」 見られてたんだ…… ごみ捨て場での出来事が蘇り、不快感と共に寒気が走る。 「あまりにしつこいようなら、僕から不動産会社の方に通報しようか?」 「え……」 突然の提案に、返事に詰まって目を伏せる。 きっと、親切心から言ってくれたんだろう。住人同士のトラブルは、当人同士で解決しようとしない。必ず不動産会社を介する事。……そんなの、分かってる。 でも、あの男に注意が入ったとしたら何を言われるか分からない。逆上して、あること無いこと吹き込まれ兼ねない。 「……あ、そうだ」 不穏な空気を察したのか。独り言ちながら、彼がズボンのポケットから携帯を取り出す。 「例のイラスト、昨日描き上がったんだよ。……見る?」 親指で操作しながらそう言い、僕に画面を向ける。 夕焼け色に染まる世界。 風に靡く髪を掻き上げ、微笑む少女。 それは幻想的でありながら、色彩やタッチは妙にリアルで。よく見れば、少しずつ違う色が幾重にも重なり合っていて…… 「……すごい……」

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