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第8話
「……りゅういち、は?」
しんと静まり返った空間に響く、弱々しい僕の声。
だけど、竜一の温もりを感じながら微睡む僕の胸の内にも大きく響いて、少しだけ現実味が帯びてくる。
「不満とか、ないの?」
もしあるなら、ちゃんと言って欲しい──僕の直して欲しい所とか。やって欲しい事とか。
竜一の望みどおりにするから。理想のオンナに近付けるように、努力するから。夕食の時みたいに、下らない嫉妬や疑いなんて持たないから。
だから、何でも言って……
縋り付くように竜一を見上げれば、合わせた視線を外し大きな溜め息をつく。
「もう、腹括った話だが。
ここん所ずっと、会長がお前に会いたがっててよ」
「……え」
会長って……
まさか、虎龍会会長の──美沢大翔が?!
「切羽詰まっていたとはいえ、生活の資金と職を用立てて貰ってるからよ。ノーと言える立場じゃねぇってのは承知の上だ」
「……」
……なんだ。建設会社の会長さんか。
でも、そうだよね。竜一はもう、暴力団とは何の繋がりもないし。幾ら向こうが僕の義父だと言い張っても、何の関係もない人だから。
「だがよ。その弱みに付け込まれるつもりは毛頭ねぇ」
「……え」
どうして……
僕達が生きていくためのサポートをしてくれた人なのに。
向こうが会いたいっていうなら、きちんと会って礼を尽くさなきゃ……
「──チッ。アイツはお前が思ってる程お人好しじゃねぇ」
「……」
「俺はこの数年間、色んな人間のドロドロした部分をこの目で見てきてんだ。一筋縄ではいかねぇ野郎だってことぐれぇ解るんだよ。
無害そうな面していい人ぶって、必要以上に距離詰めてくる奴ほど腹ん中は真っ黒だって事もな」
言われてハッとする。
確かに、笑顔で近付いてくる奴らの多くは、アゲハに近付くために平気で僕を踏み台にした。
利用価値がないと解ると、突然手のひらを返して、僕を遠巻きにしたりもして。
「ついでに言うが。組にいた頃、俺に近付いてきたキャバ嬢やホステスは、殆どがハニトラだ。
お前に近づいてきた写真の男も、誰かの差し金かもしれねぇ」
「……」
「もっともらしい業者がここを尋ねてきても、簡単にドアなんざ開けるんじゃねぇぞ」
捲し立てるように言った竜一が、ハニトラという言葉の前後で声が微かに揺らいだのに気付く。
恐らく僕と同じ……裏社会を生きてく上で、逃れられない場面があったんだろう。
それをハニトラという言葉で包んでくれたのは、僕を安心させる為だ──
「……ん、」
鼻から抜けるような声で小さく返事をすれば、僕の背中にあった竜一の手が一度離れ、僕の後頭部をそっと撫でる。
その指先が、僅かに震えていた。
「もう、あんな思いは……二度と御免だからな」
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