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第25話
タクシーを見送った後、アパートへと続く歩道を歩く。
シャワシャワ、シャワシャワ……
事件があったというのに、辺りは静寂に包まれていて。
まるで、何事もなかったかのよう。
「……」
ふと見上げると、アパートの二階からカメラを構えている人と目が合った。
乾いた音を響かせ、外階段を上がる。外廊下に辿り着き奥の方へと視線を向ければ、爽やかな笑顔を浮かべた田辺が、此方に身体を向けた状態で柵に寄り掛かっていた。
「こんにちは」
隣には、大きめのバックを重ねたキャリーバッグ。
旅行……にしては、随分と荷物が多い。
「突然だけど、引っ越しをする事になったんだ。
だからその前に、データを消去する所を見て貰いたくて」
「……」
そう言われ、警戒しながら近付く。
その様子を確認した田辺が、首に掛かったデジカメの紐を外し液晶画面を操作する。
「Nから聞いてるかもしれないけど、僕はdel.の派遣調査員なんだ。イラストレーターと言ったのは、咄嗟についた真っ赤な嘘」
「……」
「ごめんね。わざと君の写真を撮って、試すような事をして」
優しい口調で言いながら、少しだけ距離を取る僕に見えるよう画面を傾ける。
「その事について、Nにキツい事を言われたかもしれないけど。……僕は、君のその真っ直ぐな純粋さが怖いと思ったよ。何だか、自分の良心を試されてるような気がして」
「……」
「でも、きっと……あの卑劣な男のような犯罪者達は、そんな風に感じたりしないのかもしれないけど」
『全消去』──全てのデータが、一瞬で消える。
もし今回の事件も、ボタン操作ひとつで、綺麗に消えてくれたら──
……シャワシャワ、シャワシャワ
突然の、軽い眩暈。
『もしうちの調査員が、本物のキチガイだったとしたら……』
やたらと脳裏に反響する、Nの残した台詞。
もしこの人が、データを別の媒体に移し、隠し持っていたとしたら……
今更になって後悔の念が押し寄せ、汗の滲む身体に寒気が走る。
「del.は元々、君の為に立ち上げられた組織 だったんだよ」
「……え」
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