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第5話
四本王5話 鴉天狗の桜天
キャラクター紹介
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狐紅との約束を果たすため、王は王族図書館にいる桜天の元に向かった。
数万冊の巻物が揃えられている荘厳な図書館には、窓際の席に桜天が座っているだけで他は誰もいなかった。
「何の巻物を読んでいるんだ?」
「建国学を学んでおります。お邪魔でしたら移動いたします。」
「自由にどこでも使ってくれて構わない!」
「先ほど申し上げたました通り、私に構う時間は無駄です。狐紅のところへどうぞ。」
「うむ!では我が勝手に喋る!」
「はい?」
王は桜天の横の席の椅子をひき、腰を掛ける。
「...私の話を聞いていらっしゃいましたか?」
「うむ!勿論聞いていた!嫁入りのことは置いておき、桜天と話してみたいと思っただけだ!それは昨年改訂版の巻物だな!初代国王の建国二儀の詳細解説か!建国の儀式は諸説あって改訂が多いから面白いよな!」
「そうですね、せっかく覚えても翌年には別の事実になっていたりしますからね。」
それから何日か、図書館で勉強する桜天の横で王が茶々を入れるのが日課になった。桜天は最初は一応の返事をするだけだったが、王が喋る知識が巻物以上に興味深いものであるため、段々話に耳を傾けるようになっていった。
「今日は軍略学の妖全華国式近衛妖兵法か!この第十五計は二年前の実戦で破られてな!それで対応策が検討されて、内容が改訂されたんだ。たしか一版前の巻物がここらへんに...お、あったあった!」
「王は本当に博識ですね。我々などより何倍もお忙しいでしょうに、この図書館にある巻物のことは全て覚えてるんですね...」
「薔薇宮殿に入る本は全て目を通すようにしている!せっかく書いてくれた著者に悪いからな!」
「素晴らしいですね、私は自分が恥ずかしいです。妖兵としての知識しか学んでいない筈なのにその知識すら十分に無い。」
「そんなことは無い!妖兵は国を守るために日夜実働隊として働いてくれているだから時間がなくて当然だ!遠征など一度行くだけで数ヶ月はかかる!」
王は、桜天が話をしてくれるようになってきて嬉しい反面、その聡さ故にある違和感に気付いてしまった。しかし、その違和感について聞くことは桜天を疑うことだった。聞くべきか数日迷ったが、横目で妖兵法問題を解く桜天を見ているうちに疑いが確信に変わってしまった。
「桜天、我の勘違いだったらすまない。妖兵法第六陣形の実戦を想定した演習問題を桜天はこの一週間で三回は取り組んでいたと思う。」
「はい、仰る通りです」
「この演習問題は本年度の宮廷試験にも出た。我が記憶しているのが誤りで無ければ、当時第四百部隊だった桜天達はこの演習問題を出題側が求めるよりも早い最短式で回答に辿り着いていた。あまりに美しい式だったからよく覚えている。」
「...薔鬼王様はお優しいですね。ご推察の通りです。宮廷試験時、この演習問題を解いたのは私ではありません、狐紅です。私は宮廷試験後、何回やっても解くことが出来ておりません。本来なら部隊隊長である軍略兵の私が解けていないのはあってはいけないことです。実力を詐称しており申し訳ありませんでした。」
桜天としては、この事実を告げるのは己の気持ちの整理が必要であった。己は狐紅より劣っている、とハッキリ自ら言葉にしなければいけないから。
そう、狐紅は自分などより優れているのに___。
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時を遡る。
桜天と狐紅は家が隣同士の幼馴染だった。何をやらせても卒なくこなす優秀な狐紅を、桜天は羨ましく思っていた。それなのに、狐紅はいつもまとめ役など明らかに狐紅の方が向いているものを自分に押し付けてきた。
だから桜天は、狐紅は劣っている自分を馬鹿にして楽しんでいると思っていた。事実、狐紅より劣っている自覚があったので反論することも出来なかった。
練兵校一年目。桜天の予想通り狐紅は一番優秀な第一部隊に配属された。狐紅の実力なら当然だと思う反面、己との実力差を目に見えるかたちで見せつけられたのは辛かった。
(仕方が無い、私は狐紅のように天才では無い凡人なのだから___)
しかしあろうことか、狐紅は二年目以降手を抜き始めた。授業にも碌に出ず、遊び呆けているらしい。四年目には自分と同じ隊になるほどに落ちぶれていた。
(何をやっているんだ!お前ほどの才能がありながら!)
そして、狐紅は何を思ったのかこの年以降、自分と同じ隊に配属されるようになった。狐紅の知力を考慮すれば、わざとであるのはすぐわかった。
(そんなに、私を馬鹿にするのが楽しいのか)
そして、信じられないことに狐紅は本番の妖兵入団試験でも手を抜いた。配属は第八百部隊、自分と同じ隊。
(それ程の才能があるのに何故!!!私はどれだけ努力してもお前の足元にすら及ばないのに!!!)
自分の才能の素晴らしさを無駄にする狐紅に、心の底から腹が立った。
桜天と狐紅が二十二歳の時。
向蛇と雪椿が配属され第四百部隊にまで出世した。そんな時、狐紅が宮廷試験を受けるのを提案してきた。
狐紅に言いくるめられて試験を受けたが、悲しいくらいに自分だけが全く役に立たなかった。
体力試験は向蛇のずば抜けた体力で問題無く通過。顕在試験と治癒試験は基準に届かなかったが体力試験での加点を踏まえると、合格基準には届きそうだ。雪椿が顕在試験をギリギリまで頑張ったお陰だった。
しかし、問題は知力を測る筆記試験だった。出題された問題は妖全華国式近衛兵法第六陣形の実戦を想定したものだったが、何から手をつけたら良いか全くわからなかった。
制限時間は一時間、五分経っても、十分経っても問題文を何度読んでも、私には何を求められているのかすらわからなかった。
三十分を経過した頃、私の横で狐紅が解答の記入を始めた。狐紅は三分ほどで筆を置いた。
そして数日後、第四百部隊は宮廷試験に合格し、第百部隊へ出世した。試験結果が届くと、知力試験は満点どころか満点に応用点が加点されていた。
私だけが、何も貢献しないまま実力不足で合格したのだ。本来なら合格基準の知力を持つ狐紅が隊長である軍略兵になるのが筋だった。
「筆記を解いたのはお前だ、お前が隊長の軍略兵をやれ!」
「ええ〜、俺隊長とか向いてないし〜!だいたい宮廷試験は隊の総合値で合格点が決まるんだから誰が解いたとかあんまり関係なくな〜い?」
(私は、あの問題が全くわからなかったんだぞ!)
「ぼくもさっちゃんが良いと思う!」
「僕も賛成です...失礼ですが狐紅さんだと、隊として成り立たなそうで...」
「雪椿ひど〜!まあその通り〜」
(私だけ、宮廷試験に貢献できていないのに)
実力詐称のまま、私は宮殿仕えになった。
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「実力詐称など!狐紅の言う通り、宮廷試験は隊の総合値だ!隊の誰かが問題を解ければ問題ない!」
「...それは問題を解いた狐紅が部隊に在籍し続ける場合です。狐紅はおそらく薔鬼王様の嫁になるでしょう。そうしたら狐紅のいない第百部隊は宮殿仕えでいる資格を失います...。」
桜天は、視線を巻物に向ける。
「...なんとか狐紅が居なくなる前に解こうと試みたのですが駄目ですね。二週間でどうこうできる問題ではありませんでした。期限の一ヶ月後私は妖兵に戻りますが、どうぞ下級兵に降格なさってください。私にこの地位にいる実力はありません。本来ならば私から申し上げるべきお話でした。薔鬼王様に言わせてしまい申し訳ありませんでした。謝罪いたします。」
「我は人を見る目には自信がある!」
「はい?」
「不快に思うかもしれないが、その上で言わせて貰う!桜天は当主とか、一番上に立つ役割は向いてないと思う!」
「そんなことを言われたのははじめてです...」
だって、自分は産まれた時から当主になることが決まっていたのだ。
その道しか無いと、直向きに進んできたのだ。
「宮廷試験には明らかにされていない採点基準がある。桜天はこの点の加点が一番多かった。」
「そんなものがあったのですね...」
「うむ!それは隊への心理貢献度だ!」
「心理貢献度...?精神力とは別のものですか?」
「うむ!精神力はあくまで個人の心の強さだ!心理貢献度は、対人基準だ!部隊員に対する態度を見ている!」
「私は、宮廷試験で碌な活躍はしておりません。」
「本人がそう感じるのも無理はない!だが、桜天。当時第四百部隊だった部隊員が力を引き出したのは君のおかげだ!」
「私は何もしておりませんよ?」
「試験会場に入ってきた時、第四百部隊は他の受験者に対して歳若く未熟さが目立っていた!しかし君は自身も未熟な自覚がありながらもずっと隊員たちに声をかけ続けていた!それに、精神力試験での負傷兵役の心を気遣った励ましは見事だった!」
そんなところを見られていたなんて___
自分は唯一、宮廷試験では第四百部隊のお荷物だと思っていた。
「心理貢献度は採点基準に入るからという理由でしたものは、嘘の気遣いとなり意味を為さない。だから表立っては採点基準として公表はしていないんだ!」
「成程...」
「で、話を戻す!我は宮廷試験での桜天の振る舞いを見て、人の前に立つ先導役ではなく、人に寄り添う支え役が適役だと思った!だから我の嫁になって一緒に公務をして貰うのはすごく向いていると思うのだ!」
「お言葉ですが、私の適性など関係ありません。生まれつき私の生き方は家に決められております。」
「うむ!そう言うと思ったぞ!鴉天狗一族には既に話をつけてある!弟の桃天が代わりに跡を継いでくれるそうだ!」
「...流石に嘘でしょう?」
「本当だ!嘘だと思うなら羽根通信をしてみたらいい!」
桜天は疑いながら王の言う通り通信を試みる。
鴉天狗一族は、鴉天狗の妖力が込められている烏の羽根を頭飾りでつけている。この羽根を通じて一族同士で通信ができるのだ。
桜天は実家の屋敷に念を送った。
「はい、鴉天狗一族の屋敷でございます。」
「私だ。父上か桃天はいるか。」
「あらおぼっちゃま!桃天様がいらっしゃいます、お待ちくださいませ。」
「兄上〜!お久しぶりです!どうしたんです?」
「...間違いだったらすまん、念のため聞きたい。お前、当主になる気があるのか?」
「あ!薔鬼王様から話来たんです?うん、別に私が当主で良いですよー!兄上は王様の嫁になるんですよね!父上も喜んでましたよ!」
「...軽くないか...?」
「だって、私としてはさー?ぶっちゃけ兄上は狐紅君のお嫁さんになると思ってたんですよ〜。まあ私も学生時代からお二人の念写紙を撮りまくって小遣い稼ぎさせて貰ってたんで、恩返しくらいはしようと思いましてね!だから当主になる準備は前々からしてたんですー!」
「な、何で狐紅が出てくるんだ!狐紅は関係無い!」
「出た出た兄上のツンデレー!駄目ですよ兄上〜?狐紅君なんてめっちゃイケメンなんだから捕まえとかなきゃすぐ他に取られちゃいますよ〜!一緒に仲良く嫁入りしとかないと〜!まあ兎に角、当主問題は大丈夫でーす!」
「厳格な父上が許す訳ないだろ」
「あ〜...兄上知らないんでしたっけえ...この際これもぶっちゃけちゃうんですけど!父上は薔鬼王様のガチオタなんですよ!」
「は?」
「兄上、父上の書斎入ったことないでしょ?」
「入るなと言われていたからな」
「私、偶々扉が空いた時に見てしまったので父上に暴露されたんですよー!父上の書斎!薔鬼王様の念写紙でいっぱいな訳!ほら〜!薔鬼王様ってやばいくらい色男じゃないですか〜!父上、最初の謁見で会った時からメロメロになっちゃったみたいでして!一ヶ月前薔薇宮殿から兄上を嫁にしたいです!って書簡が来たときやばかったですよ!なんかよくわからない舞踊りながら「桃天!やっばくない?!わし、推しが義理の息子になっちゃう?!カーカー!」って滅茶苦茶喜んでましたよ!」
「...それは...本当に私の知ってる厳格でいつも礼儀正しい父上なのか...?別人すぎる...」
「私は事故で見ちゃいましたけど、本当は息子にオタバレしたくなかったみたいですね!でも一回私に推し語りしたら楽しすぎたみたいです!恥ずかしいから兄上の前では隠してたみたいですね!」
「そうなのか...」
「そうなんですよー!だから父上としては寧ろ推しと親族になれる!是非嫁にどうぞ!くらいの勢いなんですよー!」
「私の知らない内に勝手に嫁入りが決められてたのか...」
「まあ私も勿論美味しいところはいただきますよ!薔鬼王様に、兄上を嫁にあげる代わりにおっぱいのでかいお姉さんを紹介してくれるよう頼んだんですー!」
「知らない内に更に外堀が埋まってる...」
「だから父上と私の為に、薔鬼王様にいっぱい色目使ってきてくださいねー!」
「い、色目?!」
「も〜兄上なんて顔可愛いから、服はだけさせてくっついときゃ良いんですよー!あ、あと薔薇宮殿の兄上宛で念写盤をお送りしましたので薔鬼王様の念写いっぱい送ってくださいね!父上に高値で売りつけるんです〜!それではー!」
最後は桃天が一方的に捲し立て、プッと羽根通信は切れた。
桜天が呆気に取られて王の方を見ると、にこりと微笑んでいた。
「...私の知らない間に色々されてたんですね」
「桜天は真面目で頑固そうだったからな!周りから攻めた方がうまく行くと思った!」
太陽のような眩しい笑顔で王は答えた。
とは言え...王が先程言っていた自分の適性については薄々感じてはいた。自分は当主には不向きだと。しかし家に決められたことだからと無理矢理に己を奮い立たせて生きてきた。本当は狐紅のような非凡な能力がある者や、桃天のようになんだかんだ要求を飲ませる強かさな交渉の才能がある者の方が向いているのはわかっていた。
自分は真面目すぎる。意思を決定することや交渉ごとには向いていない。最早家からの圧力も無くなった今、無理して不向きな道に進み続ける必要は無くなった。
少しの間、迷う___
心を決め、王に向き合う。
「私は、薔鬼王様が切り開いた新しい道を信じてみようと思います。嫁入りの話お受けいたします。」
「うむ!我は嬉しいぞ!」
王は桜天を抱きしめた。
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桜天が嫁入りを決めたため、王は桜天を連れて狐紅の元へ向かう。
「狐紅!我は約束を守ったぞ!」
「あれ〜?桜天、嫁になることにしたの〜?」
「ああ」
狐紅は目を見開き驚く。だがすぐにいつもの余裕あるにんまり顔に戻り、ぺちぺちとやる気のない拍手をした。
「お見事です王サマ〜!いやー本当に達成すると思いませんでした〜!」
「約束って何ですか?」
「我が桜天を嫁にできたら、狐紅も嫁になると約束したんだ!」
桜天の形の良い眉間に皺が寄る。怒っているようだ。
「狐紅、何でそんな条件を出した?」
「ん〜?腐れ縁が続くか賭けた感じ〜?」
「そんな適当な理由で自分の人生を決めるんじゃ無い!」
「も〜桜天が真面目すぎ〜!」
「まあまあ二人とも喧嘩するな!可愛い顔が台無しだぞ!今日はもう遅い、夕食にしよう!」
場所は変わり、晩餐の間。
全員嫁入りを決めてくれた記念で、久々に王と嫁四人が揃っての食事となった。桜天も最初は向蛇と雪椿に久しぶりに会えた喜びで顔に笑顔が戻ったが、狐紅に怒っているようで、態度に出しこそはしないものの張り詰めた空気が続いていた。
向蛇と雪椿はヒソヒソ話をする。
「さっちゃん怒ってるねええ」
「あれは相当怒ってる様子ですね...」
王もヒソヒソ話に加わる。
「わかるのか?」
「あの二人、小さいからの幼馴染なんです。それで部隊を組んでた時も、何回か狐紅さんが桜天さんを怒らせたことがあったんです。大体いつも三日くらいはあんな状態でした。結局、いつも通りの態度の狐紅さんに桜天さんが折れて元に戻る感じです。」
「ウハーーー!イケメン幼馴染ケンカップル?!ウッ...凄く良いな...では暫くケンカップルを楽しも...ではなく様子を見よう!」
「ぼくたちはあの状態にハラハラしてたのにい...しょーちゃんは色々な状況を楽しむ天才だあ!」
「可愛い妻に褒められて嬉しいぞ!」
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しかし今回は五日経ってもその状態が続いた。
「全く仲直りしないですね...」
「これだけ長いのははじめてだねえ!」
「うーん、最初はケンカップル最高!と思っていたが、流石にしょんぼりな狐紅を見るのが可哀想になってきた!ここは我の仲直り作戦と行くか」
「仲直り作戦...とは何ですか...?」
「うむ!寝巻談話である!」
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次回!幼馴染ケンカップルを仲直りさせよ!
でも王の色気で桜天はそれどころじゃない!
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