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第12話

「……」 ぞわり、と全身総毛立つ。 脂肪で分厚くなっている瞼が僅かに持ち上がり、その奥に潜む濁った眼が僕を捉えて離さない。 「それとも……同居人が暴力団の人間だって、大家にバラされてもいいの?」 「……」 「こっちは証拠が揃ってるんだ。いうことを聞かないと、どうなるか……わかってるよね?」 「……」 この人は、暴対法──暴力団対策法の影響で、組員関係者やその繋がりのある人達を排除する世の中になっているのを知ってる。そのせいで、暴力団自体が弱体化しているのも知ってるからこそ、こんな脅しみたいなマネが平気でできるんだろう。 「……簡単だよ。衣装ならうちに置いてあるから、それに着替えて撮影会をするだけ」 「……」 「なんにも難しくないよね?」 僅かに甘え付くような声色。 誘導の仕方はおかしいけど、どうしても僕を着せ替え人形にしたいらしい。 「……」 こんな所で撮影するのもどうかと思うけど、大切なサイン色紙を汚してしまったのは事実だ。 もし僕を陥れようとする為に仕組んだ罠だとしても、わざわざ自分の宝物を踏ませるような真似をするだろうか。 「……それ、だけなら」 視界の端に映る、足跡の付いた色紙。 僅かながら苛まれる罪悪感。 『こっちは証拠が揃ってるんだ』──もし僕のせいで、アパートを追い出されることになったら…… そう思うと、男の視線に耐えながら渋々条件をのむしかなかった。 * ツンと鼻を刺激する臭い。 キンキンに冷やされた室内。 散乱する靴。壁際に積まれたゴミ袋。 二人掛けの薄汚れたソファには服が乱雑に引っ掛けられ、テーブルには空のコンビニ弁当が幾つも放置されている。 「……」 テレビやパソコン周りには、キララちゃんと思しき8等身のフィギュアや、 アクスタ等のグッズが並んでいる。 「はい、これ」 手渡されたのは、備え付けのクローゼットから引っ張り出された、未開封のコスプレ衣装。 「えーっと。……じゃあそこで、着替えてくれる?」 「……」 指された方を見れば、半開きの白い間仕切りカーテンの向こう側に簡易ベッドがあった。

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