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第5話
……違う。
そうじゃ、なくて……
瞬きをしながら目を伏せ、首を小さく横に振る。
この幸せな日々がずっと続いて欲しいのに。もし突然、目の前で奪われてしまったらという不安が常に付き纏っていて。
もし、竜一に愛想を尽かされて、捨てられたらと思うと……
「……まぁいい。食え」
少しだけ穏やかな口調に戻ったのに気付き、瞬きをひとつして視線を上げると、掬ったカレーを口に運んでいる竜一の姿が視界に映った。
「うん……」
*
布擦れの音。
鼻先に掛かる吐息。
照明を落とした薄暗い部屋の中、布団の上に組み敷かれた僕は、首筋に顔を埋められる。
「……」
まだ、怒ってるのかな……
掴まれた手を顔の横に縫い付けられ、重ねられた肌の温もりや鼓動を感じながらも、竜一の本心までは見えない。
リップ音を立て、肌に吸い付く唇。
いつもなら、触れられただけで愛おしさが込み上げてくるのに。
……何で。
なんでこんなに、身体が震えるんだろう。
まるで、空っぽの身体──暗闇に放り込まれ、何者かに襲われているみたい。
「……」
ここにいるのは、竜一だよね……
確かめたくて。浅い呼吸を繰り返しながら視線を向ける。逞しい肩と項が視界に映り、微かに竜一の匂いがした。
……やっぱり、竜一だ。
竜一以外の人が、ここにいる筈なんてない。
両手を背中に回し、竜一の感触を確かめるのに。重なり合う筈の胸の鼓動が感じられず、胸の奥に不安ばかりが募っていく。
ゾクッと粟立つ肌。
触れられる度に切り離されていく、心と身体。
……違う……
違う……
ここにいるのは、竜一だ。
視界の端から黒い靄が覆っていき、あの日の恐怖が鮮明に蘇る。
意思とは関係なく身体が小刻みに震え──冷静になろうとする思考を破壊していく。
……はぁ、はぁ、はぁ、
上擦る呼吸。
合わせた胸と胸が離れ、黒い人影が闇の中へと吸い込まれるようにして上体を起こす。
「……」
……やだ、竜一。
竜一。竜一。竜一……
叫ぼうとするのに、声が出なくて。
四方八方から現れる無数の手が、僕の足首や太腿をを掴み、頭の方へと押し上げる。
「……っ、!」
不様に晒されるお尻。
その割れ目に沿って指が這われ、小さな窄まりを見つけると、そこに指先が宛がわれる。
「ゃ……」
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……
脳内に蘇る、カビと煙草の混ざった臭い。
締め切られた真っ暗な部屋。
その中で鋭く光る、カッターの刃先──
違う。
これは、下階に住む──性欲に塗れた男達の手だ。
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