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第3話

「凄くないよ。この程度なら、世の中に掃いて捨てるほどいるから」 ため息混じりの、投げやりな言い方。 画面から彼へと視線を移せば、その顔に陰りが見えた。 「……なんてね」 僕と目が合った瞬間、本音を隠すかのように彼の口角が大きく上がる。 「結構自信あったんだけど、クライアントからダメ出しくらっちゃって。それで、気晴らしに散歩でもしようかと思ってた所なんだ」 「……」 何でこれが、やり直しなんだろう。 僕に芸術の才はないし、プロの目から見たらそうなのかもしれないけど。 「あ、そうだ。君をモデルにして描いてもいいかな」 「……え」 さらりと飛び出た台詞に、耳を疑う。 「実をいうと。この絵を仕上げている間、夕陽に映える君の姿が頭から離れなくてさ。……多分、そういう雑念を見抜かれたのかもしれない」 優しげに揺れる瞳。 もう夕方にも関わらず昼間のような暑さが残っているのに、こめかみの辺りから伝う一筋の汗が爽やかなものに見える。 それは、数日前の夕方── アパートの階段を上りきった所で、彼が構えていたカメラに偶然映り込んでしまった。 その時初めて声を掛けられ、イラストレーターであることや、その資料として夕焼け空を撮影していたことを、画像を見せながら説明してくれた。 そして──作品が仕上がったら、僕が映り込んでしまった画像は必ず消去する、と。 「……」 僕を、モデルに…… 目を伏せ、自分を抱くように右の二の腕を掴む。 もし竜一が知ったら、快く思わないかもしれない。 「……あっ、別に。 改めてモデルの撮影をお願いするつもりはないんだ。 あの時撮った君の写真、実はデータがまだ残っていて。それを元に、描いてみてもいいかなって……」 乗り気でない様子に気付いたのだろう。慌てた様子で言葉を付け足す。 もしここで僕が断ったりしたら、この人にとって気晴らしの外出が徒となってしまう…… 「……そういう、ことなら」 怖ず怖ずと視線を上げながら答えれば、よっぽど嬉しかったんだろう。 晴れ晴れとした爽やかな笑顔を浮かべていた。 「ああ、良かった。ありがとう」 携帯をパタンと閉じ、ジーンズのポケットに仕舞う。 「じゃあ早速、戻って取り掛かろうかな。……あ、お出掛けの邪魔してごめんね」 片手を上げ、来た時と同様軽快に階段を駆け上がっていった。

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