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第24話

「最近、自称イラストレーターの男が貴方に接触したでしょう。 あれは我々が派遣した、調査員の一人です」 「……え」 思い出されたのは──アパート二階の外廊下で夕焼け空の写真を撮る、田辺悟。 パーマの掛かった髪の毛先が風に揺れ、カメラを構える彼の姿が斜陽の鮮やかな光に溶け込んでいた。 「次のターゲットが貴方であると確信した為、貴方にどれだけ危機管理能力があるかを、少し試させて頂きました。 ……が。その能力の無さに、愕然としました」 「……」 「もしうちの調査員が、本物のキチガイだったとしたら。今頃貴方のdataは加工され、ポルノ画像として拡散されていたでしょうね」 ……え な、んで…… 撮られた写真データを、その場で消して貰わなかったから? 鉛を飲み込んだかのように、胃の辺りが重くなっていく。 「入院中に事情聴取を受けたのなら、もうご存知かもしれませんが。貴方がアパート近くの歩道で踏んだとされるサイン色紙は、あの男自身が書いた偽物です。 色紙に貼り付けたミシン糸を長く垂らして待ち伏せ、貴方が通るタイミングを見計らって引っ張り、わざと踏ませたのです」 「……」 「罪悪感を植え付けられた貴方は、無下に断れずあの男の部屋に上がった。 恐らくこのタクシーに乗ったのも、それに近いものがあったのでしょう」 「……」 違う…… この人からは、あの男のような嫌な感じがしなかったから。 それに。竜一と一緒に部屋へ入って来たという事は、少なくとも── 「……まさか。 山本さんの知り合いだから、という単純な理由だけではないですよね」 「──!」 前を見据えているNの黒眼が、ゆっくりと此方に向けられる。 鋭く尖ったそれは、僕を責めるような、哀れむような冷ややかさで。まるでナイフの刃先を心臓に当てられたように……息が、できない。 「貴方は今まで、何を学んできたというのですか? 無条件に手を差し伸べてくる相手に、手酷い裏切りをされた事なら沢山あるでしょう?」 「……」 「まぁ……“穢れない心”と捉えれば、それも貴方の魅力のひとつなのかもしれませんが」 * ハザードランプを焚いたタクシーが、アパート前の路肩に停まる。 「……」 あれだけ不安を煽ったにも関わらず、ちゃんと送り届けてくれた。 やっぱり、悪い人ではなかった……のかもしれない。 「……ありがとう、ございました」 軽く頭を下げ、タクシーから降りる。 その一連の動作の間も、Nは真っ直ぐ前を見据えるだけだった。 もう、僕という存在など見えていないかのように。

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