25 / 27

第25話

タクシーを見送った後、アパートへと続く歩道を歩く。 シャワシャワ、シャワシャワ…… 事件があったというのに、辺りは静寂に包まれていて。 まるで、何事もなかったかのよう。 「……」 ふと見上げると、アパートの二階からカメラを構えている人と目が合った。 乾いた音を響かせ、外階段を上がる。外廊下に辿り着き奥の方へと視線を向ければ、爽やかな笑顔を浮かべた田辺が、此方に身体を向けた状態で柵に寄り掛かっていた。 「こんにちは」 隣には、大きめのバックを重ねたキャリーバッグ。 旅行……にしては、随分と荷物が多い。 「突然だけど、引っ越しをする事になったんだ。 だからその前に、データを消去する所を見て貰いたくて」 「……」 そう言われ、警戒しながら近付く。 その様子を確認した田辺が、首に掛かったデジカメの紐を外し液晶画面を操作する。 「Nから聞いてるかもしれないけど、僕はdel.の派遣調査員なんだ。イラストレーターと言ったのは、咄嗟についた真っ赤な嘘」 「……」 「ごめんね。わざと君の写真を撮って、試すような事をして」 優しい口調で言いながら、少しだけ距離を取る僕に見えるよう画面を傾ける。 「その事について、Nにキツい事を言われたかもしれないけど。……僕は、君のその真っ直ぐな純粋さが怖いと思ったよ。何だか、自分の良心を試されてるような気がして」 「……」 「でも、きっと……あの卑劣な男のような犯罪者達は、そんな風に感じたりしないのかもしれないけど」 『全消去』──全てのデータが、一瞬で消える。 もし今回の事件も、ボタン操作ひとつで、綺麗に消えてくれたら── ……シャワシャワ、シャワシャワ 突然の、軽い眩暈。 『もしうちの調査員が、本物のキチガイだったとしたら……』 やたらと脳裏に反響する、Nの残した台詞。 もしこの人が、データを別の媒体に移し、隠し持っていたとしたら…… 今更になって後悔の念が押し寄せ、汗の滲む身体に寒気が走る。 「del.は元々、君の為に立ち上げられた組織(チーム)だったんだよ」 「……え」

ともだちにシェアしよう!